17. 甘いケーキと物騒な依頼
目の前に静かに置かれたお皿にあたしは目を輝かせた。
ふっくら焼けた黄金色のパンケーキに、これでもか! と言わんばかりに山盛りにされたふわふわクリーム。
そしてキラキラと光を反射するようにつやめく新鮮な果実たち。
見てるだけでも幸せすぎる!
なんだこれは、あたしは夢を見てるのか、と頬をつねってみるも痛いだけだし、何なら隣からの視線も痛い。
昼食に続いてこちらも奢ってもらっているのでお財布は痛くないものの、もしかしたら後々の体重的にも痛いかもしれない……けど今は知ったこっちゃない。
こんな素敵ケーキを堪能しないとかありえないし。
パッと顔を上げて、向かいに座る男性に視線を向ける。
トールがガルディスと呼んでいた屈強な男性は、あたしの様子に小さく笑って片手でケーキを示した。
「どうぞ、召し上がれ」
「……! ありがとうございます。ご馳走になります!」
許可が出たので、さっそくフォークに手を伸ばす。
下品にならないようにだけ気をつけながら、それでも喜び勇む気持ちを抑えきれずに大きなひと口を放り込む。
クリームは思ったより甘さ控えめで、香ばしいパンケーキのバターの香りが口いっぱいに広がった。
溶けるようになくなってしまったのでさらにふた口続けてから、その後に果実を摘まむと口の中の甘さがスッと落ち着いていく。
なんだこれは、無限に食べれるんじゃないかな、と愕然としながらも口内の幸せに浸っていると、今度こそ横から呆れを隠さない指摘が入った。
「お前、あれだけ食べた後でよく食えるな」
「おだまり。いい男は女の食事量に余計な口出ししないものよ。相手の健康に害がないときは見逃すのが紳士なの」
「……その量は害じゃないのか」
「ない」
きっぱり断言したので、トールは追及を諦めたようだ。
これだから乙女心がわからないオコチャマは、というやれやれ感も出しておいた。
なお自分の方が年下だという事実からは目を逸らしておくことがポイントだ。
かみ殺した笑い声がすることに気がついて再び視線を向けると、男性は大きな手で口元を覆い、うつむきぎみに肩を震わせていた。
そんなに変なこと言ったっけ?
「……ガルディスさん」
「ふ、すまんな、あのトールが振り回されてるのが、意外というか面白いというかな、ははっ」
「こいつはジオン以上に傍若無人ですよ。その辺覚悟しておいてくださいね」
「どういう意味よ?! これでも周りには気をつかってるし!」
昼食時の素直さはどこへやら、相変わらずの憎まれ口に思わず全力で噛みつき返しちゃったじゃない。
まだ人となりもわからない人がいるってのに、もう!
トールの知り合いらしいガルディスさんは、最初これから時間があるなら食事でもしながら話ができないか、と提案してきたが、あいにくと昼食は済ませた直後。
そう伝えたら少し考えた後、じゃあ食事じゃなくても腰を落ち着ける場所に行かないかと誘い直してきた。
あたしにとっては全く知らない人だから正直かなり躊躇したんだけど、すぐにトールがいる時に用を済ませた方がいいんじゃないかって考え直した。
知らない人と2人きりで話すよりは、お互いに知人がいた方がクッションになるよね、多分……。
とりあえず、補足説明役くらいにはなってほしい。
そうして連れてこられたのがこの店で。
ファンシーとまでは言わないがオシャレで高級そうな店構えの喫茶店、その個室に案内されたのである。
ぶっちゃけごっつい筋肉を持つ中年に近い男性の行きつけとしては不似合いで、ギャップ狙いかと謎に混乱したのもつかの間、差し出されたメニューボードにそんなことは欠片も気にならなくなった。
自分の奢りだから遠慮なく、と言われて遠慮する方が失礼というものでしょう!
この言葉が今日2回目だということは記憶にありません。
そうして運ばれてきたパンケーキに夢中になっているところをじっくり見られてた以上、周りを気にしてるって言葉の信ぴょう性は薄いかもしれないけど!
あとちょっと恥ずかしいけど!
でも、最初よりあたしの緊張と警戒心は薄れていた。
食べ物に釣られたからじゃないからね。
想像よりもトールと親しい仲に見えたからだよ!
「──それで、Bランク冒険者のあなたが、こいつに何の話ですか?」
反して、唐突に本題を投げかけたトールの方が警戒心を抱いているみたいでちょっとびっくりする。
いやいや待って、その前になんて言った? ……Bランク?
「依頼だと言っただろう。──だがお前の勘も間違っちゃいないな。正式に組んでるわけじゃないのなら、横入りでも引き抜きでもないだろう?」
……んん? えっと、依頼、横入りに──引き抜き!?
えええ待って待って、話の流れ的に多分あたしをBランクのパーティに勧誘したいってこと?
何がどうなってそうなったのか、さっぱりわかんない!
フォークを握りしめたままグルグル目を回すあたしに気がついて、2人の男は咳払いしてひとまず矛を収めたらしい。
そこから改めて説明が始まった。
「改めて名乗っておこう。俺はガルディス・ローデン。Bランクパーティ宵鴉のリーダーをしている」
Bランクって言ったら文句なく優秀って認められた人たちにしか与えられない、一流の証だ。
そんな人がなんで突然? ってぐるぐる継続中のあたしに気をつかってか、ガルディスさんもトールも丁寧に前置きを説明してくれた。
ガルディスさんはもともとトールの父親の同僚で、ジオンの商会の護衛部隊に所属していたそうだ。
その縁でトールとは幼い頃から知り合いだったけど、十年くらい前に独立して冒険者になったんだって。
そんなベテランが率いるBランクパーティ宵鴉は、全員が個人でもBランクかCランクを持つ冒険者──今は4人で構成されているらしい。
特定の街を拠点とせずに、各地を回って依頼を受けているパーティらしい。
主に引き受けているのは、魔物の討伐や危険地域の探索。
西に強い魔物が現れたと聞けば西へ向かい、東にワイバーンが出たと聞けば東へ向かう。
そんな生活を何年も続けている、バリバリの武闘派パーティなんだとか。
ここの森に発生したハザードエリアも、これまでに何度か討伐したことがあるらしい。
「ガルディスさんは、見た目以上に物騒だから気をつけた方がいいぞ」
そんなトールの忠告に、ガルディスさんは否定するでもなく、愉快そうに喉を鳴らして笑った。
おおうさすが武闘派、肝に銘じておこう。
それにしても、そんな筋金入りの武闘派がこんなおしとやかなあたしに何の用だというのか。
「さて、本題に入ろうか」
ガルディスさんは笑みを収め、あたしへ視線を定めた。
「セシル・ウェグナー嬢。君に頼みたいのは、現在、深度5で発生しているハザードエリア【漆黒の悪魔】の討伐への協力依頼だ」
「……どうしてあたしなんですか?」
「先ほども話したが、俺たちは各地を転々としている。その中で、セシル・ウェグナーという名前を何度か耳にしたことがあってな。特に君の出身の王都ではよく聞いたよ」
──ああ、なるほど。
平民出身でありながら筆頭聖女にまで上り詰め、突然にその役目を辞して王都から消えた少女。
以前も色々言われてたけど、最近ならそういう類の噂だろうな、と簡単に想像がついた。
噂話としては最高のネタだ。
フォルナに来てからは聖女関係の噂を耳にすることはなかったけど、知っている人がいてもおかしくはない。
「そしてフォルナに戻ってきてみれば、同じ名前の少女が冒険者として活動している。しかも登録から1年も経たないうちにCランクまで上がっているとなれば、気にならない方がおかしいだろう」
「同姓同名の別人かもしれませんよ?」
「それならそれで構わんさ。回復魔法を使えるCランクの魔法使いなんてとんでもなく貴重な存在だ。冒険者なんて色々な過去を持っている奴らばかりだ。そんなことにこだわる理由はない」
「なるほど」
あっさり興味ないと言い切った様子に、本気であたしの過去自体はどうでもいいと思ってるんだなってわかった。
そっか、ガルディスさんが探してるのは聖女じゃなくて、依頼に同行できる冒険者なんだ。
「因みに俺がCランクに上がるまで3年かかった」
「ガルディスさんでも?」
「ああ。だからこそ、君の昇格がどれだけ早いか分かる。少なくとも、実力が不足しているとは考えていない」
ガルディスさんはそこで言葉を切って、隣にいるトールへ目を向けて獰猛に笑った。
「それともう1つ。白の捕食者が消滅し、行方不明になっていたトールとジオンが奇跡的に生還しただろう。その後から2人は君と一緒に行動し始めた」
思わず隣を見ると、トールはしかめっ面でガルディスさんを見返していた。
Bランクにとってはトールの睨みなどそよ風みたいなものなのだろう、全く気にした様子もなくあたしに視線を戻して、心底面白そうに笑った。
「──君だろう? 白の捕食者の討伐者は」
大型の肉食獣に迫られてる気分になるけど、あたしは静かにガルディスさんを見返した。
答えを求めていたわけではないらしい。
それ以上は特に追及することなく、そのまま話は続いた。
「実際のところ、それもどうでもいい」
「……どうでもいいんですか?」
「ああ。俺たちが必要としているのは、深度5で一緒に行動できる回復役だ。君が白の捕食者を倒していたなら申し分ないし、違ったとしても、短期間でCランクに上がった実績がある」
ガルディスさんは、当然の結論を口にするように言った。
「回復魔法を使えて、自分の身も守れる。それが君へ依頼する理由だ」
色々と悩んだのですが、ジャンルを異世界恋愛からハイファンタジーに転向します(; ・`д・´)
勿論恋愛要素は入れる方向で努力中ですが、他作品と比べるとだいぶ歩みが遅いので気になりました。
現在の作風のまま今後も続けていく予定なので、よろしくお願いします。
誤字脱字報告もいつもありがとうございます。
非常に助かっています<(_ _)>




