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今日あたしは筆頭聖女を辞めました。  作者: そらのたまご
第2部

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12. それは至福の


 騎士団敗走事件から7日。

 あたしは今、非常に重要な案件と向き合っている最中である。


 現在の場所は深度4の中でも、比較的奥地で人が寄り付かないエリアだ。

 この辺りは比較的大きな木が少ない開けた地形で、だけど点在する大きな茂みの陰には巣穴があるから、注意が必要。


 その奥にチラリと見える低木……そう、あれこそが、あれこそがあたしが冒険者になった最大の理由である、リオネの木なのだ!


 実はさっきからほんのり甘い香りがしてて、涎が垂れそうでたまらないんだよね。

 でも冒険者を目指したあの日から、ずっとずっとリオネの実を手に入れることを夢見てたんだから、仕方ないと思うの!


「いやそれでも1年だろ」

「冒険者になった日数で言うと爆速すぎるんだよなあ……」

「で、でも1年我慢は、それなりに長いと思う、よ?」

「いや3回は食べたって聞いたぞ」

「ええいお黙り、ヤロウども! あたしは口いっぱいに頬張るのが夢なの!」


 テンションが上がるあたしに冷や水を浴びせんばかりの男2人に、がるると牙を剥く勢いで食ってかかる。

 どうどう、と背中をさするリズの手が慣れてきてる気がして、ちょっと冷静になった。

 残念ながらちょびっとだけだったけど。


 だっていい匂いがね! あたしを誘惑してくるのよ!

 こんなにも早く食べて~ってアピールされてるのにガマンしてるあたしえらいよね!?


 今すぐ走り出したい気持ちをぐぐぐっと抑えて、今日も仲良しな3人へと振り返る。

 あ、やっとこっち見た、みたいな顔やめてください……。

 特にどっちかと言うと猪突猛進タイプのジオンにまでその顔されると、ダメージすごいんだよ。

 ショックで一気にテンションが下がったせいか、はたまた下がったおかげか、あたしは今度こそ冷静になるしかなかった。

 今度はテンションが下がり過ぎてしょんぼりしながらリズと並んで背負い袋を下ろす。


 今日はいっぱい収穫するつもりで、大きな背負い袋を持ってきたのだ。

 さすがにこれを背負ったままの戦闘はジャマでしかない。

 なんせリオネの木の周囲は、狐型の魔物ことモルオルの巣穴だらけだからね。


 土の中にいるのでなかなか倒すことが難しい上に、全滅させたと思っていても、次に来たときにはまた襲われるんだって。

 多分、勝ち目がないって分かると隠れる方向に切り替えるんだろうね。


 どこから襲われるか、全部で何匹いるかもわからない相手との戦闘は面倒で、そういう意味でリオネの実の収穫頻度はかなり低いんだとか。

 なんたる邪魔ものだろうか……許せん!


 でも地中の道がどこにどう繋がってるかわからないから、怒りのまま火魔法を巣穴にぶち込んでモルオルを殲滅しようとして、リオネの木も燃え尽きましたー! じゃ泣くに泣けない。

 いややっぱ号泣するか。

 しかもよく考えたら木そのものが燃えたら再生すら難しいじゃん。

 じゃあ号泣じゃなくて絶望かも。


 そんなわけで魔法での力技は封印。

 突撃しないで我慢したのも、確実性をとるため以外の理由なんかないよね。

 ということで最後の作戦タイムだね!


 今回ここまで来られたのは、3日前、無事にジオンとトールがランクDに上がったからだ。

 深度4までの探索が可能になったことで、前々から目論んでいたリオネの実の採取に行きたい! とあたしがわがままを言ったのである。


 リオネの実がなる場所はフォルナの街からちょっと遠いから、あたしも1人での探索は避けてたんだよね。

 モルオル相手だと武器がクロスボウであるリズも相性が悪い。

 だからタイミングを逃し続けてたんだけど、ジオンとトールがいるなら挑戦したいよね!

 で、めちゃくちゃおねだりした。


 まあ正直なところ、彼らは命の恩人であるあたしに弱い。

 リズは採りに行きたいってずっと言ってたの知ってるから、安全面に問題がないなら反対しない。

 つまりあたしの大勝利である。


 ただし情報収集と対策は確実に、と事前準備はしっかりすることになった。

 ……いや、うん、当たり前のことなんだろうけどね。

 あたしが適当すぎるだけなんてそんなことはありえ、る! 知ってた!

 いつもありがとうリズ!


 目的地の場所、進みやすいルート、出くわしやすい魔物と対応策、リオネの実に関する情報、と色々ちゃんと調べてどうするかを決めた。

 昨日のうちに深度4の手前まで実際に進んで、道順と経過時間とかも確認してある。

 そうして満を持しての今日である。

 ここで失敗したらあたしの張り裂けんばかりに膨らみきったこの胸のワクワクが、水泡に帰すどころか、全力で弾けて森ごと吹き飛ばしかねない。


 つまりは冷静に、確実に。

 さっきからずっと同じこと言ってるねとか余計なツッコミはノーサンキューよ。

 すーはーと大きく深呼吸して、今度こそ意識を切り替える。


 その間にリズが全員の背負い袋からいくつもの魔導具を取り出していた。

 モルオルは狐が魔物化して変質したものといわれている。

 最大のポイントは、土中生活のため目が退化して視力が低い代わりに、聴覚や触覚、あと嗅覚も優れていること。

 さらに動物の狐とちがって群れるし、慎重ではあるが臆病ではない。


 ちなみに肉食なのでリオネの実は食べない。

 あたしが全力で心惹かれたように、リオネの香りに釣られてやってきた虫や動物を獲物としているらしい。

 リオネの実は彼らにとって自然の罠なのだ。


 こんなに美味しい実を食べもせずに罠扱いとか、ますますもって許しがたい。

 いや食べつくされたらキレるけど。

 さすがに今すぐ駆逐してやる! とまでは言わないけど、引っ越しを検討したくなる程度には痛い目を見せたいよね。

 あたしのこの1年はこの実のために費やされたといっても過言じゃないので、残念だけど遠慮はなしです!


「セ、セシル、冷静に、だよ?」


 ニコニコと物騒なことを考えてたら、リズから指導が入ってちょっと驚く。

 改めて3人を見ると揃って顔を引きつらせてて……あれ、声とか怒りの気配とか漏れてたかな?


「ごめん、ちゃんとやります!」


 しまった、と慌ててリオネの実とモルオルの情報を切り離す。

 この2つを並べて考えると、思考が無意識にリオネの実の方に傾いちゃうみたいだ。

 ちょっぴり自分でも自分の食い意地の張りっぷりにどうかと思うこともあるよ、うん。


 とにもかくにも、モルオル対策としてリズが特製魔導具を準備してくれた。

 まずは地面に音を伝える小型魔導具。

 これを巣穴のそばに置いて、モルオルの嫌う音を出すことで出てくるのを防ごうという目論見だ。

 ああは言ったけど、絶対に倒さないといけない魔物ってわけじゃないから、採取の邪魔をされないならそれでいい。


 次に前々から試作してたらしい、感知機能がついた魔導眼鏡ならぬ魔導ゴーグル。

 ジオンたちみたいに近接で動き回るのなら、固定用の紐がついたデザインの方が外れにくいだろうってことらしい。

 機能的にはリズが使っている眼鏡の劣化版らしいけど、感知距離を近距離だけに絞ることで、地中のモルオルがどこにいるかわかるのだ。


 あたしは初めて試着したとき、正直めっちゃすごいと思ったから隠さず絶賛した。

 当然だけどジオンとトールも絶賛してた。

 でもリズはあくまで劣化版だって言い張ってて、そこに魔導具師としての意地とプライドが垣間見えた。


 魔物の森の探索には心もとないって言われたらそうかもしれない。

 でもそんなの状況次第じゃん?

 今みたいに索敵できるなら、普通にめちゃくちゃ使いどころあると思うんだけどな。


 今度、完璧な100を目指すのはいいことだけど、100じゃなくてもすごいものはすごいんだよって説得しなきゃなあ、なんてゴーグルを装着しながら考える。

 多分ジオンたちからも説得される気がするから、早めに認めちゃった方がいいよ?

 リズには珍しいすっごい渋い顔でしぶしぶ頷く姿を想像しちゃって、思わず笑いが込み上げたけどガマン。

 今はそれどころじゃないから、想像が合ってたかわかるときまで取っておこう。


 そうして前に教えてもらった方法で、魔導ゴーグルを起動させて──見えた地中の反応に揃って絶句したのだった。


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