それは間違っている
「……それで栞は誰が好きなんだ?」
放課後、私は先生と一緒に校庭でチョコレートを食べて時間を潰している。
文ちゃんとのキスが見つかって今後のことについて私を除いた三人で話し合うことになり、私はその間部室の外に出ていくことになった。
そして同じく部室から追い出された先生と一緒に昼休みに一緒に食べている場所で共に雑談をして過ごしていた。
「誰って……?」
「恋人のことだよ。お前が好きなのは文なのか? それとも椿か柚のどっちかなのか?」
先生が私に対して問い掛ける。私が好きな人は誰なのか。
その問いに対しての答えは簡単だ。全員が大好きだ。
それ以上に答える言葉はない。でも先生が聞きたいのはそういうことではないのだろう。
恋人として自分が一緒にいたいのは誰なのかとそう先生は聞いているのだ。
だけども今の私はもう何も分からなかった。何も考えたくなかった。
愛してくれれば誰でも良くなってしまった。だから先生への答えも決まっていた。
「……私は誰でもいいよ」
「……誰でもいいって事はないだろ。そもそも私はこの状況そのものがおかしいと思っているんだ」
「……この状況?」
「私が閉め出されるのは分かる。部外者だからな……でもお前は部外者じゃないはずだ」
「それは……」
「そもそも三人で話し合ったところでそこに本人がいなければ意味がない。お前は自分の好きな人を他人に決めて貰うつもりか?」
先生の言っていることは正論だ。三人は私との今後の関係について話し合っている。
でも私との関係について話し合うのならばそこに私自身がいる必要がある。
なのに文ちゃん達は私を外させた。その心理自体は分かる。
要するに彼女達は今話し合いをしているのではなく言い争いをしているのだ。
故に自分の醜いところを見せたくなくて三人は私を追い出したのだ。
故に私との関係を話すはずなのに本人が不在という奇妙な状況が起きてしまっていた。
「仮に話し合いで椿がお前の恋人になったとして栞はそれで納得できるのか?」
「……それは分からないですけど」
「すぐに決められないのならそう伝えるべきだ。それも伝えず相手の意見を飲んでそれで付き合っても恋人とは言えないと思うがな」
「……私はもういいんです。何もかも……」
「栞……?」
先生は不思議そうに私を見るけれど私はそれを無視するとタイミング良くスマホから電話が掛かってきた。
出たのは文ちゃんで話し合いが終わったから教室に来て欲しいとのことだった。
「文ちゃんから連絡が来ましたけど先生も来ますか?」
「私は顧問だからな。勿論付いていくよ。そもそも生徒が顧問を部室から追い出すこと自体がおかしいんだ」
先生は拗ねたように呟くと私を心配そうな目で見たまま私の後ろを付いていった。
ーーー
「栞……ごめんなさい。待たせてしまって」
教室に入ると椿ちゃんが力のない声で迎えてくれた。
いや疲れているのは椿ちゃんだけではない。文ちゃんも柚ちゃんも疲弊しているのは目に見て明らかだった。
「それで誰が栞の恋人になったんだ?」
先生が半ば溜め息混じりに聞いてきた。それに対して椿ちゃんはそっと私の手を握る。
「みんなで話し合ったの。誰が栞の恋人になるべきか……そして最終的にこうなったの」
「椿ちゃんが私の恋人?」
それに対して椿ちゃんは曖昧に笑う。いや曖昧な表情をしているのは椿ちゃんだけではない文ちゃんも柚ちゃんもみんな何とも言えない中途半端な表情をしていた。
「私達は栞を共有するってことになったんだ。今週は椿が恋人、来週は私が、再来週は柚が栞の恋人になるんだよ」
「……ま、待て! 意味が分からない! 自分達が何を言っているのか分かっているのか? 正気じゃない」
先生が反論するがそれに対してみんなは目を背けるだけ。
本当はみんな分かってるんだ。こんな関係は間違っていると。
だけども全員がそれを選んだ。みんな自信が無かったのだ。自分が一番愛されていると。
「正気じゃないに決まってるじゃん。正気じゃないからこういう関係を私達は選んだんだよ」
「……文」
「とにかくこれは全員が納得したことなのよ。栞も……別に問題ないでしょ?」
「……私はみんながそれでいいならいいよ」
私はみんなに愛されている。それさえ感じることが出来れば問題ない。
むしろこうやって三人が私を好きだと言っているのはとても嬉しいことだった。
お母さんは私を必要としなかった。私がどれだけ愛してと伝えても愛してくれなかった。
でもみんなは違う。私のことを好きだと沢山嫉妬して苦しみながら私を愛してくれる。
だから今の状況が不思議と心地好かった。みんなが私を好きだといって嫉妬してくれているのが嬉しかったのだ。
「栞……お前はどうしたんだ。そんな奴じゃなかっただろ? 私をちゃんと振ってくれたじゃないか! こんなのは間違っている! みんな苦しむことになる!」
先生はそう叫ぶけど誰もそれに対して反応することはなく。
私は椿ちゃんの手を引いてこの部室から出ていったのだった。




