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正気ですか……

「栞、観たい映画とかある?」


映画館のチケット売場で私と椿ちゃんはどの映画を見るか決めることにする。

個人的には特に観たい映画はないが、観たいジャンルの映画はホラー映画だった。

なので昨日観た映画とは違うホラー映画を選んで椿ちゃんに見せる。


「この映画とか素敵かも……」


「……げっ、あーその……この映画も素敵だけど他の映画とかどうかしら。ほら恋人同士なんだしこの恋愛映画とかいいと思うのだけど」


椿ちゃんは何故か顔を青くしてホラー映画を拒否すると恋愛映画を選択する。

正直ホラー映画を観れないことは残念だが、別に恋愛映画でも構わないのでそれにしようとしたのだが。

そのタイトルを見て私は固まる。だってその映画は昨日文ちゃんが椿ちゃんの為に買っていたチケットの恋愛映画だったからだ。


恐らくこの映画を選ぶということは椿ちゃんはまだ文ちゃんがどんな映画を見るのか話していないのだろう。

文ちゃんのことだ。私がホラー映画と聞いて喜んだように椿ちゃんにも喜ばせようとどの映画を見るか伝えてない可能性は全然あった。

もしくはまだ映画を観に行く約束すらしていないなんてことも考えられる。


とにかくこの映画を観るのは気が引ける。私は椿ちゃんの選んだ映画を首を振って否定すると別のホラー映画にするように言った。


「こ、今回はホラー映画の気分かも。椿ちゃんと一緒にホラー映画観たいなぁ」


「でも折角のデートなんだしやっぱり恋愛映画の方が……」


いつもは私のワガママを聞いてくるのにやけに今日の椿ちゃんはやけに頑固な気がする。

そっかそんなに椿ちゃんは恋愛映画を観たいんだ。

それならばと別の女の子同士の恋愛映画を選ぶことにする。


「この映画ならいいかも」


「ええ! 私もこの映画で構わないわ」


椿ちゃんは何故か安堵のため息を吐くと早速チケットを購入する。

このチケットも当然、カップル割のチケットつまりは私と椿ちゃんはどんな関係であってもキスをしなければならない。


「そういえば浮気相手同士ってカップル割適応されるのかしら」


「キス出来る関係なら大丈夫らしいよ」


「あら、随分詳しいわね」


「えっ!? ああ……うん! さっき調べたの」


別に私と文ちゃんがキスをしたことを話しても問題はないのだが。

何となく椿ちゃんに黙って二人で一緒の時間を過ごしたのが後ろめたくて隠した。

幸い椿ちゃんは特に気にする仕草はなく私の手を引いて黒髪の女性店員さんにチケットを渡す。その店員は昨日の店員だった。


「チケットを使うには二人が恋人であることを証明してーー正気ですか……」


女性店員は漆黒の瞳で私を見る。やっぱり女性店員は私と文ちゃんが恋人だと思っていたらしい。

あの時、私たちは友達だって否定したんだけどね。


「どうかしたの? 急に説明を辞めて」


「い、いえ……何でもないです。とにかくカップル割を利用するためには二人でキスをして貰う必要があるのです」


「栞、それなら早速キスしましょうか」


「……うん」


椿ちゃんは私の頬をそっと撫でるとそのままキスをしてくれる。

私はその間、椿ちゃんの綺麗で整った顔立ちに見惚れていてそれが近づいてくることにずっとドキドキしていた。


「やっぱり椿ちゃんは綺麗だね」


「栞だって可愛いわよ」


そう言って椿ちゃんは更にキスをする。そして私たちはそっと女性店員に向き直る。


「これで恋人だって証明されたわね」


「はい。勿論です」


女性店員も満足したのか私たち二人を映画館の中に案内する。

しばらく歩いて席に向かって歩いていると椿ちゃんが口を開いた。


「そう言えば来週の土曜日は文とデートにいく予定なのよ。何でも映画を見ることになってるみたいだけどカップル割だと私と文がキスをすることになるのよねー」


椿ちゃんはどこか楽しげにそう答えた。まるで文ちゃんとのデートを楽しみにしているかのように、あるいは文ちゃんとのキスを期待しているかのように。


分かっている。自分だって同じだ。来週の土曜日は柚ちゃんとデートに行く約束をしている。

だから自分だって恋人とデートに行くので椿ちゃんとやっていることは変わらない。

だけども椿ちゃんが文ちゃんの話をするとやっぱり心がモヤモヤする。

だからちょっとだけ椿ちゃんの腕に体を預けて少しでも椿ちゃんの近くにいようとした。


「嫉妬してるのね」


「……うん」


私の心をぐちゃぐちゃにだけして椿ちゃんは満足していた。

椿ちゃんは私が嫉妬すると分かっていてわざと文ちゃんの話をしていたのだ。


「ごめんなさい。でも嫉妬する貴方が可愛かったから」


「……あ」


私は単純だ。あれだけ怒っていたのに頭を撫でられるとすぐに好きで一杯になって許してしまうのだから。

私と椿ちゃんはそのまま二人で一緒に席に座って一緒に映画を観た。


ーーー


「今日は楽しかったわ。デートに付き合ってくれてありがとう」


帰り道、私は椿ちゃんの家の前で別れる。今日一日私たちは食べ物を食べて映画を見て買い物に出掛けた。

今日が椿ちゃんとの初めてのデート。正直ドキドキして緊張はしてばかりだったけどーーそれでも楽しかった。


「私も楽しかったよ。またデートしようね」


「ええ」


椿ちゃんはそう言って家に帰ろうとする。だけどもそれを私は慌てて止めた。

だってまだ私には椿ちゃんに渡すものがあったから。


「どうしたのよ?」


「その、なかなか渡せなかったんだけど……」


私はそう言って鞄から小さな袋を渡す。その中にはクッキーが沢山入っていた。


「これ……」


「本命ケーキを貰ったの嬉しかったから……何かお返しがしたくて」


「……っ!」


瞬間、椿ちゃんの顔が見たことがないほど赤くなっていた。

そして早速クッキーを取り出して食べる。


「ど、どうかな……?」


「とっても美味しいわ」


そう言って椿ちゃんは笑う。そんな彼女に私は照れながら俯くことしか出来なかったけどちゃんとクッキーを渡せて良かったと内心で少しだけ喜ぶのだった。

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