06 食堂の誘惑に負けそうです
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フー(`・ω・)
フー(つ\ ̄ ̄フ ̄ ̄ ̄
厳めしい、って感じの石造りの建物を見上げて、あたしは一度だけ強く息を吐いた。
目の前にそびえ立つ冒険ギルドは大きな両開きの扉を開いたままで、中からさわさわと小さく人の声が聞こえてくる。
何で開いたままなんだろ?
重そうな扉だから助かるけど不用心……じゃないか。
冒険ギルドなんだから、中にいるのは腕に覚えのある人ばかりだよね。
強盗とか窃盗とか出来るわけなかったわ。
なんて関係ないことを考えてたら気が抜けて、柄にもなく緊張してたことに気付いた。
うん、まあね、勝算があるって言っても、魔物の森の探索となると、さすがに今までとは訳が違うからね。
教えてもらった話も、危ないよと止められたことも、いちおう自分なりに頭の中で並べて考えてから決めたもの。
だからこそ緊張もするってもんよ。
よし、と気合一発、両拳を握って足を踏み出す。
これが新しい世界への第1歩!
こっそりドキドキしながらも堂々と冒険者ギルドに入ると、中はどうやら3つの区画に分かれているようだった。
扉を入って正面は広く空間が開いていて、奥の壁には黒い板みたいなものが……あ、あれ黒石板かな。
灰墨で文字を書いたりこすって消したり出来るから、よく伝言板として活用されてるのよね。
神殿では紙を使うこともあったけど、一般にはその場限りの伝言に回せるほど安いものじゃなかった。
ぱっと見ただけでも文字がぎっしりで、冒険者らしき人たちが何人かその前で立ち止まっていた。たぶん依頼とか連絡とか、そういうのを見る場所なんだろう。
その広間の部分には何か相談してる人たちや、左側にあるカウンターの方を見て話している人たちなど、何組ものグループが集まっている。
えーっと、待ちあわせとか待機場所みたいな感じかな?
左側にカウンターがいくつもあって冒険者の人たちが並んでるから、ここが冒険者ギルドの職員が詰めている場所だね。
じゃあ右側は、と薄い仕切りをはさんだ向こうをチラッと覗いてみると、丸テーブルが並んでて、どうやら色んな人たちが食事中。
なるほど食堂ね、営業時間とかあるのかな?
ふむふむと観察していると、覗いていた先から漂うお腹が空く香り。
やめてー! いい匂いさせないでー!
受付よりも先に食べに行きたくなっちゃうじゃない!
あたしは冒険者登録しにきたの!
食事しに来たんじゃない……んだけど、登録した後でなら大丈夫よね?
チラ見だけのはずが完全に踏み出しかけていた足を気合で方向転換させて、今度こそカウンターに向けて足を踏み出す。
まわりの訝しげな目はひとまずスルー。
皆さん、どっち行くか迷ってた姿なんて見てないはずだもの。ね!
にっこり笑いかけて横を通り抜けたけど、誰も声を掛けてこなかったってことは問題なしだよね。
ふーやれやれ、と内心で冷や汗をぬぐいながら改めて冒険者ギルドのカウンターへ。
窓口は6つあるけど、今はひとつお休みなのか職員は5人。
きれいなお姉さんと色っぽいお姉さんと、可愛いお姉さんと美人なお姉さんと、やる気のなさそうなお兄さん。
……なんか最後の人だけ属性ちがくない?
しかもきれいなお姉さんたちが対応してる受け付けカウンターは、多いとこは5人くらい並んでるのに、一番端のやる気のなさそうなお兄さんのとこだけ2人しかいないんだけど?
ちょっとみんな欲望に忠実すぎない?
素敵なお姉さんがいたらお近づきになりたいのは本能なのかもしれないけどさあ……急いでない時なんて、そんなもんなのかな。
まー、欲につられて登録しにきたあたしに言われたくないか。
よし気にしないことにしよ!
あたしは急いでるから、空いてる場所があるの助かるしね。
そんなわけで、1番待ち時間が少なそうなお兄さんのとこへ素早く移動!
お姉さんに対抗心燃やしてるわけじゃないですよー。
あたしは早く登録を済ませて、あっち側に食事しに行きたいのです。
誰にともなく説明しながら時間を潰してると、思ったより早く前の人たちがいなくなったので、この後のご飯にうきうきする気持ちのままカウンターへ進んだ。
「こんにちわ! 冒険者登録したいんですが、受け付けってここで大丈夫ですか?」
ギルドへ到着した時の緊張感はどこへやら、あたしは元気いっぱい職員のお兄さんに話しかけてた。
面倒そうに淡々と仕事をこなしていたお兄さんは、訝しそうに片眉をあげるとジロジロあたしを観察してくる。
うら若き女性を凝視すんのはよくないよー。
なんか文句あんのかコラァ。
緊張がぶり返すどころか受けて立つ! と好戦的になるのはあたしの悪い癖かもしれない。
でも泣いて逃げるのは性に合わないんだよね。
あとお兄さんの目がまっったく色を含んでなくて、品定めされてる感じだったから、思わず負けず嫌いな性格に火が付いちゃったと言うか……。
さすがにここで喧嘩売るほど考えなしではないけどね。
意地でも最初の笑顔を崩さないで反応を待ってたら、しばらくしてお兄さんの方が引いた。
よし、勝った!
「…………はぁ。新規登録でいいのか?」
「はい! お願いします!」
「一応確認するけど、冒険者は仕事中に身の安全が保障されないことはわかってる?」
「大丈夫です。渡り鳥亭のメルトさんに、色々教わってきました」
「渡り鳥亭の……ああ、元B級剣士のメルトか。ならいい。字は?」
「読み書き問題ないです」
「ならこれに記入して」
ありゃ。愛想はないけど有能な人っぽい気配を察知!
今あたしが泊まっている宿、渡り鳥亭のおかみさんのメルトさんは、4年前に引退したB級剣士で、今は2児のお母さん。
すっかり冒険者稼業から遠ざかってるって聞いてたのに、名前だけで通じるとは……なかなかやるな!
謎のジャッジを下しながら、渡された用紙に必要事項を書いていく。
名前、年齢、出身、得意武器、戦闘経験の有無──最低限の個人情報と、冒険者としての目安となる質問。
書けない場所がある時はどうするんだろ?
事情があれば対策とかしてくれるんかなーとか色々考えつつ、あたしは問題なく埋めてからお兄さんに渡した。
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