私は先輩のことが大好きです!
あれから数日、私は栞さんと一緒に行動をすることが増えて一緒にご飯を食べるまでの間柄になっていた。
もっとも二人きりで食べるのではなく文さんや椿さんと一緒なのだが。
文さんや椿さんは弁当を作るのことが出来るのかいつも美味しそうな弁当を作っている。
だが栞さんは違う。いつもコンビニ弁当ばかりを買っている。
「あの……今日もコンビニ弁当なのですか?」
「なんで? 美味しいよ?」
「栄養とか偏りますよ」
「あはは……」
それに対して曖昧に笑うだけ。私としては心配して言っているのだが、栞さんはあまりそういうのは気にしていないみたいだった。
「先輩は夜ご飯とか何食べてるんですか?」
「コンビニ弁当だよ?」
「はぁ……何となくそんな気がしました! もう分かりました今日私が先輩の家に行きます! そして料理を作っちゃいます」
私の発言に栞さんは面倒そうな顔をする。栞さんは他人のことになるとわりと話を真剣に聞いたりしてくれるのだが、自分のことになると大雑把な感じになるのはこの数日で分かってきたことだった。
「じゃあお願いしようかな」
「はい! 任せてください!」
私は喜んでそう答えるがそんな私に対して何故か反対してきたというか微妙な反応をしたのは文さんだった。
「あーそれは辞めといた方がいいんじゃないかな」
「どうしてですか?」
「だって今の栞の家は……うーん」
何とも言えない歯切れの悪い回答に私は首を傾げる。
そんな私に文さんは今までに見たことのない悲しい表情でこちらを見た。
「栞本人が許可してるし私が拒絶するわけにはいかないけどさ、栞の家に入るならお願いがあるんだ」
「……なんですか?」
「栞のこと見捨てないであげて、栞を嫌いにならないで欲しいんだ」
「……え?」
その奇妙な頼みごとに私は黙ることしか出来ない。
文さんの声色は至って真面目で冗談を言っているようには見えない。
だから私は覚悟を決めて首を縦に振った。
「嫌いになんてなりませんよ! 勿論見捨てたりもしません」
「分かった。もしも見捨てたら部活から出ていって貰うから」
普通に当たり前にのように冷たく言う普段の文さんとは思えない発言に少し怖くなるが私も怯えることなく頷いた。
ーーー
「ここが先輩の家」
私はそこそこの大きさの一軒家を目の前にして静かに呟いた。
それに対して栞さんは普段と変わらない様子で家の中へと入っていく。
文さんは言っていた家に入っても見捨てないで欲しいと嫌いにならないで欲しいと。
つまりは栞さんの家の中はそう文さんが頼むだけの何かがあるということなのだろう。
普段の文さんとは思えない表情だった。凄く悲しそうな表情だった。
それだけで文さんは栞さんのことを大切に思っているのが分かる。
だが大切に思っているのは私だって同じだ。
私は家の中へと入る。そしてリビングを見て固まった。
そこにあったのは散乱した空のコンビニ弁当や空のペットボトル。
とても女の子の家とは思えないほどに散らかっていてゴミがいくつか散乱している状態だった。
「どうかしたの?」
「どうかしたって……えっとこれは」
まるでこの風景が当たり前だとでも言わんばかりの様子で呟く栞さん。
だけども私が言い淀んでいることを察してようやく自分の家の惨状に気づいたのか曖昧に笑った。
「ごめんね。散らかってて、なんか面倒でしんどくてさ。掃除とかあんまり出来なくて」
「せ、先輩……先輩はずっとこの家に一人で?」
「うん。たまに文ちゃんが心配で見に来てくれるんだけどそれを除けばずっと一人かな」
そうか。私はこのゴミだらけの景色を見てようやく理解する。
栞さんは自分のことが好きじゃないんだ。自分のことが愛せないから誰かに愛して欲しいんだ。
あの沢山の愛して欲しいは栞さんのSOSだったんだ。助けて欲しいって合図だったんだ。
ゴミだらけの家で立っている栞さんの姿は何だか儚げで何もしなければ消えてしまいそうなそんな危うい人に見えた。
そしてそれは恐らく間違いじゃない。そう確信できてしまうほど、彼女の姿は寂しそうに写った。
文さんは言っていた。栞のことを見捨てないでと嫌いにならないでと。
見捨ててなんてやるものか嫌いになんてなるものか。
こんな寂しそうな人を危ない人を放っておけるわけがない。
気がつけば私は栞さんを抱き締めていた。壊れないように消えないように一人にさせないように。
「柚ちゃん……?」
「先輩、私は先輩のことが大好きです! 良ければ付き合ってくれませんか」
栞さんが自分のことを愛せないというのなら私がその分栞さんを愛そうと思った。
「ええっと……」
突然の告白に驚いたのか言葉に詰まる栞さん。そして少しだけ考える素振りをした後、ゆっくりと私を抱き締めてくれた。
「私も柚ちゃんのこと嫌いじゃないし良いよ」
「先輩っ!」
私はその時嬉しすぎて栞さんの顔を見ていなかったけど。
栞さんも私と同じように幸せな表情をしていたのだろうか。
それともその表情はいつもと変わらない曖昧な笑顔だったのだろうか。
私は幸せな表情をしていたと信じたいけど何となく曖昧な困ったような笑顔を浮かべている気がした。
ーーー
「あの頃に比べて綺麗になったなぁ」
私はいつも通り先輩の家を掃除中だ。私と先輩が恋人になってそれなりの時間を過ごした。
私は今も変わらず、むしろ最初に出会った時よりももっと先輩のことが大好きだけど。
先輩は本当に私のことが好きなのか、それがちょっと不安だ。
「先輩起きてくださーい!」
私は掃除を終えて先輩の部屋に入る。そこには眠っている先輩の姿。
私は再度起こそうと声を掛けてようやく目を覚ました。
「……柚ちゃん」
先輩はゆっくりと目を覚ますけどその顔はとても赤くてしんどそうで私は嫌な予感がする。
顔に手を当ててみる。すると先輩の顔はすっかり熱くなっていて熱が出ているみたいだった。




