08 水晶玉が空気を読まない
三ᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ
むふんと鼻息荒くふんぞり返るあたしに、今回もお兄さんが先に引いた。
またしてもあたしの勝ち!
向こうが大人の対応をしただけの可能性は見て見ぬふりしておくのが正解だと思うの。
あ、あたしだってもう18歳だもの、大人の対応くらい出来るけどね!
そうよちょびっと社会経験が浅いだけよ。
……街の人たちにちょこちょこ子供扱いされてる気がするのは、気のせい、よね?
あたしが小柄なせいで無意識に、ってやつよ、そうに違いないわ。
気付いてはいけないことに気付きそうになって、ちょっとぷるぷるしそうになってるあたしを見るお兄さんの目が、冷たいというより胡乱げなものを見るような色になっているのはどういうことなの。
あたし、不審者、ちがう。
「……早くここに手を置いて魔力を流してくれないか」
もうさっさと済ませたい、って様子を隠しもしなくなったお兄さんに不満を抱きつつ、あたしは水晶玉に乗せた手にゆっくり魔力を巡らせる。
なるべく優しく柔らかく控えめに──。
どれだけ効果があるかなんて知らないけど、何もしないよりマシなんじゃないかな、とささやかな期待を込めて、丁寧に魔力を流した。
前にジルさまに聞いたことがあるんだけど、鑑定の魔導具もランクがあるらしい。
冒険者ギルドの水晶玉が、せめて中ランク程度の──魔力の有無とおおよその属性がわかるだけのものだったらいいなあ。
はたして結果は……?
「いや、お前、これ……」
水晶玉の中には赤と緑と紫と白の光と、それを包むような虹色の光が、どれも鮮やかに浮かび上がってた。
色が属性を、鮮やかさが適性の高さを示しているタイプかな。
おうふ、あたしの願いは打ち砕かれたぜい。
「火と風と無と光、は申告通りだったが……勘弁してくれよ」
「あ、あはは、ふしぎですねー」
頭を抱えるお兄さんの横で、あたしも笑いながら顔を覆った。
神聖魔法を使える人は他属性に比べて格段に少なく、平民ならほぼ確実に神殿に入っているらしい。
普通に一市民しているより待遇がいいからね。
そんな風潮が一般的な中で、気付かないはずがないレベルに強い適性を持つあたしが、知らんぷりしてやってきたと。
確実に訳アリですねー。
蛇が出てくる藪を背負ってる感じですよねー。
あたしは悪くなーい。
ううむ、やっぱ隠すのって難しいのかな。
なーんも知らない一般人として、人の波の中に紛れるように生きたら隠せてたかもしれない。
けど、ずっとそうやって自分を隠し続けるのはしんどいし、つまんないなって思っちゃったんだもの。
逃げ場がないような大きなトラブルは勘弁だけど、親しい人の苦難は手助けしたいなと思っちゃうし、あたしが困った時も手伝ってほしい。
一人ぼっちで豪華な暮らしをするよりは、質素でも仲が良い人と一緒に遊べる生活がいい。
そこに美味しいものがあれば、もっと幸せ!
そんなノリでいるから、想定不足でこんなことになるんだけどさ。
後悔してるけど、してない。
だって神聖魔法が使えることも含めてあたしだから、それを変えるなんてできないしね。
とりあえず口止めとか出来たりしないかなー? と頭を抱えたままのお兄さんをチラッと見ると、不意に目があって、思わず肩がはねた。
しばらくじっと見つめ合った後、今日何度目かの溜め息を吐いてから、お兄さんは手元の用紙を再度確認した。
「──セシル、18歳、魔術適正あり、属性は火、風、無、治癒……間違いなさそうだな。では戻って登録の続きだ」
「へ、え、あ、はい……?」
「面倒ごとは御免だ。隠す気があるなら意地でも隠し通せ。後からバレた時の手助けはしない。だって俺は何も知らないんだからな」
最初、お兄さんが何を言っているのか分からなくて戸惑ったけど、要は見なかったことにしてくれるらしいと気付いてびっくりした。
でも理由が『面倒臭いから』ってところが、すごくお兄さんらしい。
純粋な優しさじゃなく、本当に面倒なんだろうなってわかるくらいには溜め息深かったし。
あたしは助かったし、はっきりしてるとこも嫌いじゃないけど。
お兄さんのこと苦手な人も多そうだなー、って、カウンターに並んでいた人が少なかった理由に納得した。
スケベ心だけじゃなかったんだね。
先輩冒険者の皆さま、ごめんなさいでした。
「はい、わかりました。ありがとうございます!」
「礼を言われるようなことは何も起きていない。行くぞ」
どこまでも不愛想で、でも宣言通り、絶対に知らないふりをしてくれるんだろうなって思えたくらいには、正直で真面目そうなお兄さん。
これから冒険者ギルド関係のことは、この人に担当してもらおう。
あたしもマイペースに活動するつもりだから、お兄さんにやる気がなくても全く問題ないしね!
「ねえねえ職員のお兄さん、お名前スライン・エイガスさんだよね? スラインさんって呼んでいいですかー?」
「断る。せめてエイガス……いや待て、職員のお兄さんのままでいい」
「わかりました、エイガスさん! これからよろしくお願いしまーす!」
「断る。面倒な気配しかないからお願いされるつもりはない。赤の他人のままでいろ」
「お腹空きましたー。隣の食堂って美味しいですか? エイガスさんのおすすめは何ですかー?」
「────聞けよ」
こっちを見ないで片づけを始めたエイガスさんは、素っ気ないけどきちんと返事をしてくれる。
やっぱり真面目だなーって楽しくなって、2人で検査部屋を出る頃にはきっと、あたしは冒険者ギルドに来た時のような、にっこにこ顔を取り戻していたと思うのだ。
でもまあとりあえず──早く登録手続き終わらせないと、またお腹が反乱を起こしちゃうから、急がないとね。
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