そんなに私って初恋の人に似てますか?
「それで先生」
「なんだ?」
「どうして先生は学生服を着ているんですか?」
私はジュースを飲みながら先生の方を見て静かに声をかける。
先生はしばらく私の方を見ると黙ってご飯を食べると悲しそうに青空をみた。
「青春がしたくてな」
「……青春ですか?」
「そうだ。私は昔この学校の生徒だったからな。こうして制服を着ていると昔の頃に戻れた気がして……また初恋の人と一緒にお弁当を食べられるような気がしてな。私は一人でこうやってお弁当を食べながら来ない恋人を待っているんだ」
本人だって分かっている。既に自分は大人で教師で学生ではない。
先生の恋人が同級生にしろ先輩後輩のどちらかにせよもはやその人も大人になっていて学校で会うことなんてあり得ないということを。
だけどもそれでも先生は儚い期待を抱いて初恋の人を待っているのだ。
「先生はその人と付き合うことは出来たんですか?」
「残念ながら付き合うどころか友達が精一杯だった。どうしても好きだとその二文字が言えなくてな、ただ彼女の友であれば良いと本当の気持ちを隠し続けていた」
先生はお弁当のおかずを箸で掴むと私に目掛けてそっと差し出した。
食べて欲しいということだろうか。私は先生の話を聞いてしまった以上断れずに先生のおかずを口にする。
すると先生は優しそうな顔で笑った。
「本当の気持ちを隠す。それがいけなかったんだろうな。大人になって思うよ。例えフラれても告白するべきだった。告白出来なかった私の気持ちはずっと心の中で腐り続けて今だってずっと好きな人が忘れられないでいるんだ」
「……先生。もしかしてあの時告白したのは振られる為なんですか?」
「……すまなかった。それでも栞を見て気が付けば栞のことが気になって好きになっていた。もうこの気持ちを隠すのは嫌だった……だから振られてもいいと彼女がいることを承知で告白したんだ」
私にもその気持ちはある程度理解できる。椿ちゃんのことが好きでだけども告白する勇気がなくてずっと心の中でその気持ちを抱えていた。
そして抱えた状態のまま、椿ちゃんは文ちゃんと付き合うことになって私は後悔した。
例え振られたとしても嫌われたとしても自分の想いを口にするべきだったと。
もっとも今では椿ちゃんと浮気しているしそれはそれとして柚ちゃんのことも好きになっていたりもして大変な状況ではあるのだが。
それでも叶わぬ恋を心に抱く苦しみは分かるつもりだった。
だから気が付けば私は先生の頭を撫でていた。
「栞……なんで」
「私も恋の苦しみはある程度は分かりますから……こんなので何が解決するというわけではないですけど、それでも先生を一人にさせたくなかったので」
「……そうか。だけどもお前のことますます好きになってしまうな」
「残念……私は既に彼女がいるので」
「そうだな。また振られてしまったな」
「別に何度だって振ってあげますよ。そうやって私への恋心に折り合いを付けて先生は新しい人見つけて下さい」
「新しい人か……」
「先生は美人ですしきっと素敵な人が現れますよ。それが私じゃないだけです」
私はそう言うとそっと先生の肩にもたれて姿勢を楽にした。
それは単に他意はなく疲れたのでもたれたくてしたことだったのだが先生はそれに対して顔を真っ赤にする。
「ところで先生」
「な、なんだ……?」
「そんなに私って初恋の人に似てますか?」
それを聞いた先生は普段見せることがないような柔らかい表情で笑った。
「あはは! 全然似ていないよ。似ていないから良かったんだ。栞に恋をすれば私の初恋も忘れられるような気がしたからな」
先生はそう言うと今度は逆に私の頭を軽く撫でてくれた。
「ありがとうな。私の想いに真剣に向き合ってくれて」
先生はどこか吹っ切れたような表情で笑った。
ーーー
放課後、私たちはいつものように雑談をしながら帰り道を歩く。
普段ならばただみんなで帰るだけ、特に緊張をする必要はないんだけど。
だけども今日の私は緊張していた。理由は簡単、今日私は椿ちゃんとの浮気関係を解消しようと思っていたからだ。
浮気関係を終わらせようって言ったら椿ちゃんはどういう反応をするだろうか。
いや、そもそもの話。本当に私は椿ちゃんとの関係を終わらせていいのだろうか。
私は柚ちゃんのことが好きになった。それは事実だ。
でも同時に椿ちゃんに惹かれているのも事実で私は今二人の人に恋をしている状態だった。
それでも私は柚ちゃんの真っ直ぐな気持ちに応えたいから。
ーー椿ちゃんとの浮気を終わらせる覚悟をした。
「先輩! ここでお別れですね」
「……うん」
私たちは名残惜しそうに手を繋ぎ合ってそう呟いた。
既に分かれ道に来ている。ここでいつも柚ちゃんと別れて椿ちゃんと一緒に帰るのだ。
だからその時に浮気関係を終わらせようと思っていたんだけど。
「先輩良かったら今日私の家に来ませんか? 夜ご飯一緒に食べましょうよ」
それは予想外の誘い。私は少しだけ考えて柚ちゃんの誘いに頷いた。
本当は椿ちゃんと別れ話をしたかったが、同時に柚ちゃんが普段どんな生活をしているのかとか部屋はどんな部屋に住んでいるのかとか気になるのも事実だった。
「椿ちゃん……今日は柚ちゃんの家に行ってくるよ」
「ええ、分かったわ」
椿ちゃんは何だか寂しそうな表情で私を見ると小さく頷いた。
それを見て何だか悪いことしたなと思いつつ、柚ちゃんと一緒に彼女の家に向かった。




