私を捨てないで
「絆創膏貼ったよ。そんなに大きな怪我じゃなくて良かったね」
私は椿ちゃんの膝に消毒液を掛けて絆創膏貼る。
大した怪我はしていない。だけども椿ちゃんはどこか上の空でぼんやりと壁を見つめていた。
「……やっぱり文は私じゃなくて栞のことが」
「椿ちゃん?」
「栞……お願い。貴方は私の側にいて……私を捨てないで」
椿ちゃんは涙を溢しながら私に抱き付いてきた。
本当は柚ちゃんの為にも椿ちゃんとの浮気関係を解消しなければいけないのだろう。
でも椿ちゃんの悲痛な声を聞いて苦しそうな涙を見てそんな話を出来るわけがなかった。
「大丈夫だよ。私は椿ちゃんの側にいるから」
「栞……」
椿ちゃんはようやく落ち着いたのか少しだけいつもの調子に戻った。
「そうだ。折角家に来たんだし絵本を読んであげる。約束してたし」
「それなんだけど……柚ちゃんに読んで貰ったんだ」
「そう……柚に」
椿ちゃんはそれを聞いて別に怒ったりはしなかった。
ただ枯れたと思った涙を再び一筋だけ流すだけだった。
「……椿ちゃん、もし良かったらなんだけど買いに行く?」
「え、ええ……そうね! また私が絵本を買ってあげる。好きな本選んで良いわよ」
「……うん。ちょうど読んで欲しい本があったんだ」
私たちは一旦本屋に出掛けて絵本を買うことにした。
ーーー
「ありがとう。椿ちゃん……本を買ってくれて」
それから一時間後、私たちは絵本を無事に買って自分の部屋に着いていた。
もちろん自分の部屋に来たのは椿ちゃんに絵本を読んで貰うため。
正直なところ。最初は憐れみの気持ちで椿ちゃんと一緒に本を買いに出掛けた。
だけどもやっぱり私は椿ちゃんのことも好きで横にいる椿ちゃんを見て胸が高鳴るのを感じる。
「別にいいのよ。私ね、ようやく気づいたことがあるの」
「気づいたこと」
「私には栞がいる。それだけで幸せだったってそう気づいたの。栞は私を愛してくれるもの」
「うん……椿ちゃんのこと好きだよ」
私は抱えていた絵本をそっと椿ちゃんに渡して絵本を読んで貰おうとする。
だけども、今回はそれだけではなかった椿ちゃんは自分の膝を軽く叩いたのだ。
「膝枕しながら絵本を読んであげる」
「本当? それなら膝枕で寝転がるね」
私は少し緊張しながらもベッドで横になり、座っている椿ちゃんの膝を枕にする。
椿ちゃんの膝は柔らかくてその状態から頭を撫でられてドキドキしてしまう。
そんな中で椿ちゃんは絵本をゆったりとした口調で読んでくれた。
今は椿ちゃんが心配だから浮気の解消はしない。
ならば私はいつになったら椿ちゃんとこの関係を終わらせるのだろうか。
いや、そもそもの話。本当に今日椿ちゃんと文ちゃんの揉め事がなかったとして私は椿ちゃんと別れることが出来たのだろうか。
そんな沢山の疑問が渦巻くけれど、それらは椿ちゃんと一緒にいられることの幸せで薄まっていき、最終的には心の何処かへと消えてしまった。




