柚ちゃんのこと恋人として好きじゃないんだよ
「ようやく中に入れましたね」
「うん。やっぱり休日の遊園地は人が多いね」
土曜日の遊園地。私と柚ちゃんは長い人の列を抜けて何とか中に入ることが出来た。
遊園地では家族連れやカップル、友達同士など様々な人たちがアトラクションを巡り楽しんでいるみたいだった。
「それで行きたい所とかありますか?」
「柚ちゃんの行きたい所でいいよ」
「そうですか……だったらーー」
柚ちゃんはアトラクションをいくつか選ぶ。それらは全部、ゆっくりと動くアトラクションだったり、景色を楽しむようなアトラクションを選んでいた。
柚ちゃんは絶叫系のアトラクションとかそういうのは乗らないのかと残念に思う。
もっとも私が一番遊園地で行きたいのはお化け屋敷だったりするのだけど。
でも絶叫系もそうだしお化け屋敷だって人を選ぶアトラクションばかり。
何となく柚ちゃんにそれを言って気を遣わせるのが嫌だった。
私は柚ちゃんと一緒にいくつかのアトラクションに乗った。
そのどれもが私の好みには合わなくて正直言ってつまらなかった。
ふとお化け屋敷の方を見る。そこでは恋人同士が怖かったねと話しながら楽しそうに笑っていた。
柚ちゃんと手を握っている。私たちはカップルで周りから見ればきっとこの一日は幸せで楽しそうに見えるのだろう。
私だって柚ちゃんのことは好きだ。だけどもやっぱり恋人としては椿ちゃんの方がドキドキするし何より椿ちゃんと一緒の方が楽しい。
もう私にとってこの恋人の関係は義務に近いのかも知れない。
特に今回のデートは最悪だ。私の心がどんどんと冷めていくのが分かってしまうからだ。
「先輩……今楽しいですか?」
私の手を引いて色々な所を巡っていた柚ちゃんが突然そんなことを聞いてきた。
もしかして退屈な顔をしていたのかと思って慌てて笑顔を取り繕う。
「うん、凄く楽しいよ」
そう呟く私に柚ちゃんは静かに呼吸をして私の方を見る。
その顔はどこか悲しげな表情で私はそんな顔みたくなくて目を逸らしたいのに逸らすことが出来なかった。
「先輩……嘘ですよね。本当は楽しくなんかないはずです」
「なんでそう思うの?」
「だって私といる時の先輩……いつも窮屈そうじゃないですか!」
「……」
私は柚ちゃんの言葉に黙ることしか出来ない。
柚ちゃんが言っているのは何も今日のデートだけの話ではない。
私と柚ちゃんが恋人になってから今までの日々について窮屈そうだと言っているのだ。
私はずっと柚ちゃんと付き合いながらどこか窮屈だなと考えていた。
だけども何故そう感じるのか、それが分からなくて自分の好きが足りないのだと私は思っていた。
そしてその考えは今も変わらない。やっぱり私は柚ちゃんのことを恋人として見ることが出来ない。
「私は……さ。柚ちゃんのこと恋人として好きじゃないんだよ」
ついに言葉に出してしまった。きっと柚ちゃんを傷つけてしまった。
私は怯えながら柚ちゃんの顔を見る。だけども柚ちゃんの顔は不思議と笑顔だった。
「知っていました。先輩が私に恋をしていないこと」
「……そっか。知ってたんだ」
正直何度も柚ちゃんを不安にさせている自覚はあった。
それでもこの関係を解消する勇気はなくて好きじゃないまま恋愛を続けていた。
だけども柚ちゃんに本当の気持ちを知られてしまった以上私たちの関係は終わり。
今日のデートは途中だけど解散して家にーー。
「ーーだから好きにしてみせます」
「何を言って……」
「まだデートは終わってないですよ。むしろここからが本当のデートです。先輩を沢山愛しちゃうので覚悟して下さいね」
そう言って私の手を強引に引っ張るとどこかのアトラクションに向かうようだった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。どこに行くつもりなの?」
「お化け屋敷です。先輩、お化けが好きなんですよね!」
「な、なんで……」
「今はそんなこと気にしちゃダメです」
柚ちゃんに流される形で私はお化け屋敷へと連れていかれる。
お化け屋敷の人の列に並ぶ、横には私に恋をしていないと言われたのに明るいままの柚ちゃんがいる。
「柚ちゃん……なんで」
「なんでお化けが好きなのを知っていたのかですか?」
「そうじゃなくて……なんでそんなに私に構うの? 私は柚ちゃんのこと好きじゃないんだよ?」
「私は先輩のことが大好きです。例え先輩が私のことが好きでなくても恋をしていなくてもそれは変わりません。好きだから一緒にいたい好きだから愛したいんです」
「柚ちゃん……私は」
好きだと言われる度に苦しかった。彼女が真っ直ぐ私に向き合おうとすればするほど自分が最低な人間に思えて嫌になる。
私はこんなにも好きでいてくれる人を裏切っているのだと。
「さ、先輩……お化け屋敷ですよ」
「う、うん」
私はお化け屋敷の中に入る。中には沢山の幽霊や妖怪などがいて私たちを怖がらせようとしてくる。
私にとってそれは魅力的で他の客がキャーキャーと叫んでいる中で私は目をキラキラとさせながら幽霊たちを見て楽しむのだった。




