愛されたい
「ねぇねぇ、柚どうだった? 貸してた恋愛漫画」
「んー、ああ恋愛漫画面白かったよ」
教室の休み時間、私こと上園柚は友達に借りていた女の子同士の恋愛が描かれた恋愛漫画を返す。
「それでどうだった? どこら辺にドキドキした?」
「あー」
友達の言葉に一瞬私は黙り込む。友達から借りた恋愛漫画を見てとても絵が綺麗だと思った内容も面白かった。
だけどもドキドキだけはしなかった。だから友達からどこにときめいたのかと聞かれると反応に困ってしまう。
「やっぱり女の子同士で手を繋ぐところかな。そこが凄く綺麗だと思ったよ」
とりあえず無難な返事をする。特に何も思わなかった恋愛のシーンを口にしてドキドキしたのだと嘘を付いた。
だけどもそれで良かった。実際に友達はその返答に満足し円滑に会話が続いている。
そう私は今まで恋をしたことが無かった。沢山の人に出会ったけど恋愛漫画や小説でいうその人のことを考えると胸が苦しくなったとか。
その人が違う人と話したりするとモヤモヤしたりだとか、そういった気持ちになることが無かったのだ。
周りの友達がクラスメイトが好きだの愛しているだの言っている中で私だけが何も感じず無反応のままだった。
だからずっとそれが辛くて周りと恋の話をするのが苦しかった。
それは高校を入学した今も変わらず。入学して数日、私は友達の恋愛話に合わせるのに精一杯の日々を送っていた。
そんな私が今の恋人ーー立花栞知ったのは小説同好会の勧誘がきっかけだった。
小説同好会は現在三人しかいない小規模な部活。
故に部員勧誘として顧問の古宮先生が部員たちが書いた短編集を私たち一年生に配ってきたのだ。
私は暇潰しに短編集の小説を読む。そのどれもが文章としては纏まっていて読み物としてはそこそこの出来だった。
そして知ってはいたけどその全てが恋愛物の小説。
私は内心でため息を吐きながらクラスメイトとの雑談の為に本を読んでいく。
いくつかの短編がまとめられた冊子。その中で私はある短編に不思議と心が惹かれていた。
「立花栞……」
立花栞が書いた短編の小説。それが私には目を離すことが出来なかった。
勿論、栞という人物が書いた小説は文章力もあったし物語もそれなりに面白かった。
だけども私が惹かれたのはそういった部分ではなくその小説に込められた想いだった。
立花栞の書く小説には大量の愛してという気持ちがあった。
彼女の小説の全てが愛を欲していた。その彼女の執念に私は惹かれていたのだ。
どうしてそこまで立花栞という人物は愛に飢えているのかそれが気になったのだ。
ーーー
「あ、入部希望の人? 私の部活は誰でもウェルカムだから入ってきていいよー!」
放課後、私はあの小説を書いた栞という人物が気になり小説同好会の部室へと来ていた。
小説同好会の中は女の子三人がお菓子を食べたりしておりその中で活発そうな赤毛の女の子が声をかけてきた。
先ほどの会話的に恐らくは彼女がこの部活の部長なのだろう。
「入部希望というか……文集を読みましてそれで気になったので」
「おー私たちが書いた文集読んでくれたんだ! どの作品が気に入ったの?」
部長らしき人に言われて自分が気に入った作品をいくつか選ぶ。
それを見て部長はニヤニヤと笑った。
「全部栞の書いた奴じゃん。栞ー! 良かったね栞のファンが来てくれたよ」
「え? ええっ!? ファンって?」
まさか自分に話が振られるとは思っていなかったのか驚いた様子で一人の女の子がこっちを見る。
「ほら、折角のファンなんだし栞もこっち来て話そうよー!」
「そ、そんなこと言われても……」
「いいから少しは話してあげなって」
栞と呼ばれた少女は部長に腕を引っ張られておどおどとしたまま、こっちに姿を見せる。
立花栞ーー黒いショートヘアーに水色の瞳、初めて見た印象は清楚な子だなぁとか大人しい感じの子だといった感じだった。
でも同時に愛に飢えているようには思えなかった。
言ってしまえば普通の少女。見た目だけで言えばそれ以上のことはない。
「あ……えっとまずは自己紹介だよね。私が立花栞でこの明るいのが文ちゃん、この部活の部長だよ。であっちの綺麗な人は椿ちゃん」
栞さんに促されて私や他の部員たちはそれぞれ自己紹介を終える。
「ところでその……柚ちゃんは私の作品のどこが気に入ったの?」
「文章もストーリーも良かったですよ。でも……何よりも私が気に入ったのは小説に込められた想いです」
「想い?」
「ーー愛されたい。先輩の文章からはそんな感情が伝わってきたんです」
「嬉しい。ちゃんと読んでくれてたんだね。恋愛小説だから愛されたいってそういう気持ちを持って書くことは大切なことなんだよ」
「だから気になったんです。私はその……そういう気持ちを感じることがあんまり得意じゃなくて先輩は先輩の文章は愛されたいで一杯だったから私もその気持ちを理解したいんです」
私は恋をしたことがない。愛を求める栞さんの気持ちが分からない。
だからこそ恋を知りたくて愛されたい気持ちを分かりたくて栞さんに会うことにしたのだ。
そんな私に栞さんは優しく笑うと原稿用紙とペンを取り出して。
「それじゃ小説書いてみよっか」




