嫉妬しちゃった
放課後の帰り道。私と椿ちゃんはいつものように一緒に帰る。
私は椿ちゃんの顔を見ながらゆっくりと彼女の隣を歩いている。
今日も手を繋ぎたい。だけどもあの時と同じでやっぱり自分から動くのは緊張してしまって手を繋ごうとしては離れるを繰り返している。
そんな私を見て仕方なさそうな表情で笑うとそっと椿ちゃんは手を延ばしてくれた。
「手を繋ぐんでしょ?」
「ありがとう。椿ちゃんは優しいね」
私は延ばされた手をそっと握ると椿ちゃんはそんな私の手をしっかりと握り返してくれた。
「別にこれぐらい恋人なら当然でしょ?」
「でも私たち、浮気相手だし」
「浮気相手でも恋をしてるなら恋人なのよ」
「そ、そっか」
椿ちゃんに恋人だって言って貰えて思わず口が緩んでしまう。
ずっと好きだった人が恋をしていた人が私の手を引いて恋人だと言ってくれる。
夢みたい。もっと恋人だって愛しているって好きだって言って欲しい。
例え私が浮気相手だとしても、今は椿ちゃんの心を声を独占しているのは私なのだから。
「もっと……」
「もっと?」
「もっと好きって言って欲しい」
「……仕方ないわね。大好きよ」
椿ちゃんはそういうと私の頬を撫でてそっとキスをしてくれた。
幸せすぎて頭がふわふわして私は椿ちゃんを見つめたまま動けなくなっていた。
そしてそれは椿ちゃんも同じようで私の肩に手を置いて私をじっと見たまま動かない。
互いに見惚れていた。互いにドキドキしていた。互いに好きに浸っていたのだ。
「……貴方は言ってくれないの」
「何を……?」
「貴方も言って欲しい。私の事好きだって」
椿ちゃんの言葉に私は静かに頷くと彼女の綺麗な顔を見ながら優しく気持ちを込めて想いを口にする。
「私も椿ちゃんのこと大好き」
私は自分の今の気持ちをしっかりと言葉にする。
だけどもそんな私に対して椿ちゃんは何故か不満げな様子だった。
「どうかしたの?」
「私は大好きって言われて嬉しかったわ。でも……ちょっと足りなかったなって」
「足りない?」
私が不思議そうに首を傾げると椿ちゃんは私を抱き締めると優しく頭を撫でてくれた。
そして抱き締めるのを辞めると椿ちゃんは優しい表情のままで呟いた。
「今度は柚よりも私の方が好きって言って欲しいな」
「椿ちゃん……」
それはちょっと罪悪感が凄いかも。それに今日だって私は本命のケーキを渡してあんなに喜んでくれたのに。
そんな柚ちゃんを裏切ることは不思議と出来なかった。
「あの……柚ちゃんに悪いし」
「浮気しているのに? こんなに一緒に幸せなことしているのに?」
「あ……」
そう言って手をまた優しく握られた。そして表情を変えずにもう一度椿ちゃんは口を開いた。
「柚より好きって言って?」
「……私は柚ちゃんよりもーー」
どうせ裏切ってきたんだ。どうせ嘘ばっかりついてきたんだ。
だから、今更罪悪感なんていらない。今は全て忘れて椿ちゃんに夢中になりたい。
なのにーー。
「……ごめんなさい」
只の言葉だ。それを口にしたって何か悪いことが起こるはずがない。
だけどもそれを口にしたら私の気持ちはもう戻れないような気がして柚ちゃんに二度と恋を出来ないような気がして私は口にすることが出来なかった。
気がつけばポロポロと涙が溢れていた。椿ちゃんが好きって感情と柚ちゃんを大事にしたいって感情がぐちゃぐちゃになってその気持ちが涙となって溢れたのだ。
「謝らなくていいのよ。私も焦りすぎたわね」
「ごめんね。私、本当に椿ちゃんの事好きなの。本当に好きだから! 私と一緒にいて離れないで」
「大丈夫よ。分かっているから」
取り乱す私を椿ちゃんは優しく受け止める。やっぱり椿ちゃんは優しい。
しばらく私が落ち着くまで椿ちゃんは静かに抱き締めてくれた。
そして私が落ち着くのを見ると椿ちゃんは私に箱を渡す。
「これは……」
「本命ケーキよ」
箱の中を見るとそこには美味しそうなケーキが入っていた。
それは部室で椿ちゃんから貰った義理ケーキとは別のもの。
それよりも手の込んだ状態で作られたケーキだった。
「本命ケーキは文ちゃんにあげたんじゃないの」
「そうね。だけど本命ケーキが二つあってもいいでしょ? まあ浮気ケーキでもいいけど」
「でも……私、椿ちゃんに本命ケーキ作ってない! 柚ちゃんにしか作らなかったのに」
私は恋人だからと柚ちゃんにだけ本命ケーキを作っていた。
だけども椿ちゃんは違った。椿ちゃんは文ちゃんだけではなく私にまで本命のケーキを作っていたのだ。
「別にいいのよ。見返りが欲しかったんじゃないの愛を伝えたかっただけだもの」
椿ちゃんは静かに微笑む。そんな彼女に顔を赤くしながら、私はその箱を大切に紙袋の中に入れる。
そんな私の様子を椿ちゃんは不思議そうに見ていた。
「その紙袋何が入っているの?」
「義理ケーキが入ってるよ。友達から貰っちゃって」
沢山の友達からいつもありがとうと義理ケーキをいくつか貰っていた。
流石にそれら全てを何も無しに持って帰ることは出来ないので先生に事情を話して紙袋を貰ったのだ。
「……栞、ごめんなさい」
突然謝られて椿ちゃんにキスされる。一体どうしたのかと驚いていると椿ちゃんはバツが悪そうに笑う。
「嫉妬しちゃった」
「嫉妬って只の義理ケーキだよ? それに私なんて地味だし、女の子として魅力ないし」
この沢山のケーキだってあくまでも挨拶みたいなもの。
別に私が好きだからケーキを渡したというわけではないはずだ。
だけどもそんな私に椿ちゃんは呆れたように息を吐く。
「残念だけど、栞は可愛いわよ。貴方は何も思わないのでしょうけど……私は結構心配なのよ。義理ケーキを渡した何人が貴方のことを好きなのかってね」
「あはは……多分誰も恋愛感情はないと思うけど嫉妬されるのはちょっと悪くないかも」
私は軽く笑って流そうとするが椿ちゃんはまだしっかりとこちらを見ていた。
「貴方は私だけ好きになりなさい。私だけを愛してね」
「……椿ちゃん」
私はそれに対して何も答えられない。そんな私に対して椿ちゃんは優しく手を握ってくれる。
「さ、帰りましょうか」
「……うん」
私は彼女の言葉に静かに答えると一緒に家に帰るのだった。




