間接キス
「確か待ち合わせの場所ってここだったよね」
土曜日の休日。ショッピングモールの中で事前に決めていた待ち合わせの場所へと向かう。
そこには分かりやすい自販機が置いてあってその横には見慣れた友達の姿があった。
「文ちゃん! もう来てたんだね!」
私は文ちゃんの姿を見つけて駆け寄る。なるべく相手を待たせたくないので少し早めに来たつもりだったが、それよりも早く文ちゃんは目的地に着いていたようだった。
「暇だったから早く来ちゃったんだよねー。それよりも今日は映画に付き合ってくれてありがとう」
「全然構わないよ。私も映画好きだし」
今日私がショッピングモールに来たのは文ちゃんと映画を見るため。
面白い映画が見つかったので一緒に観ようと文ちゃんが誘ってくれたのだ。
私と文ちゃんは幼馴染み。椿ちゃんや柚ちゃんみたいな恋心が絡む関係ではない。
だけども、いやだからこそ文ちゃんと一緒にいると安心できる。
嫌われてないかとか好かれたいとかそう言うことを考えずに一緒にいれるのだ。
「早速映画館行く?」
「いやチケットで予約した時間はもう少し後だから、それまでにご飯食べちゃお。フードコートでいいよね」
「うん、私はどこでもいいよ」
私の返事を確認すると文ちゃんはフードコートへと向かう。
私も一緒に向かおうとするけど、休日のショッピングモールは人が多い。
私は人に流されたりはぐれないようにするために文ちゃんの腕を掴む。
「わわっ!? ちょっとどうしたの?」
「人が多くて……迷子になったら嫌だから」
「そ、そうなんだ。栞は相変わらず甘えん坊だなぁ」
文ちゃんは照れ恥ずかしそうに笑うと私の頭を撫でる。
そして私に腕を掴まれて動きにくいはずなのに文句を言わずに一緒に歩いてくれる。
「何だかこうして一緒に歩いているとデートみたいだね」
「で、でーと」
「文ちゃん? 何だか顔赤いよ?」
「だ、だって栞が……!」
「私が?」
「栞が変なこと言うから……」
顔を赤くしながら俯く文ちゃん。そんな彼女を不思議に思っていると視界にフードコートが映る。
幸い早い時間にショッピングモールに来ていたのでまだ人は少なく待たずに済みそうだ。
「栞は何食べるの?」
「私はクレープにしようかな」
「じゃあ私もそれにしよーっと」
クレープの甘い匂いがしてすっかり食欲を刺激されてしまった。
文ちゃんも同じ理由なのかそれとも単に私と同じ店で食べようと思ったのかクレープを買う。
互いにクレープをいくつか買うと空いている場所に座る。
「ところで文ちゃん何の映画を観る予定なの?」
クレープを食べながら質問する私には文ちゃんは得意げな様子でニヤリと笑う。
「今回はホラー映画を見る予定なんだよねー」
「ホラー映画!」
「そうホラー映画。栞好きでしょ?」
「うん!」
私は感動しながら文ちゃんの方を見る。流石は幼馴染み、私の映画の好みは既に知られていた。
「でも映画なら椿ちゃんと行くべきなんじゃ……」
「ホラー映画は椿が苦……じゃなくて椿には椿用の映画のチケットを用意してるんだよ」
そう言って女の子同士の恋愛ものの映画のチケットを見せる。
なるほど、これが恋人同士で見る映画というものなのだろうか。
「つまりホラー映画が幼馴染み用で恋愛映画が恋人用ってわけ」
「なるほど」
「ちなみに両方ともカップル割で半額近く安くなってるよ。今だけみたいだけどね」
そう言って文ちゃんはクレープを食べる。その姿を見て何だか文ちゃんの食べているクレープも美味しそうに見えてきた。
クリームも一杯だし、苺も沢山入っているし。
「文ちゃんのクレープも美味しそうだね」
「実際美味しいよ」
「……私も食べたいなぁ」
「まだお店は空いてるし買ってくる?」
「……そんなに多くは食べれないかも」
今の会話で私の意図は察しているはずだ。私は既に結構お腹いっぱい。
故に新しいクレープを買っても食べきれないだろう。
ならば私が文ちゃんと同じクレープを食べるには文ちゃんの食べているクレープを食べるしかない。
「分かったよ。私のクレープちょっとだけなら食べていいよ」
「ありがとう。一口だけ頂くね」
私はそう言ってクレープを受け取り食べた。口の中に甘い味が広がる。
最初は一口だけにしようと思っていたのに気がつけば三回も一口を食べている。
「美味しかったみたいだね」
「あはは、沢山食べちゃった」
私は照れ恥ずかしそうに言って笑う。それに対して文ちゃんは返されたクレープを見て顔を赤くしていた。
「どうしたの?」
「な、なんでもない!」
文ちゃんはそれだけ言うと私が少し食べたクレープを完食する。
私も既にクレープを食べ終えていて食事を終えた私たちはゆっくりと飲み物を飲んで休んでいた。
「文ちゃん」
「ん? なに?」
「……間接キス」
「なっ! やっぱり気づいてたんだ! もう!」
私の言葉に顔を真っ赤にして怒る文ちゃん。そんな文ちゃんを見て笑う。
「ごめんね。照れてる文ちゃんが可愛かったから」
「ううっ……」
私が静かに呟くと文ちゃんは恥ずかしそうに俯くのだった。




