31. 依頼と、再会
久しぶりにちゃんと熟睡したあたしは、思ってたよりしっかりした足取りで、今日もギルドへやってきた。
昨日ジルさまにいっぱい聞いてもらったおかげかな。
なんかこう、腹をくくった、って感覚がある。
カウンターのエイガスさんと目が合うと、離席中の札を置きながら立ち上がった。
無言で示された昨日の小部屋に先に入って待っていると、すぐに何かの書類を持って入ってきた。
……いや察しよすぎでしょ。
それとも、そんなにあたしわかりやすい?
「不満そうな顔をするな。とりあえず座れ、色々説明がある」
「察しってよすぎると怖いんだね!」
「面倒を未然に防ぐには事前察知が最良なんだよ。多くの問題児たちのせいで磨かれた、非常に不本意なスキルだ」
「……遠回しに責められてる気がする……」
あれ、でもそれって本来なら気がつかなくていい余計なところまで気がついてムダに苦労するパターンなんじゃ……?
なんかかわいそうになってきたから追及するのやめよう。
こっそり応援だけしておくね。
「今なぜか急にいらついたんだが、何を考えた?」
「なにも! キョウモ、オセワニナリマス!」
すみませんでした!
暗殺者とかってこんな目してるのかもって想像しちゃったくらい目つきヤバかったんだけど!?
急いで座った椅子でも、思わず背筋がのびちゃうよ。
なんだかふかーいため息をついたエイガスさんも向かいに座り、全部で3枚の書類を出してきた。
えーと依頼受領書がギルド用と騎士団用に2枚と、守秘義務の確認?
「全部読んで署名しろ」
「あ、はい」
うわ、受領書はともかく、守秘義務の説明が長い。
とりあえず中身をざっと読んでみると、どうにも堅苦しい言い回しで依頼で知り得た内容を外部に漏らすなとか、いつまで有効だとか、破ったらどうなるとか、そういうことが細かく書いてある。
こういう書類、王都でさんざん見たなあ。
けどまあ内容に異論はないから、さっさと署名してエイガスさんに返す。
さて、じゃあ次は肝心の詳しい内容といきましょうか。
「では説明会は明日の午前10刻。場所は騎士団の駐留所だ」
「……あれ、ギルドでしてくれないの?」
「ギルドはあくまで仲介。我々も詳細までは知らされていないんでな」
そう言って騎士団駐留所の通行許可証を渡してくる。
……そっか、なら騎士団は強めの緘口令を敷いてるのかもしれない。
つまりそれほど重要な案件だってことだ。
ちょっと気を引き締め直さないと。
けどまあ、今日はもうギルドでできることはないみたいだから、帰って……いやリズたちに説明に行かなきゃ。
今は話せること、ほとんどないんだけどね。
数日ほど別件で手が離せないってことは伝えて、それぞれで手伝いや探索や自主練習を頑張ってもらおう。
はーあ、やっぱり騎士団行くのちょっと憂鬱だなあ。
そういやきっとあの人もいるよね……ああ余計に憂鬱になるから考えないようにしよう。
なんて思いながら小部屋を出て、別れ際にエイガスさんがそういえば、と思い出したように付け加えた。
「昨日から樹海の一部の立ち入りが制限されている。今回お前には関係ないが、黒石板の地図は確認しておくといい」
それだけ言って去っていった。
まあ確かにあたしには関係なさそうだけど、確認は大事だよねと素直に黒石板に近づく。
昨日に続いて今日もこの辺りが一番人が多い。
なるほど、みんなこれを確認してたからかと納得して、少し離れた隙間から地図をのぞき見る。
『深度3及び4、一部区域への立ち入りを当面禁止する』
そう書かれた黒石板の下には、樹海の地図が書かれた木の板が固定されていた。
立ち入り禁止エリアは赤く囲まれているところだね。
遠目から赤い線を目でなぞって、思わず眉間をしかめた。
雨期明けにジオンとトールのランク上げで何度も通ってた辺りが、まるっと入ってる。
あそこ、深度3の中じゃ比較的おとなしい方なのに。
ってことはあたしの報告ついでに、このことも伝えておかないとだね。
ってことで、まずは訓練場へ。
前もって今日までの分をまとめて予約を取ってたから、たぶん男2人はこっちにいると思うんだよね。
予想が当たって、ジオンとトールは今日も2人で魔力操作の練習してた。
あたしが顔を出すと、おやって顔して、それからあたしの説明を聞いたあとは物言いたげな顔になった。
だけど特に口出しはしないで了承してくれた。
あとあたしと同じく最近ギルドに行ってなかった2人も樹海の探索制限は知らなかった。
こっちは聞いた途端に頭を抱えてた。
そろそろ気分転換に出たかったんだろうなあ。
「立ち入り制限ある上に、セシルもリズもいないなら、もうしばらく森に行くのはやめとくかあ」
ってジオンはぼやいてたし、トールも渋い顔してた。
まあそうなるよねえ。
うん、とりあえずいっぱい練習がんばって!
全力で応援した後はリズの家の工房へ。
ルベルさんの手伝いで忙しいところだから、邪魔しないようホントにささっと説明だけして、すぐに別れた。
……ダメだこれ、リズ不足になる日は近い気がする……!
さくさく終わらせて帰ってこよう、そうしよう。
──そんなこんなで翌日。
あたしは騎士団の駐留所の前に立っていた。
東区でも端のほうにある、石造りの四角い建物。
入り口で通行許可証と冒険者カードを提示して門をくぐった先は前庭のようになっていて、第3騎士団の服を着た人たちが黙々と装備の点検をしている。
建物に入ってすぐ左の大きな会議室には、もうけっこうな人数が集まっていた。
そうだよね、今日もあたし5分前に来たもん。
そりゃほとんどの人はもう来てるか。
早すぎても遅すぎても文句を言われた筆頭聖女時代に身につけた5分前行動、ちょっと染みつきすぎてるかもしれない。
たぶん今回のあたしは下っ端だろうから、一応もっと早めに来ておけばよかった……。
今後はもうちょい状況とかも考えよう。
まあ今はもう遅いからね、端っこでひっそり息を殺すのみですよ、はい。
入り口はずらっと並んだ椅子の右後方で、誰か来たからといって、いちいち振り返る人も少ない。
あたしはこれ幸いとそそくさと壁側の端の席に着いて、なるべく気配を消しながら開始時間を待つことにした。
まあね、5分前だからすぐですとも。
それでもなんだか落ち着かない。
王都を出てから、こういう「偉い人が仕切ってる場所」に入るの、実は初めてなんだよね。
この会議室にいるのは騎士が5人くらいと、冒険者が10人ちょっと、それから神官服を着た人も5人……6人かな。
こういう緊張感のある空気って、なんか息苦しくて苦手なんだよねえ。
……ああ、なんか帰りたくなってきた。
「────セシルじゃん」
「……え?」
さっき通った扉の方から聞き覚えのある声がして、びっくりして顔を上げる。
銀に近い薄い灰髪、あたしと頭半分くらいしか高さが変わらない成長途中の細い体つき、生意気そうな顔立ち。
間違いなく最近知り合ったばかりの、Bランク冒険者であるレオルだ。
その背後には宵鴉のメンバーが勢ぞろいしていた。
あれ、治癒魔法使い以外も、冒険者って参加するんだ?




