私が服を買ってあげたいんだ
「栞はどんな服を着てみたい?」
映画を見終えた私たちはショッピングモールの服屋で着る服を選んでいた。
正直なところ。私は他の女の子達みたいにお洒落に興味があるわけじゃない。
もっというとどちらかというとそういうのは苦手な方だった。
理由は簡単、私にはそういった可愛らしい服とかお洒落とかそういうのは似合わないと思っているから。
「私は……別になんでもいいよ。何を着たってどうせ似合わないし」
「栞はもっと自分に自信持ちなよ。凄く可愛いんだしさ」
「可愛くなんてないよ」
「栞は毎回それを言うよね。でも私は知ってるよ、クラスメイトから可愛いと褒められてること」
「それはみんなが優しいから……」
「優しいさだけで可愛いなんてみんな言わないと思うけど」
「ううっ……」
文ちゃんの言葉に私は何も言い返せない。確かに私の友達や柚ちゃんに文ちゃん……椿ちゃんも私の事を可愛いと言ってくれる。
だからもっと自分も自信を持つべきなのかも知れないけど、どうしてもその自信が持てなかった。
「ごめんなさい。でも私、やっぱり自信が持てなくて……」
「謝らなくていいの。大丈夫、ゆっくりと自信は付けていけばいいよ。というわけで好きな服、着てみたい服とか言ってみてよ。買ってあげるからさ」
「ええっと……」
文ちゃんはいつものように優しくそう言ってくれる。
実のところ。現在の私の服のほとんどは文ちゃんに買って貰った服だ。
彼女はたまにこうして買い物に誘っては私のために服を買ってくれる。
自分でお金を払おうとしても私が払いたいと頑なにお金を払わせてはくれなかった。
「文ちゃん……私、一人じゃ選べないかも」
「大丈夫。じゃあいつもみたいに私と一緒に選ぼっか」
文ちゃんに手を引かれながら私たちは服を見て廻る。
正直、どれも可愛らしい服装で私が着るにはもったいないような私には相応しくないように思えてしまう。
でも文ちゃんが手を引いてくれているからさっきよりは自信が持てる。
「この白色の可愛らしい服とか着てみたいかも」
「おお! いいね! 栞に似合う服だと思うよ」
文ちゃんはそういうと私と一緒に試着室に行って服を着替えさせてくれた。
鏡に写る私の姿。そしてその背後にもたれる形で文ちゃんがいた。
「文ちゃん……どうかな? 私、似合ってる?」
「うん、可愛いし凄く似合ってる!」
鏡に写っている私は嬉しそうに微笑んでいた。私ってこんな表情も出来たんだと少しだけ驚いてしまった。
まだ自分に自信は持てないけど友達に可愛いとか褒められるのは嫌いじゃなかった。
それにもし私が仮に本当に可愛いのだとしてこの可愛らしい服を着て似合っているのなら着てみたい。
私も可愛い服が嫌いなわけじゃないから……というか好きだから。
「じ、実はね!」
「う、うん? どうしたのー?」
「私……他にも着てみたい服があって」
それを聞いた文ちゃんは表情が明るくなる。そんな彼女を見て自分のためにではなく私の為に喜んでくれる文ちゃんの優しさに驚いた。
「一杯服買っちゃお! 私も可愛い栞がもっと見たいしさ」
「でもちょっと恥ずかしいかも」
私は照れと恥ずかしさで顔を赤くしながら可愛いと思った服を手に取る。
そして試着室に行って着替えて自分に似合うと思った服を文ちゃんと一緒に選んでいった。
「これで全部かな」
「どれも栞に似合ってたし早速買っちゃおう!」
文ちゃんは沢山の服を持ってレジへと向かう。その服の数は今まで一緒に服を買った時よりも多くて例え本人が望んでいるとはいえ文ちゃんに買って貰うのは流石に気が引けた。
「あの……やっぱり私が払うよ。私の服なんだし」
「ダメ。栞は気にしなくていいよ。私が買ってあげたいんだ」
「……どうしてそんなに自分で買うことに拘るの? 私の服なのに」
文ちゃんはそれに対して照れたように笑うと静かに口を開いた。
「その……私の買った物を栞が身に付けていたら離れていても栞の側にいれる気がして。私はずっと栞の側にいたいから」
「文ちゃん……」
そうか。文ちゃんは私に寂しい想いをしないように服を買ってくれているんだ。
自分の着ている服をそっと触る。柔らかくて暖かい私の服。この服にも文ちゃんの優しさが詰まっている。
「ありがとう。私も文ちゃんとずっと一緒にいたい」
「私もずっと一緒に……栞の側にずっと一緒にいたい」
そう言って文ちゃんは私を抱き締める。そうか文ちゃんは寂しいんだ。
「ねぇ文ちゃん。私もやっぱり服を買うよ」
「言ったでしょ? 栞の服は私が買うんだって」
「知ってる。だから私は文ちゃんの服を買ってあげたいの。文ちゃんが寂しくないように私も文ちゃんの側にいてあげたいから」
「栞……」
文ちゃんは驚いたような表情で私を見つめるといきなり顔を近づけてーーキスをした。
「ええっ!? 急にどうしたの?」
「……仕返し。今日は栞に沢山ドキドキされちゃったから」
何に対して文ちゃんがドキドキしていたのかは分からない。
私そんなに驚かせるようなことしちゃったかな。
「栞は私のキス……どうだった? ドキドキした?」
「うん。いきなりキスされたから驚いちゃった。仕返し成功だね」
「……あはは! そうでしょ!」
何故か私の言葉を聞いた文ちゃんは一瞬だけ悲しい顔をした。
だけどそれは一瞬ですぐにその表情は明るいものに変わる。
「じゃあどんな服を買って貰おうかなぁ」
文ちゃんは楽しそうに笑う。その笑顔を見てやっぱりあの時見た悲しそうな表情は只の錯覚なんだと思った。




