14. リオネ採取はスピード勝負!
リオネの実はすぐにでも欲しいとはいえ、不用意に近づいてモルオルの大群に襲われるのも厄介だから、ひとまず持ってきた魔導具を試すことにした。
さっき取り出した地面に音を伝える魔導具は、リズが改良した小型軽量版なんだって。
片手に収まるぐらいの丸みを帯びた金属製の箱には、音を出すための小さな穴がいくつも開いている。
「これは農村では一般的に使われている、狐除けの魔導具だよ。狐が嫌がる、人にはほとんど聞こえない音を出して、畑に近づけないようにするものなの。狐の魔物でも効果があったっていう音に調整してきたんだけど……もしモルオルが狐じゃなかったら、効果がない可能性は高いね」
ふむふむなるほど、狐除け……そうだね、効かないかもしれないね。
チラリと見たジオンとトールも渋い顔をしてたので、どうやら狐っていうかモグラっぽいなって思ったのはあたしだけじゃないみたい。
もし効いてくれれば、その間にリオネの実を回収する。
とても平和的で素晴らしい作戦なんだけどね。
トールが魔導具を起動させて、手近な巣穴の近くに放り投げた。
あたしはちょっとドキドキしながら木の陰に隠れて、みんなも同じように身を潜めながら巣穴の様子をうかがった。
しばらくして魔導ゴーグルに映る光が動き出した。
比較的近くにいたモルオルの1体が、音を出しているはずの魔導具に向かって近づいていく。
────ドガァ!! バキョッ……
そしてほんの数秒で魔導具は壊れ去った。
地中から鋭い石の槍が5本生えて、入り口に置いた魔導具を貫通したのだ。
少しして巣穴から顔を出したモルオルは、石の槍に刺さった物体の匂いを嗅いだりつついたりしていたけど、生き物じゃないと判断したのか、また地面の中に戻っていった。
その間、あたしたちはピクリとも動けなかった。
ちょっと待って、『個体そのものは深度4のわりにあんまり強くないって話』はどこ行ったの、誰が言ったの?
めちゃくちゃ凶暴じゃん!?
もしかして魔導具の音がうるさかったとか?
逃げ出すほどじゃなくても不快ではあって、めちゃくちゃイライラしたから八つ当たりとか?
なるほど、それならわかる……ってわかんないよ!?
イライラしたから串刺しの刑とか、あたしにそんな残忍な思想も嗜好もありません!
やだもー、リオネの実の採取難易度が高い理由なんてわかりたくなかったよー。
でもここまで来て諦めたくないよー。
……と、ぐすぐす泣き言をこぼすあたしを中心に、あらためて作戦を何度も何度も練り直した。
そうして最終的に決まった方法は、実に原始的だ。
『モルオルはガン無視で、素早くリオネの実だけ採って猛ダッシュで逃げる』
たったそれだけ。
実行役は身体強化したあたしと、魔導具の補助で短期間の高速移動が可能なトールの2人。
リズには安全な位置から眼鏡でモルオルの動きを監視してもらって、地表へ上がってくる反応が増えたら、手元の発光魔導具を点滅させて合図を送ってもらう。
ジオンはそんなリズの護衛だ。
もしリズたち側に出てきた個体がいたら撃退しつつ、あたしたちが戻ってきたあとは先頭に立って逃げ道を作る役目だね。
撤退はジオンが先頭、リズがその後ろかつ道案内、トールが2人の補佐をして、あたしが一番後ろ。
追いかけてくる奴がいたら容赦なく魔法で吹き飛ばすつもりだから、追いかけてこないほうがいいよ、モルオルたち!
一通りの方針が決まったらすぐに準備に入る。
作戦会議で予定が長引いちゃったしね、暗くなる前に街に帰るためにも即実行、即撤退だよね。
強行軍に付き合わされるトールの目が遠いところを見てる気がするのは、きっとあたしの勘違いだと思う。
口は悪いけど意外と付き合いがいいこと、もう知ってるんだからね。
まあ人当たりとかデリカシーはないけど。
さてさて、全員の準備ができたら作戦開始!
ゴーグルのおかげでモルオルの今の位置がわかるから、なるべく地表から離れたタイミングに合わせてまずトールがダッシュ開始。
すぐにあたしも追いかける。
もともとそんなに離れてなかったからほんの数秒で辿り着いて、トールは短剣で握りこぶし大のリオネの実を枝から切り取ってはあたしに投げてくる。
大切なリオネの実を投げるなんて、なんてことを! ……とは言わない。
リオネの実の皮は固くて丈夫で、ちょっとぶつかったくらいじゃ傷んだりしないから、今回はとにかくスピードを優先ってことになったからね。
どんどん投げてちょうだい!
受け取った実は、次々と袋に入れていく。
みっつ、よっつ、いつつ……。
すごい、夢にまで見たリオネの実が、こんなにいっぱい!
その調子で10個ほど入手したところで、リズから合図があった。
「トール、合図!」
「撤収するぞ」
地面を見るとゴーグル越しにモルオルが地表へ近づいてくるのがわかる。
モグラらしく地中の移動速度はなかなか速いけど、ほんの少しなら時間があるかな、と計算したあたしは、少し上の方にある手付かずの大振りな枝を風魔法で切り落とした。
そして飛び上がって素早くキャッチ!
うふふこれで追加ゲットー!
あたしは満面の笑みで枝を肩で支えながら、急転回で再ダッシュをかけて撤退を開始する。
枝ごと入手は完全に作戦外だったから、隣を走るトールに呆れた目を向けられてる気がするけど、気にしない、気にしない!
リオネの実の前では些細なことよね!
逃げる途中で地表に上がってきたモルオルを全力で蹴り飛ばしちゃった気がするのも、気にしないことにしておこうと思う。
ふう、危ない危ない。
まあ、追加の枝も手に入れたし、怪我もない、大成功ってことでいいんじゃないかしら?
うふふふふ、と緩んだ顔がまったく戻らないけど、まあ今日だけはぜーんぶ気にしない! でいいんじゃないかな。
「セシル」
リズたちに合流した後も幸せを噛みしめながら走っていると、前に出たトールに呼びかけられた。
お説教はノーサンキューだよ、とちょっと警戒しながら視線を上げる。
「明日、暇か?」
…………はい?
返事に困っていると、チラリと振り返ったトールが淡々と言葉を続ける。
「暇だったら、ちょっと付き合え」
えーとぉ……?
いやいや、それはどういう類のお誘いでしょうか。
あたしは大量のリオネの実がついた枝を肩に担いで走りながら、また前を向いて走り続けるトールの背中をまじまじと見つめた。
振り返った時に見えたのは、いつもの仏頂面だった。
照れてる感じも、何かを企んでる感じもなくて、本当にいつも通りのつかみどころのない感じのまんまだった。
疑問は尽きないけどただひとつだけ言わせてほしい。
そもそも今は、モルオルの巣穴が無数に広がる危険地帯から全力逃走中なのである。
せめて安全なとこまで移動してから言ってくんない?




