24. 魔法、使ってみたくない?
宵鴉との同行探索から戻ってきて2日。
さすがに翌日は部屋でぐったり休んだけど、今日はリズと会う予定を立てている。
今回の探索が終わったら色々話そうねって、出発前から予定を合わせてたんだよね。
Bランクパーティとの初めての本格的な探索だし、深度5のハザードエリアだって勿論初めてだ。
帰ってきたら絶対に話したいことがいっぱいあると思ってたんだよね。
実際、いっぱいどころじゃなかったけど。
「それでね、聞いてリズ! ガルディスさんが事前に漆黒の悪魔の絵を描いてくれてたんだけど、実物ぜんっぜん違ったの!」
「え、どれくらい?」
「なんかね、絵だともっとこう……かわいかった!」
「かわいかった……?」
「実物はめちゃくちゃでっかくてゴツくて、角なんてあたしより大きいの!」
「それは……絵が悪かったんじゃないかな……」
やっぱそうだよねえ。
そんな感じで、今日はリズの家でお茶とお菓子をつまみながら、探索中の出来事を片っ端から話していた。
宵鴉のみんながどうやって森を進んでいたとか。
深度5のハザードエリアがどんな場所だったとか。
漆黒の悪魔がどれだけ大きくて怖かったとか。
レオルが空中をびゅんびゅん飛び回って戦ってたこととか。
リズも気になることがいっぱいあるらしく、いつもより質問が多い。
あたしも思い出した順番に答えていく。
「レオルくんって、風魔法だけでそんな動きができるの?」
「んー、風だけじゃないよ。身体強化もかなり使ってたと思う。あれだけ速く動いたら、素の身体じゃたぶん耐えられないし」
「そっか……身体強化も使えるんだ」
「うん。レオルはもちろん、ガルディスさんもナディアさんもミレナさんも、全員普通に使ってたよ。身体強化は属性の適性とは別だからね」
何気なく答えて、それからお菓子に伸ばしかけた手が止まった。
「…………ん?」
「どうしたの?」
「いや……ちょっと待って」
身体強化は無属性だ。
火や水みたいに魔力を別の属性へ変換する必要がなくて、自分の身体の中にある魔力をそのまま使う。
だから属性適性そのものは必要ない。
「あれ……?」
「セシル?」
「リズって、自分で身体強化使ったことないよね?」
「う、うん。ないけど……」
「でも魔力はあるよね」
「一応。魔導具を扱うのに使ってるから」
「だよね」
──それってつまり、身体強化なら使えるんじゃない?
いや、もちろん絶対に使えるとは限らない。
魔力量だって違うし、魔力を身体の中でどう動かすかって感覚にも個人差がある。
でも少なくとも、属性適性がないから絶対に使えないってわけでもないはずだ。
「……リズ。ちょっと魔法の話していい?」
今も魔法の話をしてたけど、もっと根本的な話だ。
そもそも魔法って、使える素質があるからって好きに使えるようになるものじゃないんだよね。
誰もが知っていることだけど、魔法に関する知識のほとんどは貴族や神殿なんかの特権階級が持っている。
魔力についての基礎知識も、実際に魔法を使う方法も、それぞれの家や組織が大事に抱え込んでいて、基本的には外へ出さない。
だから庶民で魔法を使える人は少ない。
冒険者なんかでたまに魔法を使える人を見かけるけど、そういう人たちも誰かに教えてもらったり、何かしら覚える機会があった人がほとんどだと思う。
リズだって魔導具を扱うために魔力は使っている。
だけど身体強化のやり方を知らないのは、別に不思議なことじゃない。
あたしは神殿で基礎から教わっている。
今まで当たり前すぎて考えたこともなかったけど――もしかして、その知識を教えればいけるんじゃない?
若干困惑してるリズの前で、あたしは自分の中にある知識を整理する。
とはいえ、あたしが神殿で教わったときみたいな小難しい説明を、そのまま再現できる自信はない。
こういうときは何かに例えた方がわかりやすいかな。
「えーとね、まず大きな木樽を想像してみて」
「木樽?」
「そう。その中に水がいっぱい入ってるの。それがその人の魔力ね」
それから樽の周りに、色の違ういくつもの注ぎ口がついているところを想像してもらう。
赤なら火。
青なら水。
ほかにも風や土なんか、それぞれ別の属性へつながる注ぎ口。
「その注ぎ口を開けて、中にある魔力を属性に変えながら外に出すのが普通の属性魔法、って考えたらわかりやすいかな」
「うん……なんとなく」
「人によって開けられる注ぎ口と開けられない注ぎ口があって、開けられてもいっぱい出せたり、少ししか出せなかったりするの。それが属性適性みたいなものね」
そこまで説明すると、リズは少し考え込んでから首を傾げた。
「じゃあ、身体強化は?」
「そこなんだよ。木樽そのものが身体だと考えて。中に入ってる魔力を外へ出さないで、そのまま内側から樽を補強する感じ」
そう、身体強化は注ぎ口を必要としないんだ。
「……なるほど。じゃあ無属性だから適性がいらないんじゃなくて、そもそも属性への変換が必要ないから、誰でも使える可能性があるってこと?」
「そう! たぶんそれ!」
思わず勢いよく指を差した。
さすがリズ。あたしが感覚で覚えてたことを、あっという間に整理してくれた。
「もちろん持続時間とか、どこまで強くなれるかには個人差があるよ。魔力量も関係するし、無理に強化しすぎたら筋肉とか関節を傷めることもあるし」
「それでも、使える可能性はあるんだよね?」
「あると思う」
そこまで答えて、また気付いた。
「…………あ。つまりリズだけじゃないんじゃん」
「うん、そうなるね」
そんなわけでリズを連れて、ジオンとトールに突撃をかけることにした。
探索帰りの2人がジオンの家に戻ってきたのを見つけて、ほぼ有無を言わさず空き部屋まで案内させる。
「それで、急に何なんだ?」
事情もわからないまま捕まったジオンが、椅子に座りながら首を傾げる。
トールも隣で似たような顔をしていた。
「うん。ちょっと二人に聞きたいんだけどさ……魔法、使ってみたくない?」
「「……は?」」
見事に二人の声が重なった。
まあそういう反応になるよね。




