怖くなんかない!
「はい……栞。ホットココア」
「ありがとう」
砂糖たっぷりの甘いホットココアを受け取ってそれを私は静かに飲む。
私は昔から甘いホットココアが好きでそれを知った文ちゃんはよく私が落ち込むとこうやってホットココアを作ってくれる。
私が文ちゃんに泣きついて数時間が経った。その間、文ちゃんは文句を言うこともなくずっと側にいて私を抱き締めてくれた。
そして何度も栞は悪くないと栞はいい子だと頑張ったと私が欲しかった言葉を紡いでくれた。
そのおかげで今は大分と落ち着ついてこうして二人でのんびりと過ごしている。
「文ちゃんはいつも優しいね」
私は文ちゃんの横に引っ付いてそう呟いた。それに対して文ちゃんはこちらを見て笑った。
「当たり前じゃん。だって私は栞のこと大切に思ってるから」
「私もだよ。文ちゃんのこと凄く大切、文ちゃんのこと凄く好きだよ」
そう言って私はホットココアを飲み終えるとコップを机に置いて文ちゃんの側にもたれ掛かる。
文ちゃんは両手でコップを手に持ちながら視線をそのコップへと移した。
「あのさ……栞」
「どうしたの?」
「もし……だけど私が椿と別れてさ栞と付き合いたいって言ったらどうする?」
「どうするって言われても分からないよ。そんなの考えたこと無かったし、それにそもそも論私には柚ちゃんがいるし」
「それは栞が柚と別れてさ。私と付き合っちゃえばいいじゃん」
「文ちゃん? なんかさっきから変なことばっかり言ってるよ?」
「……あ、ごめん」
そもそもいきなり好きだって言われたって私は今それを受け止められる精神状態ではないし、仮に告白されても自分と付き合って欲しいから恋人と別れて欲しいなんて言われてすぐに了承できるわけがない。
自分でも言っていることが滅茶苦茶だと気がついたのか文ちゃんは沈んだ顔でコップを置いた。
「でも文ちゃんと恋人かぁ。それはそれで素敵だなって思う」
「そ、そう……?」
「うん。文ちゃん優しいし、私のことよく見てくれるから恋人になるのも悪くないかも」
「そ、そうなんだ……それじゃあさ。私と付き合ってみない?」
突然私の手を握るとそんな事を言ってくる文ちゃん。
私は意味が分からず困惑する。付き合うって彼女は言った互いに別に恋人がいるのに。
「な、なんの話をしてるの?」
「だから恋人の話だよ! 栞はさっき私と恋人になるのも良いかもって言ったじゃんか!」
「えっと……何を言って……」
勿論文ちゃんの話している言葉は理解できている。
だけども文ちゃんがそんなことを言う意味が分からなかった。
なんで急に恋人の話になるの? 私はただ恋人になるのも悪くないかもねって軽口のつもりで言っただけなのに。
「文ちゃん……変な冗談辞めてよ。ちょっと怖いよ」
「怖くなんかない! 私はずっと我慢してたんだよ。栞はずっと可愛くて気弱でいつも頼ってきて私はずっとそんな栞が好きで好きで大好きで恋人になりたいってずっと思ってたんだ」
「や、やめて……今そんな話しないで……私は今そういうのを受け止められる状態じゃないの」
「栞はまだ私に我慢させるつもりなの? 大体なんで私がここまで栞に優しくしてあげたと思ってるの?」
「……え?」
「栞が好きだからに決まってるじゃん! 栞が好きだから! 栞に惚れてるから私は栞の側にいたいから優しくしてるんだよ」
私にとって文ちゃんは只の友達だ。いやそれは語弊がある。
文ちゃんは私にとって大切な存在。他の友達よりも一緒にいて頼りになって仲が良い親友だった。
だけどもあくまで親友で幼馴染みだ。だって私はこの長い間、文ちゃんと一緒にいたけれど恋人としてみたことは一度だってない。
だからいきなり好きだとか恋人になって欲しいとか言われても困ることしか出来ない。
「やめて! 私は文ちゃんのこと……そんな風に見たことない。恋人としてなんて急に言われても無理だよ」
「栞……! なんで私を拒絶するの!? 私はこんなにも栞のことが好きなのに! 栞、私を拒絶しないで!」
文ちゃんが私に向ける好意に私は怖くなって握っている手を振り払ってゆっくりと彼女から後退る。
そんな私に対して文ちゃんは目を見開きながら私を見てゆっくり近づくと逃がさないように私を抱き締めた。
「栞はいつもいつも私を抱き締めたり手を繋いでくれたよね? その時私がどれだけ栞にドキドキしたか好きだって想ったか栞は知らないでしょ?」
「文ちゃん……」
「栞、大好き」
そういって文ちゃんは涙を溢す。
文ちゃんの恋慕が好きという想いが涙となって溢れる。
きっとこの涙の一粒一粒が文ちゃんの好きって気持ちなんだ。
だけども私はそれを受け取れない。私は抱き締める文ちゃんを勢いよく突き放した。
「栞……」
「ごめんなさい。私……文ちゃんと恋人になるのは無理だから」
「……こっちこそごめん。どうかしてたよ」
突き放されて頭が冷えたのか文ちゃんはいつもの文ちゃんに戻るとそっと私から距離を取る。
「今日は帰るよ。ごめんね……変なこと言って困らせてさ」
そう言って文ちゃんは帰ろうとする。だけども私は慌てて文ちゃんを抱き締めて彼女を引き止めた。
「だ、ダメだよ! 今、私から離れないで」
「栞……冗談でしょ? やめてよ。こっちはおかしくなりそうなんだよ」
「私だっておかしくなる! 私は今寂しいんだよ。文ちゃん……側にいてよ」
「じゃ、じゃあなに? 栞は恋人にもならないくせに私の恋心を分かってて側にいて欲しいって言ってるの?」
「それは……」
そう。私だって勝手なことを言っているのは分かっている。
でも仕方のないことだ。私は今凄く辛くて苦しくて寂しいのだ。
文ちゃんが側にいてくれないと私はお母さんのことを考えてしまう。
「栞……浮気しようよ! そうだ! 別に今は恋人じゃなくていいよ。浮気相手で! 浮気相手になるなら側にいてあげる」
「え……」
「嫌なら私は帰るだけだよ。恋人でもない浮気相手でもない! ただの幼馴染みで一緒にいてあげられるのはここまでだから」
そういって文ちゃんは帰ろうとする。そんな文ちゃんを私は抱き締めていた力を強めて何とか離れないようにする。
「わ、分かった……浮気するから……だから一緒にいて」
「栞……! ありがとう! ようやく栞と恋人になれる」
「……わ、私は恋人になるとは言ってないよ。浮気するって言っただけで」
「うん。分かってる。まずは浮気から始めよう! でもいつか絶対に恋人にしてみせるから……栞を絶対に私の恋人に」
文ちゃんはそう言いながら私の頭を撫でてくれる。
なんで……なんだろう。なんで私は今この文ちゃんに対してドキドキしているんだろう。
こんなぐちゃぐちゃの感情を向けられて、でもそのぐちゃぐちゃの内容が沢山の愛だから。
私がずっと欲しているものだから、それを沢山持ってて私に向けてくれる文ちゃんに私は惹かれていたのだ。




