表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日あたしは筆頭聖女を辞めました。  作者: そらのたまご
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/61

27 頑張れセシル先生……!


 そんなこんなで、訓練を始めてから5日目。

 訓練日としては今日で3回目だ。

 リズは初日に、ジオンとトールもなんとか2回目の訓練で、魔石へ一定量の魔力を流し続ける課題を無事にクリアした。


 訓練のない日はちゃんと魔力を休ませて、それぞれ普段通りに過ごしてもらっている。

 昨日も実際に魔力を使う訓練は休みにした。

 その代わり夜にみんなで集まって、身体強化についての勉強会みたいなものを開いたけどね。


 みんなは身体強化ってどんな力だと思ってる?

 どんなときに使いたい?

 どんなふうに使えたら便利?

 そのためには身体のどこを強くすればいいと思う?

 じゃあ、それだけを強くすれば本当に大丈夫?


 そんな感じで散々質問攻めにした。

 ちなみにあたしも昔、似たようなことをやらされたことがある。


 当時は、なんで先生が答えを知ってるのに、いちいちあたしに考えさせるの!? って思ったこともあった。

 でもいざ自分が魔法を使おうとしてから、なんとなく意味がわかった。


 魔法って、イメージがすごく大切なんだよね。

 呪文だけ知っていても、その魔法がどんなもので、どんな効果を起こすのか自分の中でちゃんと想像できなければ、思った通りには発動してくれない。


 だから身体強化だって、ただ漠然と「強くなる魔法」ってだけじゃ足りない。

 速く走りたいのか、重いものを持ちたいのか、攻撃を受けても耐えられる身体が欲しいのか。

 何をしたいかによって、身体の使い方は変わる。


 だから先に自分なりのイメージを作っておく。

 その方が、今から身体の中で魔力を動かすときに役に立つんだよね。


「それじゃ今日も始めよっか。まずは右腕ね。肩から指先まで、できるだけ偏らないように魔力を広げてみて」


 3人がそれぞれ集中する。

 初日のあたしなら、腕全体に均等に魔力を流して! くらいしか言えなかったけど、今はちょっと違う。


「肩だけに集めすぎないでね。肘、手首、指先って魔力が広がっていくことを意識して。途中で薄くなる感じがしたら、どこから変わってるのか自分で探してみて」


 これは初日にリズと一緒に試していて気づいたことだ。

 あたしは今まで身体強化なんて、必要な場所へ必要な量の魔力を流せば発動する、程度にしか考えてなかった。

 でも人に教えるならそれじゃ全然足りないんだよね。


 どこへ、どれくらい、どうやって流すのか。

 自分の中で無意識にやっていたものを、ちゃんと拾い直して意味を考える必要があった。


「……やっぱり肘から先が薄くなるな」

「俺は逆だ。手の方に集まりすぎる」


 今回も苦戦気味のジオンは眉をしかめて、隣のトールは無表情で自分の右腕を見つめて苦く告げた。


「じゃあジオンは肘から先へ少し多めに流してみよう。トールは逆に、手へ集まりすぎないよう途中から少し抑えてみて」

「了解」

「やってみる」


 2人がまた集中し始める。

 さらにその隣ではリズが自分の右腕を触りながら何やら考え込んでいたけど、不意に顔を上げて話しかけてきた。


「ねえセシル。魔力って身体の中で広げれば広げるほど、一か所あたりの量は減るよね?」

「そりゃまあ、全体の魔力量が同じだとそうなるね」

「逆に言うと全身を強化するなら腕一本のときよりたくさん魔力が必要ってことで合ってる?」

「そうだね。それで合ってるよ」


 このへんはあたしでもちゃんとわかるぞ。


「だったら全身丸ごと同じ強さで強化するより、必要な部分だけ強くした方が効率がよくて、魔力の節約にもなるのかな」

「……うんうん、必要なタイミングで必要な部分の強化をするのが一番便利だよ。それにたしかに魔力の節約にもなるね!」


 ちゃんと考えて同意したのに、リズは一瞬黙ってから生暖かい笑みを浮かべた。

 あたしはゆるーく笑い返すことしかできなかった。


 ええ、ええ、そうですよ、身体強化での魔力の節約なんて考えたことないですよ!

 そもそも筆頭聖女になってからは神聖魔法以外ほとんど使うことなかったし、冒険者になってからも魔力切れの心配するほど魔力を使ったのはこの間のレオルの治療のときくらいだ。


 だからあたしに聞いてもわかんないよね、ごめんね、みたいなやさしい顔、泣きそうだからやめてほしいなあ!

 あと横からの物言いたげな視線の主は絶対に見ない!

 と思ったら、予想外に冷静な感じのトールの質問が続いた。


「じゃあセシルは実戦で、ずっと全身を同じ強さで強化し続けているのか?」

「んー……ううん、状況によって変えてることが多いかな」

「つまり走るときは脚を強くして、直接攻撃するときは腕に回す、みたいな?」

「そういう感じ!」


 たしかに魔力の節約とかはあまり気にしてないけど、だからといってムダばっかりって言われるとそれも違う。

 必要なときに、必要な部分へ、必要な量を。そう教えられたときから無意識にやってるだけで、魔力を垂れ流してるわけじゃないよ。

 ……まあなんでそんなことしてたかは、リズの言葉でわかったところだけど。


「でもさ、腕だけめちゃくちゃ強くして剣振ったら、肩とか腰とか痛めそうだよな」

「あー、それはそうだね」


 ふと気づいたって感じでこぼしたジオンの言葉は正しい。

 それに自分で気づけたのが大事なんだよね。


「だから本当に腕だけ、っていうよりは、動きに必要なところをまとめて強化する感じかな。重いものを持ち上げるときって腕だけじゃなくて肩や腰も使うし、走るにしても脚だけじゃなく身体を支えるところも必要になるよね」

「なるほどな」


 おお、なんかみんなで話してる方が、あたし一人で説明するよりわかりやすくなってない?

 いや、先生としてそれでいいのかって疑問はあるけど。

 わかりやすくなってるならいいよね!


「セシルは戦ってる最中でも、その配分を変えてるの?」

「そうだね、変えてるよ」

「どうやって?」


 …………どうやって? えーと。


「こう……必要になったところに、ぐって」

「ぐって?」

「そう。強化したいところに魔力をぶわって流して……」

「…………ぶわっと」

「……………………ごめん。そこはまだうまく説明できない」


 観念して素直に謝ったら、今度も優しく笑われた。

 出来の悪い生徒をほほえましく見守る先生みたいな顔なんですけど。


「じゃあそこは、私がもう少しできるようになってから一緒に考えよう」

「うん、お願い!」


 もうどっちが先生なんだか、って感じだね。

 でも多分あたしたちはこれでいいんだと思う。


 あたしは魔力や身体強化の使い方を知っている。

 どういう使い方をすればどう動けるのか、どんな無茶をすれば身体のどこを傷めるのかも経験として知っている。

 でも自分が無意識にやってることはうまく説明できない。

 ならわからないところは、一緒に考えればいい。


 とりあえずリズは時間さえかければ手足のどこでも均等に魔力を流せるようになってるから、次の段階だね。


「じゃあリズは魔力を流した状態のまま、ゆっくり腕を動かしてみようか」

「わかった」


 指示を受けて、リズは慎重に腕を動かし始めた。

 曲げて伸ばして、上げて下げて、握って開いて、また曲げて伸ばして。

 3回くらい繰り返してから何かを見極めるように自分の手を見つめてる。


「……動かすと、流れ方が変わるね」

「え、変わってる?」

「うん。伸ばしてるときと曲げてるときで、魔力の集まりやすい場所が少しだけ違う気がする。上げ下げはそこまで変わらないかな」


 言われて今日も自分の腕を強化して確認する。

 あえて魔力を少なくしてゆっくり動かしてみると、たしかにちょっとだけ違うかもしれない。

 いやでもホントにちょびっとだけだよ。


「セシルは?」

「…………どうやら無意識に調整してたみたい」


 今日もまた1つ、自分が無意識にやってたことを知ってしまったわ。

 うーん、あたしって身体強化のこと、知ってるようで意外と知らなかったんだね。

 いや、使い方はちゃんと知ってるんだよ!?

 なんでそうしてるのか説明しろって言われるとわからないだけで!


「あーダメだ! また指先だけ薄くなる!」

「俺はさっきよりましになった」

「はいはい、焦らない! ジオンはどこから薄くなってるかもう一回確認! トールはあとで魔力の流れ見るね!」


 男2人が騒ぎ出したので、リズにはそのまま腕を動かしたときの変化を調べてもらうことにして、あたしは隣へ移動した。


 こんな調子で、いつ身体強化を使えるようになるのかなんてまだ全然わからない。

 もしかしたら今日いきなりできるかもしれない。

 だけど明日かもしれないし、もっとずっと先かもしれない。


 それでも3人とも、毎回確実に魔力を扱えるようになっている──それで十分だ。


 あたしが知っていることを教えて、3人もそれぞれ自分なりに考えて、わからないところは一緒に試してみる。

 そうやって少しずつ進めばいい。

 先生だからって、何もかも一人で知ってる必要なんてないんだね。


 ……先生なんて呼ばれるのはまだまだ恥ずかしいけど。

 やっぱりみんなの先生役は、案外悪くないかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ