本当は二人きりで行こうという意味だったんだが
「栞……絵本読み終えたよー」
「うん……今日もありがとう」
私と文ちゃんが一緒に生活を初めて一週間。すっかり日課になってしまった絵本の読み聞かせを終えると文ちゃんは読んでいた絵本をしまった。
本来ならば絵本の読み聞かせは好きな人にだけしてもらうはずだった。
もっといえば椿ちゃんにして貰えればそれで良かったのだ。
だけども私は椿ちゃんだけではなく柚ちゃんのことが好きになり文ちゃんにも惹かれている。
結果としてみんなに絵本を読んで貰うことになった。
「そういえばさ……栞はなんで絵本を読んで欲しいの?」
「別に大した理由はないよ。憧れだったから……それだけ」
「憧れ?」
「周りのみんながお母さんに絵本を読んで貰ってるって聞いてね。少し羨ましいって思ったそれだけなんだよ」
昔、何度か絵本を読んで欲しいと我が儘を言ったことがある。
だけどもお母さんは忙しいからと言うだけで絵本を読んでくれたことは一度だってなかった。
その時の絵本を読んで欲しいという気持ちが今も残っていて私は好きな人に絵本を読んで貰うことを望んでしまうのだ。
「栞は絵本を読んで貰って幸せ?」
「……うん。幸せ」
「それなら良かった。また何度かこうやって絵本を読みに行くよ」
「あ……そうだよね。今日で文ちゃんは家に帰るんだよね」
「本当はもっと一緒にいたいけど……流石に恋人でもないのにこれだけ一緒に暮らすのはおかしいって思われそうだし、私の家にも賞味期限切れになりそうな食材とか残ってそうだし」
私の精神が不安定だからその間、文ちゃんが家に泊まる。
それは建前ではなく本当のこと。そしてこの一週間で私の精神もある程度は落ち着いて以前と変わらない日々を送ることが出来る。
「文ちゃん……ありがとう」
私はそう言って文ちゃんに軽く微笑する。文ちゃんは名残惜しそうにしながらも身支度を整えた。
「栞……愛してる」
「うん。私も大好き」
本当の気持ちはもう分からない。私は文ちゃんが好きなのかどうなのか、それすらもどうでも良くなってしまった。
私は愛されればそれでいいのだ。前みたいな恋とかそんなものは既に消えてしまった。
だから私は……もう罪悪感すら感じることはなく好きだと言うことが出来る。
文ちゃんは私の言葉を聞いて照れ恥ずかしそうに笑うと鞄を持って家を出た。
残されたのは私だけ。さっきまでずっと文ちゃんがいたからだろう。
一人になった途端に今の自分が凄く寂しい人間であるように思えた。
ーーー
「……というわけで山に行かないか?」
「山ですか?」
私は先生と二人でご飯を食べながら呟いた。
先生が一人でお弁当を食べているのを目撃してからしばらくして私と先生はたまにこうして昼休みの僅かな時間に会ってはたまに会話したり一緒に食事をしたりしていた。
そして今回もいつも通り、先生の残していたおかずを一つ貰いながら話を聞いていると突然山に行こうという話になったのだ。
「先生は休みの日に登山をよくするんだ。もっとも登山といってもそんな大きな山ではなくて小さな山なんだがな」
「景色を見るのが好きなんですか?」
「ああ。景色を見ながら買ってきたケーキを食べるのが私の趣味なんだが……最近は少し寂しくなってな」
「寂しく……先生。そういえば友達いないんでしたね」
「いやいや栞がいるじゃないか」
「……私以外友達いないんでしたね」
「そういうことだ。そこでどうだろうか一緒に山登りしてみないか?」
私は実のところ。インドア派の人間だ。故に山登りと聞いて最初に思ったのがしんどそうだった。
個人的にはショッピングモールのフードコートで友達とのんびりする方が私には合っている。
「……でも私、体を動かすのはちょっと」
「大丈夫だ。さっきも言ったが山自体は小さな山だししんどくなったらそこで帰ればいいさ。それに景色を眺めながらケーキを食べるのはわりと良い気分だ」
確かにケーキを食べながらゆったりと景色を楽しむのは魅力的かもしれない。
「それに小説を書くなら色んな景色を見ておくのも大切だと思うのだが」
確かに小説同好会の活動でいうならばより良い文章を書くために色んな景色を見ることは大切なのかもしれない。
それに最近はデートこそよく行くけど、全員でどこかに行くということはあまり無かった気がする。
「分かりました。それなら小説同好会のみんなで山登り行きましょう」
「みんな……?」
「……え?」
何故か疑問系の先生。そしてすぐに曖昧な表情で笑った。
「ほ、本当は二人きりで行こうという意味だったんだが……そうだな全員で山登りに行こう」
そこでようやく先生が私をデートに誘っていたのだと理解した。
私としては先生とのデートでもいいのだけど今更二人きりに変える必要もないので私達小説同好会全員で山登りに行くことになった。




