13. 地面の下の秘密
魔導ゴーグル越しに見えた光景は、想像を絶するとしか言えないものだった。
目の前にある木々や茂みは普段と同じように見える。
だけど、その下の──いつもは気にも留めない地面の中に、ぼんやりと色づいた光が無数に浮かんでいた。
魔物とは魔素を大量に体内に取り込んで変質した、もとは普通の動物である。
この魔導ゴーグルは、感知した一定値以上の魔素を持つ生命体を、光の塊として映し出すものだって説明された。
つまり、地面の下を動いている大小さまざまな光は――
「え、これ……全部モルオル?」
思わず口からこぼれた声は、自分でもわかるくらいに引きつっていた。
集団で生息しているとは聞いていた。
巣穴もここから見えるだけでもあちこちにあるし、それなりに数が多いことも予想していた。
でもこれじゃ、それなりで済む数じゃないんだけど?
近くにいる反応だけで軽く20は超えてるよね。
少し視線を遠くへ動かしてみても、光はどこまでも続いているように見える。
これは多分100や200でも足りない。
ヘタをしたら数千とか……想定していたものとは桁がまったく違う。
「待ってえ……聞いてた情報と違うじゃん……」
弱音は自然と小声になった。
さっきまでは、この位置なら普通に会話してるだけなら襲われないって前情報を信じてたけど、こんなんじゃ信じられる根拠どこにもないじゃん。
あの数に襲われたら泣いちゃうって。
「……これ、魔導具の不具合じゃねえよな?」
ジオンの問いに、リズは自らの眼鏡をいじりながら、首を振った。
「私のでも同じ反応出てるから、故障じゃないと思う」
「地上に出てくる数しか見えないせいで、完全に全体像を見誤っているな。……まあこれを想定するのは無理か」
普段は冷静なトールでも、周囲を見回す顔は若干引きつっている。
でもそうだよね、こんなん想定できるはずないって。
全滅させたと思っても、次に来たときはまたいるっていうのは、単純に全滅とか半壊とかって数ですらないんだ。
とりあえず、被害が大きいと判断したら襲ってこなくなるってのは事実なのかもしれないけど……あれ、ひっそり人知れず全滅した冒険者パーティとかいないよね? ね?
個体そのものは深度4のわりにあんまり強くないって話だから、大丈夫だと信じよう。
だけど、だけどさ、なんか足元に数え切れないほどのモルオルがいて、ずっと動き回ってるって想像したら、足の裏がむずむずしてきた。
別に何かに触られたわけじゃないのに、今すぐ飛び上がりたい気分になる。
「ね、ホントに近づいて大丈夫かな? 歩いた振動で一斉に出てきたりしない?」
「うーん、まあ多分イケるんじゃねえの。いざとなればセシルは魔法で吹き飛ばせるじゃん」
「できるだろうけど、怖いものは怖いの!」
ジオンに小声で叫ぶように訴えながら、気を持ち直すべく焦がれてやまない果実へ視線を向けた。
そして、今度は別の意味で目を見開いた。
「めちゃくちゃ光ってる……」
魔物の森の植物は、多かれ少なかれ魔素を含んでいる。
だけどリオネの木の反応は、周囲の植物とは明らかに違う輝きを放っていた。
幹も枝も実も、それから地中に伸びる根まで、鮮やかな光を放っていた。
このゴーグルは一定値以上の魔素を感知するのだから、リオネの木は他の植物よりも、むしろモルオルよりも多くの魔素を含んでるってことになる。
よく見ると地表の本体よりも、地中の根の部分の方が光が強いみたいだ。
つまり地中から魔素を集めてるってことかな?
「何だろう、あれ……リオネの木のずっと下に、魔素の大きな塊がある」
各々が色々考えてる間に、リズが自分の眼鏡をいじりながらそんなことを言い出した。
リズの眼鏡はゴーグルよりも遠くまで感知できるから、あたしたちには見えない何かを発見したらしい。
「大きなモルオル? ううん、生き物じゃない? 動いてる感じがしない……けど、すごい大きな魔素の塊がある」
「え、どれぐらいおっきいの?」
「感知できる範囲よりもっと奥まで続いてるかも……最低でも冒険者ギルドくらい、かな?」
「でっっか!?」
冒険者ギルドは巨大な石造りの3階建てだけど、非常時の避難所でもあるので中は広いし、壁は分厚いし、ついでに天井も高い。
最低サイズでそんな巨大な何かが地中にあるってどういうことよ、とますます顔が引きつった。
もうちょっと詳しく、とねだって教えてくれたリズの言葉によると、こういうことらしい。
地中を動き回る魔物たちよりも、さらに下。
初めは大量のモルオルを示す光が重なって気づかなかったけど、よく見るとそこだけ地面の奥がぼんやり明るかったらしい。
それで感知距離を最大まで伸ばしてみたところ、モルオルを示す光がそこらに転がる小石くらいまで小さくなって初めて、その奥の巨大な魔素の塊がわかったんだって。
えええ、モルオルって大きい個体は1メルとかあるよね。
それが小石かあ……どんだけ深いのよ。
そうやって広い視野で見てみると、その巨大な光を囲むように小さな光が広がっているようにも見えるらしい。
だとするとモルオルたちは巨大な魔素の塊である何かを中心にして、地中の広い範囲に巣を張り巡らせているのかもしれない。
っていうかそれ狐? モグラじゃないの?
見た目が狐っぽいから勘違いしてたとかありそう……。
「もしかして、それがあるからここにモルオルが集まってるのか?」
「うん、可能性はあると思う。魔物は魔素の濃い場所を好むことが多いもの」
「……リオネの木もそうなのかな?」
「そっちもそうかもしれないね」
巨大な魔素の塊から栄養をもらって育った木。
そう考えると他の場所で育てられなかったことにも納得がいく。
「とりあえず、魔素の塊に関しては考えてもわからないし、放置の方向で行こう」
「そうだね、場所と内容を記録してギルドに報告するぐらいでいいと思う」
「うんうん、それがいいね。じゃあ今は、リオネの実をどうやって回収するかが問題だね」
「……本当にそこだけはブレないな」
「当然じゃん!」
あんなに美味しそうな実がすぐ近くにあって、相も変わらずいい匂いがしてるのに忘れるわけがないじゃない。
呆れたように言うトールは乙女心ってもんが何もわかってないね。
まったく、呆れたいのはあたしの方だよ。
お、乙女心って……(゜-゜)オイシイモノダヨネ?




