私は立花栞が嫌いだった
「好きなの……もし良ければ付き合って欲しいんだけど」
私ーー相嶋椿は放課後、誰もいない教室に嬉野文を呼び出して告白をする。
小説同好会に入って半年、気がつけば私は文のことを目で追うようになっていた。
文は明るくて友達が多い。休み時間は読書をするだけの暗い私とは違う世界の存在だ。
だからこそ本当は分かっている。自分の気持ちが叶うことがないということを。
でもーーそれでもこの気持ちを抱えておくのは私には耐えられないから。
例え振られるとしてもこの気持ちを伝えようとそう想っての告白だった。
実際私の告白を受けて文は困ったような表情を浮かべる。
分かっていたことだ。自分と文の接点はこの部活で何度か会話を交わすことだけ。
クラスは一緒だっていうのに私と文が話すことは滅多にない。
たまに話すとしても話し掛けてきた栞の会話に入る形で文が話す形で文はほとんど栞と話していて私はそれを見ることしか出来ない有り様だったりする。
つまるところ文にとって私という存在はただのクラスメイト、あるいはそれ以下の扱いなのは明白だった。
「一つ聞いてもいい? ほら私ってさ別に椿とそんなに会話したことなかったじゃん? なんで好きになったの?」
「ーーそれは……貴方の笑顔が素敵だったからその笑顔は私には出来ない笑顔でその笑顔を今度は私に向けて欲しいってそう思ったのよ」
栞と話している時の文の笑顔はとても輝いていて見ているだけで心が暖かくなる。
もし、その笑顔を私に向けてくれたらそんな考えがずっと頭に残るようになってしまったのだ。
「……分かっているの。私は貴方と親しくはない。会話だってそんなにしていないし友達ですらない……でも気持ちを伝えたかった」
「……そうなんだ」
文の目線が静かに下がり栞の机に移る。そしてしばらく私の方を見て諦めたように笑った。
「いいよ! 付き合っちゃおっか」
「いいの?」
それは予想外の言葉。本当に彼女の口から発せられた言葉なのかと自分の耳を疑う。
「まあ私も恋をしてみたいって思ってたし! これからよろしくね!」
文はそういって笑う。その笑顔は栞にではない私に向けられた笑顔だ。
その笑顔を見るだけで顔が熱くなり、自分がドキドキしているんだって分かる。
その時の私は幸せでずっと文と恋人でいれると思っていた。
でもーー
「それで栞と買い物に出掛けたんだけど栞ってば全然自分の食べたいものとか口にしないしさーー」
「その……文」
「んー? なに?」
「たまには栞以外のことを話したいんだけど……貴方が栞と仲が良いのは知っているけど私は栞のことよりも文のことについて話したいわ」
「そ、そうだよね! ごめんごめん」
私はすぐに分かってしまったのだ。文は私のことではなく栞のことが好きなのだと。
勿論私が自分から積極的に話し掛ける性格ではないことは理解している。
だから文と会話できず彼女は栞とばかり話している。
それは分かっている。でも私は彼女なのだ。それなら少しは文の方から話し掛けてきてもいいのに。
そして何とか会話してくれると思えば文は栞のことばかり話すのだった。
文が栞のことを話す度に私は栞という人間が嫌いになっていった。
何もしていないのに文から愛を受けている栞が許せないと思うようになった。
勿論これは単なる嫉妬。だけどもその嫉妬を割り切れるほど私は恋に慣れてはいなかった。
そんなある日、栞がこちらに顔を真っ赤にして話し掛けてきた。
いやそれは何も今日に限った話ではない。栞はいつも私と話す時、顔を赤くして私をずっと見たりしていた。
最初は知らない人相手に緊張しているのだと思った。
栞の第一印象は人見知りの内気な人という印象だったからそう思ったのだ。
でもそれは違うのだと気がついた。栞は私のことが好きなのだと彼女の私への接し方で気づいてしまった。
そしてそれは二年生になって栞に柚という彼女が出来ても変わらなかった。
相変わらず恋慕の眼差しで私を見て私が挨拶をするだけで嬉しそうな顔をみせる。
私は本当に最低な人間なのだろう。栞が私のことを好きだと知って私はこう思ったのだ。
文に愛されている栞が憎い。だから栞の心を滅茶苦茶にしてやろうと。
浮気を持ち掛けて沢山私を好きにしてその後に冷たくして嫌がらせしてやろうと。
ついでに柚との関係もぐちゃぐちゃにして部活にも来なくなれば尚更私は文を一人占め出来る。
そんな酷い気持ちで私は栞に浮気を持ち掛けて浮気関係になった。
そう私と栞の関係は恋慕から始まったのではない憎悪から始まったのだ。
でもーー栞はそんな私に純粋な恋を向けてきた純粋な気持ちを向けてきた。
手を繋ぐだけで必死になったり、クッキーをプレゼントしてくれたり。
彼女は文とは違う。文は私を見てはくれなかった。
でも栞は私を見て私を愛してくれた。その沢山の好意に気がつけば私の嫉妬は消え愛情に変わっていた。
栞だけは私をみてくれている。私を愛してくれているのだ。
ーーー
「それで話ってなに?」
放課後の部室。文の言葉に私と柚は黙り込んだ。
部室の中で私たち三人は静かにその場に立ち尽くしている。
文と栞のキスを目撃してから数日。私たちは話し合おうということになりこうして栞を抜いた三人で集まっていた。




