26 行け行けセシル先生……!
手の中の魔石に悪戦苦闘してる男2人を横目に、あたしは改めてリズに向き直った。
「じゃあリズは次の段階に進もっか。さっき魔石に流してた魔力を、今度は外に出さないようにしてみて」
「外に出さない?」
「そう。魔石に流してた魔力を、手の外に出る直前で止める感じ。それをそのまま腕の中に広げて、指先まで行き渡らせてみて」
昨日、木樽で説明した話と同じだ。
属性魔法は樽の中にある魔力を注ぎ口から外へ出す。
身体強化ではそれを外へ出さず、身体の中に留めたまま使うものだからね。
「腕全体に広げる……」
リズが自分の右腕を見ながら、そっと魔力を動かし始める。
「そうそう。最初はほんの少しでいいよ。強くしようとしなくていいから、まずは魔力を腕の中に留めることを意識して」
「うん」
リズが静かに目を閉じた。
実はこの段階になると、あたしにできる説明って意外と少ないんだよね。
どうやってるの? って聞かれたら、身体の中に流してる、としか言いようがなくてさ……。
だって昔からずっとそうやって使ってきたんだもの。
右腕を強化したいなら右腕へ。
脚なら脚へ。
身体全部なら全身へ。
必要な場所へ必要なだけ魔力を流して強化する。
……うん。
我ながらびっくりするほど感覚任せだね。
とりあえずは実際にやってもらって、疑問が出たらその都度考えよう。
わかりやすく答えられるかどうかは、ひとまず棚上げで!
しばらくして、リズが小さく首を傾げた。
「どうしたの?」
「指先まで広げようとすると、途中で魔力が薄くなるような感覚があるなって……」
「んん? 薄くなる?」
「うん。肩の辺りには普通に流れてるのに、肘から先に行くほど魔力が少なくなるっていうか……」
ふむふむ、そういうことね。
とりあえずあたしも右腕だけに魔力を流して確認する。
なるほどたしかに、腕全体を強化してるときって指先へ向かうほど少し強めに魔力を流してる、ような気がする。
完全に無意識だったから気づいてなかったよ……。
「たぶんだけど、腕の中に広げていく途中で、いろんなところに魔力が分かれてるんじゃないかな」
「分かれてる?」
おお、リズが何かに気づいたみたい。
あたしは理由とかさっぱりわからないんだけどね。
「ほら、腕って言い方だと一本だけど、実際には肘があれば手首もあるし、指だって五本もあるでしょう? 全部に同じように魔力を行き渡らせるなら、途中でそれぞれに分けなきゃいけないんじゃないかな」
「……あー、そういうこと、なんだ?」
「じゃあ最初から腕全体に同じ量を流すんじゃなくて、途中で分かれることを考えて少しずつ配分を変えれば……」
リズが小さく呟きながら、また魔力を動かすことに集中し始めた。
あたしはその横で腕を組んで見守った。
……見てるだけじゃないよ、ホントだよ!
ちゃんとジオンとトールの様子にも目を向けつつ、何かが起きたときのためにいつでも動けるようにしてるだけ!
あたし、今日は先生役かつ監督役だもの!
「あ、さっきより均等になった気がする」
「どれどれ……ちょっと触るけど魔力はそのまま流しててね」
一応断りを入れてから軽くリズの腕に触れて、これまた身体強化の延長で自分の魔力感度を上げて、流れている魔力を探ってみる。
おお、たしかに綺麗に広がってるみたい。
「うん! いい感じ!」
「ほんと?」
「うん。あたしがやってるのとかなり近いよ」
「よかった……」
ほっとしたように笑うリズを見てあたしも嬉しくなる。
……てゆーか、もしかしてこれ、教えてるのあたしだけじゃないね?
あたしが「こうするんだよ」って感覚でやり方を教えて、リズが「じゃあどうしてそうなるんだろう」って丁寧に考えて実行する。
その説明を聞いて、あたしは自分が普段どんなことをしてるのか改めて気づいてるんだもの。
教えつつ教えられる……ちょっと変な感じだけど、こういうのもあたしたちらしいのかも。
「よーし。その感じで少しずつ練習しよっか。ただし無理と無茶は禁止ね」
「うん」
そこでくるりと振り返る。
こちらをちらちら見ながら相変わらず魔石を明滅させてるジオンと、黙々と自分の魔石に集中しているトール。
「無理と無茶禁止は当然2人もだからね! それと最初のうちは、あたしがいないところでの訓練も禁止!」
「えー! でも明日はやらないんだろ? 自主練したい!」
「ダーメーです!」
「なんでだよ!」
なんでって、そりゃあ。
「今の3人、自分がどれくらい魔力を持ってて、どのくらい使ったら限界なのかもわかってないでしょ!」
魔力を自分で使い切ったからって、それだけですぐ死ぬわけじゃない。
普通なら生命維持に必要なところまで魔力が減る前に、身体が限界を迎えて意識を失う。
それ以上無理やり魔力を奪われたりでもしないかぎり、魔力切れそのものが命にかかわることはまずない。
だけど、だから安全ってわけでもないんだよね。
「身体強化の訓練中にいきなり気絶したら危ないでしょ。それに今は、どのくらい魔力を使ったらどのくらい疲れるのか、一晩休んだらどれくらい戻るのかも、自分でちゃんとわかってないんだから」
「あー……」
「ジオンは魔力が底をつきかけたときの感覚、嫌ってほど知ってるでしょ?」
「…………まあな」
白の捕食者に捕まったとき、ジオンは本当に限界寸前まで魔力がなくなっている。
さすがにあのときのことを持ち出されると、反論はしづらいらしい。
「今は限界まで頑張る練習じゃないの。自分がどれくらい魔力を使ってるのか、どこまでなら大丈夫なのか、それをちゃんとわかるようになるのも訓練のうちだからね」
初心者のうちは、一度しっかり魔力を戻してから次の訓練を始めた方が、自分の感覚だって比べやすい。
昨日はできたのに今日はできない、ってなったときに、それが技術の問題なのか、単純に魔力が減ってるせいなのかわからなくなったら困るもんね。
「だから明日は休み! もっと魔力の扱いに慣れて、自分で危ないところがわかるようになってからなら自主練してもいいよ。でも今はダメ。守れないなら訓練そのものを中止します!」
「それは困る」
黙って聞いていたトールが即答した。
「俺は守る」
「オ、オレも! 守るから中止は勘弁!」
「よろしい!」
まったく。
使えるようになりたいって気持ちは嬉しいけど、張り切りすぎて倒れられたら意味ないんだからね。
「──ふふっ」
「え、どしたのリズ?」
「セシル、すっかり先生だね」
「…………」
言われてから自分の発言を思い返して、一気に頬が熱くなった。
無意識だったけど、今めちゃくちゃ先生っぽいこと言ってなかった?
「せんせー、光が全然落ち着いてくれませーん」
「先生。俺にも何か助言を頼む」
「あんたら絶対からかってるでしょ!」
照れくささが限界を超えて、思わず叫んだ。
「光は勝手に落ち着かない! 落ち着かせるの! いきなり合わせようとしないで、まずは今どれくらい魔力を流してるのか意識して! そこから少しずつ増やしたり減らしたりしてください!」
「はい、先生」
「さすがせんせーい」
「もーーー!!」
先生役はともかく、生徒が可愛くなーーい!




