もう意味ないじゃん
「大丈夫……大丈夫だよ。栞はいい子だから」
「文ちゃん……あれは何なの? 私は何をしてるの……」
保健室の中。幸いというべきか保健室の先生は来ておらず私と文ちゃんの二人だけの部屋になっていた。
私は文ちゃんに何度も抱き締められて頭を撫でられて大丈夫だと良い子だと言われてようやく落ち着き、先程の自分が明らかに異常だったことに気がついた。
「正直、去年も似たことはあったんだよ。栞は覚えてなかったみたいだけどさ」
「私……去年も?」
「去年は幸いなことに私だけにそれが発生してたけど今回はやっぱりというか椿に発生したんだね」
「……私はどうすればいいの?」
「大丈夫。要するにちょっと恋をしやすくなってるだけ。一週間もすれば落ち着くと思うよ。お母さんに無視されてそれが原因で一時的に心が不安定になってるだけだと思うから」
「そうなのかな……」
「とりあえず今日は学校を休んでーー」
「ダメだよ。学校を休んだら成績が下がっちゃう」
私が学校を休むのを断ると文ちゃんは俯くと言葉を絞り出すように言った。
「もう……意味ないじゃん」
「……え?」
「こんなこと言いたくなかったけどさ。栞が何をしてもお母さんは褒めてくれないよ?」
文ちゃんの言葉を聞いて心臓がどくんと跳び跳ねた。
急に息が苦しくなり、心がぐちゃぐちゃになるのが分かる。
そんなことないと文ちゃんは嘘を付いているんだとそう否定したかった。
でも否定することが出来ない。だって私も心の底ではもうお母さんは愛してくれないと思っているから。
「今はそんな話聞きたくない……」
「栞のお母さんは栞が嫌いなんだよ。だから関わりたくなくて家も出ていって電話も必要最低限で愛してだって貰えないんでしょ?」
「お、お願いします……もうそんなこと言わないで……」
私が聞きたくないと耳を塞ごうとしても文ちゃんはそれを無理矢理手を掴んで防ぐと暴れる私を今度は抑えつけてそのまま言葉をぶつける。
「栞……どれだけ頑張っても無駄だよ。お母さんは栞のこと愛してなんていないんだ愛すつもりもないんだ。だから栞はそんな奴のために無理をしなくたっていいんだよ」
「うっ……や……やめて……わたし」
「栞……あんな奴のことなんて忘れちゃおうよ。私だけなんだ……私だけが栞を愛してやれるんだよ! だからもう頑張らないでよ。頑張ったって栞が辛くなるだけ、苦しくなるだけじゃん」
その言葉に私は何も言うことが出来ない。ただ悲しくて苦しくて虚しくて涙が静かに溢れるだけだった。
私はお母さんにいつか褒めてくれると愛してくれるとそう思ってひたすらに努力してきた。
だけども中間テストで一位を取ってなお、何も反応がなかった母親に対して私はあとどれだけ頑張ればいいのだろう。
いや、そもそも頑張ること自体に意味がなかったのだ。
だってどれだけ頑張っても母親は私を愛してはくれないのだから。
私の生きてきた意味はなかったのだ。私は無意味だったのだ。
「栞……好き」
すっかり大人しくなった私に文ちゃんは頬擦りをしてきた。
だけどもそれに対して嬉しい感情も嫌だという感情も何も沸いてはこなかった。
何も感じなくて何も考えることが出来なかった。
「栞! とりあえず学校休もっか。もう褒められないんだしいいよね」
「……うん」
「栞はいい子だね! じゃあ二人で家に帰ろう!」
私は文ちゃんに手を引かれるがままに学校を出て早退した。
ーーー
「栞、さっきは酷いこと言ってごめん。でもこれぐらい言わないと栞は分かってくれないから」
自宅に帰って私の髪をとかしながら優しい声色で文ちゃんは言ってくる。
あれからしばらく時間が経ってようやく私も文ちゃんと会話できるようになった。
「ねぇ文ちゃん……私はお母さんに愛されなかった。愛して貰えなかった。これからどうすればいいのかな」
「簡単なことだよ。他の人に愛して貰えばいいんだよ! 私が栞を沢山愛するから!」
そういって文ちゃんは背後から包み込むように抱き締めてくれた。
私はそんな彼女に向き直ると今度は私から文ちゃんを抱き締める。
私は愛されたい。もっと沢山愛して貰いたい。
「文ちゃん……ずっと側にいてね」
「栞……勿論だよ!」
私の言葉に文ちゃんは嬉しそうに笑った。




