一人でお弁当は寂しいんだ
「先輩、ハンバーグですよー」
「ありがとう」
昼休み、私たちはいつものように部室でみんなと共にご飯を食べる。
それはいつも通りの光景。だけども私はいつも以上に幸せな気持ちだった。
柚ちゃんとの遊園地デート。そこで私の本当の気持ちを柚ちゃんが受け止めてくれたことで私はすっかり柚ちゃんのことが好きになっていた。
だからだろう。こうして一緒にご飯を食べるだけでも胸が高鳴って幸せで嬉しくて仕方なかった。
「じゃ、じゃあ私も……柚ちゃんにハンバーグ食べさせてあげるね」
「ほ、本当ですかー! じゃあいただきまーす」
私もハンバーグを食べさせて貰ったの私も同じようにハンバーグを柚ちゃんに食べさせる。
二つのハンバーグは両方ともに柚ちゃんが作ったもので味に違いはない。
それでもこうして食べさせ合うことそれ自体がとても幸せなことだった。
「……あれ? 何かいつもより仲良さそうだねー」
私たち二人がお弁当を食べさせあっているとそれを見た文ちゃんが不思議そうに呟いた。
それに対して柚ちゃんはニコッと笑って私の手を握る。
それだけで真っ赤になって私は俯くことしか出来ない。
「そうなんですよー! 遊園地デートで互いに色んな気持ちを言い合ってですね。結果的に私たちは今まで以上に好き同士になったんです」
「えへへ、遊園地デートでの柚ちゃん凄く素敵で……前以上に好きになっちゃった」
「おー! おめでとう! それでいつも以上に仲良くなってたんだね。羨ましいなー」
「あら? 仲が良いのは私だって同じでしょう? ほらあーんしなさい食べさせてあげるわよ」
「えー! そういうのは恥ずかしいって」
「いいじゃない。別に向こうは当たり前にやっているのだし」
椿ちゃんは私たち二人にそういうと端でおかずを取り出して文ちゃんに食べさせる。
文ちゃんは少しだけ恥ずかしそうにしながらもおかずを食べた。
そんな文ちゃんを見て椿ちゃんは少しだけ優しい表情で微笑む。
やっぱり椿ちゃんと文ちゃんが仲良くしているのを見るのは今でも心が落ち込んでしまう。
でも私はそれでも思うのだ。確かに私は椿ちゃんの事が好きで愛していて浮気をしてしまったけど。
これ以上、私は柚ちゃんのことを裏切りたくはない。
だから浮気を終わらせようと私と椿ちゃんの関係を終わらせようと思うのだ。
「栞ー! たまには私のお弁当も食べてよ!」
椿ちゃんのお弁当を文ちゃんはある程度食べると恥ずかしさを誤魔化すためか文ちゃんは何故か私に自分のお弁当を食べさせようとしてくる。
私は少し驚いた。こういうのって普通椿ちゃんに食べさせてあげるべきなんじゃないだろうか。
「食べてもいいけど」
「本当? それじゃ食べさせてあげるねー」
私は文ちゃんに言われるがままお弁当のおかずを何個か食べさせて貰った。
柚ちゃん程ではないけど、やっぱり文ちゃんも料理は出来るのでそれなりに美味しい。
「文ちゃんの料理美味しいよ」
「でしょー! ということで私にも食べさせて!」
「はいはい」
私はお弁当から適当におかずを取り出すと文ちゃんに食べさせる。
「柚の料理はやっぱり美味しいよねー!」
「それが狙いで私と食べさせ合いしたんでしょ」
「そういうこと!」
「それなら普通に柚ちゃんに頼めば良かったのに」
「それはそうだけどさ。ほらどうせなら栞と恋人気分を味わってみたかったからね!」
文ちゃんは冗談っぽく笑ってそんなことを言う。
それに対して柚ちゃんはむぅーと拗ねるが私は笑って流した。
「あれ……飲み物無くなっちゃった」
私がお弁当を食べ終えてジュースを飲んでいるとその中身が無くなる。
一応水筒にはお茶が入っているが今は甘い飲み物が飲みたい気分だった。
「私が買ってきますよ?」
「いや流石に悪いよ。普通に私が買いにいくね」
私はそう言って立ち上がると文ちゃんがこっちに来て私の手のひらに何かを渡してきた。
慌てて中身を見るとそこには小銭が入っていた。
「文ちゃん……まさか驕ってーー」
「ついでに私の分のジュースも買ってきてよ!」
「……はい」
期待した私がバカだった。私は小銭を握り締めてジュースを買いに出掛けた。
ーーー
「まさかほとんどの自販機が売り切れになっていたとは」
私は校庭の自販機にたどり着くと美味しそうなジュースを私用に買い不味そうなジュースを文ちゃん用に買った。
そして私が部室に戻ろうとすると奇妙な光景を目にした。
そこにいたのは古宮先生。先生は校庭で一人静かにお弁当を食べている。
いきなり告白してきた時は驚いたけどやっぱり先生の顔は綺麗で立ち振舞いもかっこ良くご飯を食べているだけなのにその動きの所作に思わず見惚れてしまうほどだ。
だけども奇妙だと思ったのは先生が何も校庭で食事をしていたからではない。
では何が奇妙だと思ったのか、答えは簡単。目の前にいる古宮先生が何故か学生服を着て弁当を食べていたからだった。
「……よくは分からないけど関わらないほうがいいよね」
私は見なかったことにしてその場を去ろうとするが、そんな私を見つけたのか古宮先生はパァーっと表情を輝かせてこちらに声をかけてきた。
「栞じゃないか! まさかこんなところで会うなんて運命的だな」
「そうですね。ジュースを買おうとしてたんですけどどこも売り切れてて」
「そうだったのか」
「……はい」
二人の間で何とも言えない空気が流れる。別に先生とは仲が悪いわけではないけど、先生が何故、学生服なのが気になって上手く話すことが出来なかった。
「それじゃあ私は友達のところにーー」
「ま、待ってくれ。折角なんだし先生と少し話さないか……一人でお弁当は寂しいんだ」
「……まあ少しだけなら」
まだ昼休みの時間は残っている。それに何故先生が学生服なのかも気にならないと言えば嘘になる。
私は静かに先生の隣に座ってしばらく会話することにした。




