キスをして下さい
「そろそろ映画始まりそうだし映画館に行こっか?」
文ちゃんに言われて私は頷くと映画館の中へと入ろうとする。
映画館の中に入るためには当然ではあるが店員の人にチケットを渡す必要がある。
私たちは早速チケットを黒い長髪の女性店員さんに渡して映画館の中に入ろうとする。
だけどもそんな私たちを女性店員さんは通してはくれなかった。
「何で通してくれないの?」
「すみませんがこのチケットはカップル割引のチケットですよね? 私たちの映画館ではカップル割引をするには恋人であることを証明してもらう必要があるんです」
「なるほどね。証明ねぇ」
私と文ちゃんは互いに顔を見て頷き合うと手を繋いだ。
そして私たちは互いにドヤ顔をしながら手を繋いでいる姿を女店員に見せつけた。
「ほら手を繋いでるから恋人」
「手を繋ぐことぐらい親子だって出来ますよ」
「だったらどうすれば私たちが恋人だって証明できるわけ」
「決まっているでしょう。キスをして下さい」
「キ、キス……!」
キスという二文字の言葉に文ちゃんは顔を真っ赤にする。
そして私の唇をチラチラと見ては恥ずかしそうに下を向いた。
「あの……そもそもカップル割って恋人じゃなくても大丈夫だと思うんだけど」
「あ! そ、そうだよ! なんか流れに流されたけどチケットを予約する時、友達同士でも問題ないって書いてあったよ!」
「……はい。ですがチケットには小さく但しキスをする必要があるとも書いてあったはずです。ほらここに」
確かにチケットには恋人ではなくても問題はないが入場には互いに恋人である証明としてキスをする必要があるとも書かれていた。
明らかに矛盾している破綻した文章だ。しかし女店員はこれを素晴らしいものだと口にする。
「互いに友達だと思っていた女の子同士がキスをきっかけに恋をする結ばれるんです。素晴らしいとは思いませんか。このチケットは映画のチケットではなく恋のチケットというわけですね」
「友達同士が恋をする」
何故か文ちゃんは私の方を凝視してくる。そして握っていた手が何だか暖かくなってさっきよりも強くしっかりと手を握ってきた。
「あ、あのさ。栞が良かっーー」
文ちゃんが何かを言い終えるよりも早く私の方から文ちゃんにキスをする。
文ちゃんは驚いたように私を見るが、私は気にしない。
そしてキスを終える。文ちゃんは何も話さずひたすら手を握るだけだった。
「これでいいですよね」
「はい。とっても素敵な光景でした。二人が友達か恋人なのかは分かりませんがこれをきっかけに恋人同士になれると良いですね」
私たちは互いに別の恋人がいるからそれはないと思う。
でも幼馴染みの文ちゃんが恋人かぁ。今までそんなこと考えたこともなかったなぁ。
私は固まっている文ちゃんを介抱しながら映画館の中に入り、席に座る。
文ちゃんはしばらくは静かにしていたが、やがて私の方を見た。
「栞は……さ。なんで私とキスしたの?」
「だってそうしないと映画館に入れないでしょ?」
「それはそうだけど。別にチケットを買って映画に入ることも出来たわけじゃん。そりゃ高くなるけどキスをしなくたって良かった」
確かにその通りだったと思う。キスをしなくても普通にチケットを買えば映画を観ることは出来たのは事実だ。
「栞はそうやって誰とでもキスするの?」
「違うよ。私が文ちゃんにキスをしたのはーー文ちゃんが好きだからだよ」
「す、好き……!?」
文ちゃんは驚いたように私を見る。今の言葉は嘘ではない。
私は幼馴染みでいつも優しい文ちゃんが好きだ。
それは恋人としてではないけれど友達として好きだからキスをしても良いと思ったのだ。
「文ちゃんは私の大切な幼馴染みだからあの状況だしキスぐらいならしてもいいかなって思ったんだ」
「そうなんだ」
私には他にも女友達がいる。だけど他の人と同じ状況になってもきっと私はキスをしなかっただろう。
文ちゃんは昔から私を助けてくれて優しくて一緒にいて幸せで大切な存在だからキスをしたのだ。
「……栞、私は栞のことが好きだよ」
「そっか、じゃあ両想いだ」
私はそう言って笑う。だけども文ちゃんは何故かちょっと悲しそうだった。
そんな彼女を見て不思議だとは思ったけども、映画が始まって私は文ちゃんから映画の方へと視線を移したその時だった。
そっと手に文ちゃんの手のひらの感触が伝わった。
私はそれを文ちゃんがホラー映画が怖くて手を重ねたんだと思って安心させるように文ちゃんの手を握った。
ーーー
「今回の映画も面白かったね」
私たちは映画館を出て感想を語り合う。映画は見るのも楽しいけど見終えた後に友達と感想を語り合うのもまた私は好きだった。
「それで映画も見終わったけどこの後どうする?」
ご飯を食べて映画を見てそれだけでも楽しかったけど、まだ帰るには早い。
このまま二人でショッピングモールを見て廻るのも良いかもしれない。
そんな事を考えていると文ちゃんが私をじっくりと見て口を開いた。
「服、買いに行こうよ」




