ごめんなさい
「先輩どうでしたか?」
お化け屋敷から外に出て柚ちゃんに聞かれて私は静かに頷いた。
「凄く楽しかったけど……本当に私が楽しんで良かったのかな」
「先輩やっぱりそうだったんですね」
「何が」
「私が後輩だから先輩はずっと我慢していたんじゃないんですか? 良い先輩であろうと良い恋人であろうと……だからずっと苦しそうに恋人を続けていたんじゃないかって思ったんです」
それは当たっていた。私は柚ちゃんの先輩だからと意識的に立派であろうとした。
だから今日だって自分が行きたい場所を我慢して柚ちゃんの行きたい所を優先したのだ。
もしこれが椿ちゃんや文ちゃんであれば私は気兼ねなく自分の行きたい所を言えただろう。
だけども柚ちゃん相手にはそれが出来なくて苦痛に感じていた。
「先輩……いいんですよ。無理をしなくても私に甘えて下さいよ」
「じゃあ言わせて貰うけど」
柚ちゃんは私に我慢をするなと自分を偽るなと言っている。
だけども私はそれが凄く怖かった。だって私は自分のことが嫌いだから。
だから本当の私を弱い私をみせた時に柚ちゃんに嫌われたらとそう考えるだけでずっと怖かったのだ。
「私……性格悪いよ。少なくとも柚ちゃんが思っているような人じゃない」
「そうですね。先輩は性格悪いかもしれません。でもそれが何だって言うんですか」
「なにって……私は……私は怖いんだよ。本当の自分がどれだけ醜い存在なのかどれだけ嫌な性格してるのか分かってるから……だから私が柚ちゃんを好きになってその後に否定されるのが嫌なんだ」
そうだ。これが私の本心だ。ずっと心に抱えていた柚ちゃんに対して恋を抱けない理由はこれだったんだ。
彼女の好意が真っ直ぐだから、真っ直ぐすぎるから私は怖くて無意識の内に好きになることを避けていたのだ。
「だから私は貴方を好きになれない。……ううん好きになりたくないの」
「私はこう思うんです。本当の恋っていうのは相手の良いところだけを好きになるものじゃないと悪いところも含めて全てを好きになるのが恋なんだって」
柚ちゃんはそう言って私の手を引っ張ると私を抱き締めた。
別に今までだってこうやって柚ちゃんに抱き締められたことは何回もある。
だから別になんてことないはずなのに何で今の私は凄く心臓が高鳴っているのだろう。
「私は先輩を愛しています。先輩の良いところも悪いところも全部です。先輩の全てが大好きなんです」
「私はこれからも柚ちゃんに迷惑かけるよ。酷いことだってするかもしれない」
「構いませんよ。私はそれでも先輩を愛してますから!」
私は恐る恐る柚ちゃんの顔を見る。その顔は綺麗で眩しい笑顔でその明るい表情に私は思わず言葉を口にしてしまう。
「……ごめんなさい」
ごめんなさい。これだけ好きでいてくれたのに裏切るような真似をしてごめんなさい。
浮気していることを未だに言えなくてごめんなさい。
そして今椿ちゃんを好きなはずなのに同時に柚ちゃんに惹かれている醜い自分にごめんなさい。
そんな沢山の罪悪が私の目から涙となって溢れた。
柚ちゃんは泣きじゃくる私の頭を優しく撫でた。
「許しますよ」
「……え?」
「先輩が何に謝っているのかは分かりません。でも……謝っている先輩は辛そうです。だから先輩が謝るのならその分私は許してあげたいです」
「柚ちゃん……」
あ、あれ……なんか柚ちゃんってこんな素敵だったっけ。
姿こそはいつもの柚ちゃんだ。勿論元から柚ちゃんは美少女で可愛い顔をしているんだけど。
私が言いたいのはそういうことではなくて、端的に言えば柚ちゃんを見ているだけで胸が高鳴ってしまうのだ。
「ぁぁ……えっと」
「せ、先輩……?」
柚ちゃんに見惚れてぼーっとしていると心配そうに柚ちゃんが尋ねてきた。
私は慌てて柚ちゃんから離れると自分の心をそっと落ち着かせる。
「ありがとう。私の嫌いな所も好きって言ってくれて……その……凄く嬉しかった」
「別に感謝されることなんてしてないですよ。私はただ恋をしただけなんですから」
柚ちゃんがそう言って笑う。そんな彼女に対して私はそっと手を握った。
「先輩っ……!」
「あ、あの……まだ巡りたい所、一杯あるから一緒にまわろ?」
「はい!」
私たちはそれから沢山のアトラクションを巡り気がつけば夜になっていた。
辺りはすっかり暗くなり、そろそろ家に帰らなくてはならない。
「そういえば……どうして私がホラー好きだって知ってたの?」
私たちは暗い遊園地の中をゆったりと歩きながらふと気になっていた事について尋ねた。
それに対して柚ちゃんは困ったように照れたように笑う。
「それは……先輩の小説を読んだからです。先輩の小説で出てくる遊園地デートには必ずお化け屋敷が出てました。それでホラーが好きなのかなと」
「ということは私の遊園地での好みってのはあらかた知ってたってことだよね。もしかしてデートの初めがあんまり私の好みじゃないアトラクションだったのって」
「ふふっ、先輩が性格が悪いと言うのなら私だってズルい女の子なんです。だから先輩の不満を表に出すためにわざと好みとは違うものばかり選んでました」
そう言って意地悪っぽく笑う柚ちゃん。それに対して私は拗ねたような素振りを見せた。
「それはそうと先輩……私はまだ返事を聞いてないです」
「えっと……返事って何のことかな?」
本当は分かってる。だけどもそれを柚ちゃんの口から聞きたくてわざと気づいてないフリをした。
「先輩が恋をしたかどうか……私のことを好きになったかどうかです」
「……それなんだけど」
私は柚ちゃんにそっと近寄るとキスをしようとする。
だけども柚ちゃんの顔を見ただけで赤くなってドキドキしてそれをすることが出来なくなっていた。
い、今まで出来ていたのに何でこんなに自分は弱くなってしまったのだろうか。
私は顔を真っ赤にしながら精一杯の答えとして柚ちゃんの指を握る。
「えっと……これは?」
「その……これが返事だよ。私は柚ちゃんのことが好き、大好き。好きすぎてキスどころか指を握るので精一杯なぐらい好き」
「かっ……!」
「……か?」
「可愛すぎますよ先輩っ!」
「うわーっ!?」
こっちは指を握るのでも精一杯なのに柚ちゃんは嬉しさのあまり私に抱き付いてくるのだった。




