椿ちゃんこんなに綺麗だったっけ?
「はぁ……それで先輩と文先輩は一緒に泊まっていたというわけですね」
学校の登校中。私と文ちゃんがお泊まりをして怒った柚ちゃんに昨日の出来事をある程度要約して伝える。
もっとも伝えた内容は私がお母さんと揉め事になって文ちゃんが家に来たということだけ。
文ちゃんの気持ちや私と今の文ちゃんの関係は当然話してはいない。
「正直ずっと不思議には思っていました。先輩の家族は何をしているんだろうと……だけども頼るなら私を頼って欲しかったです」
柚ちゃんは拗ねたように私を見る。柚ちゃんは椿ちゃんに対しては浮気しているのではと警戒しているようだが文ちゃんに対しては浮気関係だと疑ってはいないみたいだった。
もっともそれも無理のないこと。だって私と文ちゃんが浮気を始めたのは昨日なのだから。
「私はさ。柚と栞はお似合いのカップルだって思ってるよ」
「そ、そうですか? やっぱりそう思いますか!」
「勿論! でもさ恋人だからこそ話せないこともあるでしょ? 私は栞の幼馴染みだから栞の知って欲しくないことも知ってる。だからこそ昨日は私に頼ってくれたんだ」
「まあ……文先輩の言っていることも分かりますけど」
文ちゃんは誤魔化すのが上手いんだなと思った。
文ちゃんの言葉に柚ちゃんは険悪な態度にならずその矛を納めた。
「それと柚には言っておくけど私と栞はしばらく一緒に寝泊まりすることになるから」
「な、なんでそうなるんですか!」
「去年は三日ほど私は栞の家に泊まったんだよ。それでようやく栞も落ち着いてきた。今回は去年よりも不安そうだから念のためにね」
文ちゃんは私のことが好きだという。だけども同時にその恋慕の感情があっても文ちゃんは優しい文ちゃんだった。
あの後文ちゃんはキスをすることすらなく私の頭を撫でてお母さんが子供にそうするかのように優しく側にいてくれた。
しばらくは文ちゃんがいないと私の孤独は収まることがないだろう。
勿論柚ちゃんにも頼むことは出来るだろうけど柚ちゃんは家族と暮らしている。
いくら私と柚ちゃんが大丈夫だと言っても一週間のお泊まりは流石に心配させる可能性もあった。
それにお母さんのことについては柚ちゃんよりも文ちゃんの方が知っているのでこの状況では側にいて欲しいのは文ちゃんの方だった。
「私からもお願い。文ちゃんとしばらく一緒にいさせて欲しいんだ」
「……分かりました。でもいつか先輩の家族のことしっかりと話して下さいね。私は先輩のこと絶対に否定しませんから」
「……うん」
いつか私はお母さんのことをちゃんと話すことが出来るのだろうか。
それは分からないけどいつか気持ちの整理が付いたら柚ちゃんにも話そうと首を縦に振りながらそう決心するのだった。
ーーー
私は文ちゃんと手を繋ぎながら教室へと入る。
文ちゃんは何故か表情が曇っており、私をどこにも行かせないと言わんばかりに強い力で私の手を握っていた。
そんな中で私は教室に入る。教室に入ると沢山の生徒が話し合う見慣れた光景が目に入る。
そして窓際には窓の外をぼんやりと眺めている椿ちゃんの姿があってーー。
あれ? 椿ちゃんってこんなに綺麗だったっけ。
私は椿ちゃんを見た瞬間、胸の鼓動が早くなるのを感じた。
勿論私は椿ちゃんに恋をしている。だけども今日のドキドキはいつも以上でその恋心を止めることは出来なかった。
「椿ちゃん! 椿ちゃんっ! 私! 椿ちゃんのことが大好き!」
「やっぱりこうなったか! 栞! ダメだよ!」
「離して! 私は椿ちゃんに愛されに行くの!」
自分は文ちゃんを振り払うとすぐに椿ちゃんの所に駆け出す。
そして教室の中だというのに他にもクラスメイトがいるというのに気にせず椿ちゃんを抱き締めた。
「ちょ、ちょっと栞!? どうしたのよ?」
「私、椿ちゃんのこと大好き! 椿ちゃんも私のこと愛してくれるよね?」
私は溢れる恋心のままに椿ちゃんにキスをする。
椿ちゃんは驚いたがキスを終えるとそっと私を手で離した。
「あのねぇ……いくらなんでも場所ってのがあるでしょう?」
「私間違えてた! 私が好きなのは椿ちゃんだったんだよ!」
「待って……本当に大丈夫なの?」
普段とは明らかに違う私に困惑する椿ちゃん。
だけども私はそんなことはどうでもよくて椿ちゃんを好きだと愛していると伝えようとする。
そんな私を文ちゃんは慌てて腕を掴んで抑えると更にもう一つの手で口を抑えた。
「何が起きているの?」
「椿には後で話すよ。栞は今ちょっと不安定だから保健室に連れていく」
「え、ええ」
「は、離して! 私は椿ちゃんに愛して貰わないと!」
「栞……大丈夫……大丈夫だから。一旦保健室に行こ?」
気がつけば文ちゃんは涙を溢していた。そして私の手を引いてそっと教室から出ていこうとする。
その時に私の顔にコツンと何かがぶつかる。ふと見るとそこには古宮先生が立っていた。
「二人とも……どうかしたのか?」
私は驚いた。古宮先生を見て固まってしまった。
古宮先生が美人なのは分かっていた。だけどもこんなに古宮先生が素敵な人だとは私は気づかなかったからだ。
そうか……私は古宮先生のことが好きだったのか。
「先生……凄く綺麗」
「栞?」
「すみません先生! ちょっと栞、体調悪いみたいで保健室に連れていきますね」
「あ、ああ……分かった」
文ちゃんはこうなることが分かっていたのか辛そうな表情のまま私をむりやり保健室まで引っ張った。




