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今日あたしは筆頭聖女を辞めました。  作者: そらのたまご
第2部

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9. 人はそれを面映ゆいと表現するらしい


 どっさりカウンターに乗せた素材を見て、エイガスさんの目つきが面倒そうを通り越して完全にジト目になった。

 あたしは気にせずにっこり顔。

 隣の3人はなんか固まってるみたいだけど大丈夫だよ。

 しごでき男が完璧に処理してくれるからね!


 エイガスさんのジト目がジオンとトールを数秒ずつ見やって、リズを一瞬で通り過ぎてから、なぜかあたしの顔で固定された。

 アレ? これあたしじゃなくて彼らの成果だよ?

 あたしとリズは剥ぎ取りと運搬の手伝いしただけだもん。


「わたし関係ないです、みたいな顔してるけどな、絶対セシルが原因だろ」

「え、ホントにあたし手出ししてないからね? 全部2人のだよ」

「手柄じゃなく原因と言ったんだが」


 低く吐き出された声に、隣の3人が揃ってこっくり頷いた。

 あれ、裏切られた!?

 ビックリして振り向いた先にいたのは、あちこち擦り傷を作って疲れ切った顔の友人たちで。


「…………あれぇ?」

「ピンピンしてるのはお前だけだ」

「……………………あれぇぇぇ? いつからこんなことに?」

「あのねセシル、2人ともビッグアントの後くらいからこんな感じだったよ……」

「え、それまだ3体目だよね」

「そこから追加で4種7体か。過激にもほどがあるな」


 リズの向こう、喋るどころか反応する気力も切れたように、男2人はしゃがみこんでうなだれだした。

 あれーあれー? 何だろ、今日のあたしテンションおかしくなってた?

 えっとその……すみませんでした。


「ご、ごめんね?」

「わざとじゃないのはわかってる」

「それな。ただ規格外ってこういうことなんだなーって実感したわ……」

「ううう、ごめんってー」


 疲れ切ってるだけで悪感情はないみたいだけど、これはあたしマジで反省しなきゃだ。

 多分だけどね、4人で探索するのが楽しかったんだと思う。

 だからって引きずり回していいわけないし、周りじゃなくてあたしが潰してどうすんのよ。

 全力で反省して後でお詫びしよう。


「まあ逆にそのボロボロっぷりで、お前らがこいつにおんぶにだっこじゃないことは伝わるだろうがな」

「むしろ心配する暇ないくらい安定してたよ? ……だから気づかなかったんだけど」

「そこは気づけ」


 エイガスさんに、正式にパーティ組んでるわけじゃないにしてもこの中だとお前がトップだろ、って言われて愕然とする。

 いやでもそうか、ランク的にも実力的にもあたしが一番上なのか。

 ──でも集団のトップの役目、あたしすっかり苦手になったんだよね……。


「ね、セシル。私とあなたは、対等な大切なお友達、だよ」


 にこ、って笑ってくれるリズが優しくて可愛くてギュってしたくなった。

 っていうかした。

 リズってホント周りの心の動きを察する力が高いよね。

 その割にジオンの好意には気づいてなさそうなのは天然か盲目か無意識の否定か……ううむ今後も要観察ゲフンゲフン、相談してくれる日を待ちたいと思います!


「もしパーティを組むならリーダーはジオンだろう」

「え、オレ? いやまあ年下の女性に責任を押し付ける気はないけど、それならトールでも……」

「俺は向いてない。リズもな。なによりセシルがリーダーだと誰にも止められなくなるが、ジオンなら誰にでも止められるのは重要だ」

「そういう理由かよ!?」


 くすくす笑うリズに抱きつきながら掛け合いし始めた2人を見てるうちに、ふと力が抜けた。

 誰にも止められないとか言ってるけど、きっと頑張って止めようとしてくれるだろうし、無理だったときも精一杯手伝ってくれるんだろうなって考えてたから。

 見て見ぬふりしたり、簡単に見捨てて去っていく人たちじゃない。


 自然とそう感じるくらいの信頼感、いつの間にかもう持ってたことに気がついて気恥ずかしさが湧き上がった。

 うぐぐ、あたし意外とチョロいの?

 認めるのはなんだか悔しくて、顔を隠しついでにリズの肩にぐりぐりすりついてみる。

 ……リズ限定の甘えたなのは素直に認めようかな。


「バランスも相性も悪くないし、本気で組む気があるならそれもいいと思うぞ。今日の分はジオンとトールの成果として処理しておいた。ただし一気に評価点が上がったから、後で上から確認が入る可能性は高い。留意しておけ」


 ごたごたしてる間に作業を終わらせたしごできエイガスさんの助言に、確かにありそう、とワーグのときのことを思い出した。

 不正防止もギルドの仕事だし仕方ないのかな。

 でもただでさえハザードエリアのことで注目されてるのに、今のタイミングでさらに注目されるのは良かったのか悪かったのか……。

 

「ま、しょーがねえな」

「それくらいなら想定内だな」


 あまりにもあっさり頷く2人は、あたしたちと一緒に探索すると決めたときにはもう、注目される覚悟をしてたのかもしれない。

 何だコイツら、いい男だな。

 これならリズを任せるに足りると認めてしんぜよう!


 胸に込み上げる柔らかな感覚がくすぐったくて、照れくさくて、ついつい誤魔化しそうになるのは悪いクセかもしれない。

 リズのときもそうだったけど、3年ほど同年代との優しい交流ってなかったから、なかなか慣れないんだよね……。

 これはいかん、頑張れあたし。

 よーし、次はもうちょっと素直になれるよう頑張るぞー! また次はね!


 ふんすふんすとひっそり鼻息荒く決意してると、大人しく抱きつかせてくれてたリズが、ふっとギルドの入り口のほうに意識を向けたのに気がついた。

 つられて顔を向けた先は、不思議な緊張感が満ちていく最中だった。


 ざわつきってほどじゃなくて、不確定な情報──それも悪い方向の話が入ってきて、静かに動揺してる感じかな?

 当然他の人たちも気がついて、少しずつ話を聞きに行く人たちが増えてきた。

 そして人が増えると、知らず声が大きくなっていくものだ。


 あたしたちはまだカウンター前にいる。

 だけど漏れ聞こえる単語を拾えるくらいには会話は増えてて──騎士団、の単語が聞こえた次の瞬間には、あたしたち4人の立ち位置が変わってた。


 リズとあたしは、一般的な女性のなかでも小柄な部類だ。

 そしてジオンとトールは、屈強な体格の人が多い冒険者の中で見劣りしないくらいには長身である。

 つまり彼らがあたしたちを庇うように並んだら、周囲からはほぼ服の端しか見えなかったりするわけだ。

 間違いなくリアルに壁になってくれてるよね……マジでありがとう。


 こうして並んでる姿を見た一部では、ジオンたちが寄生してるんじゃなくて、あたしが肉壁代わりに利用してるって説が濃厚らしい。

 関わるのが面倒でスルーだけど。

 理由こそ見当違いだけど、実際に肉壁になってもらってるしね。

 なんとなく理由を把握してるエイガスさんは、呆れた顔でカードを返してきたあと、カウンターを離れた。


「業務の邪魔だ。確認してくる」


 そう言って、ものすごーく面倒そうに話を聞きに行った。

 これあたしがどうこうじゃなくて普通に仕事の一環で情報を確認に行っただけだな、って何となくわかった。

 面倒ごとは勘弁って顔に書いてありそうな嫌々さだったもん。

 あと本当に邪魔だと思ってそうだ。


 でものろのろ近付いて、何人かに話を聞いたエイガスさんの顔つきが急に変わって。

 あれ、これはまさか本当にマズいやつ?


 他のギルド職員が合流しに行って、少し話した後、それぞれギルドの外と中に走っていった。

 どんな事情かわからないあたしが最初に思ったのは、エイガスさんが走ってるのもギルドの外に出たのも初めて見た、だった。

 それは間違いなくいつもと違うこと、だ。


 さすがに気になって目配せで皆の意思を確認してから、そっと移動した。

 ギルドの入り口近くには寄らない。

 でも扉正面の黒石板の近くの、少しずれれば外が見える位置まで移動する。

 何も気にしないで帰るにはギルド内の空気が不穏すぎた。


 近づいて聞こえてきたのは、騎士団、ハザードエリア、負傷、壊滅状態といった、耳を疑う単語ばかり。


 ハザードエリアって蜘蛛とは別の場所のこと?

 壊滅なんて噂されるくらいなら、ちょっと怪我したとかってレベルじゃないはず。

 ──でも第3騎士団って、国で一番強い騎士団なんでしょう?


 耳に入った単語だけでもギルドが反応する理由が分かる。

 状況、理由、変化、どれも今後にどんな影響があるかわからない。

 リズたちも難しい顔で聞き耳を立てているのがわかって、あたしもトールとジオンの陰で静かに新しい情報を待った。


 街に残っていた騎士たちやギルド職員、そして神官までもが街の南門の方へ向かっていく姿を、誰もが緊張した面持ちで注視している。

 明確にざわめきがあがったのは、およそ20分後くらいだろうか。

 すぐにギルドの前の大通りを、血と泥で汚れた騎士が数人駆けていくのが見えた。


 冒険者ギルドは魔物の森に面した南門に続く大通りに建っている。

 だから森から帰還した人たちは、たいていの場合はギルドの前を通るのだ。


 ざわめきは次第に大きくなり、誰が何を言っているのかもよく聞き取れない。

 ただ、血に染まったたくさんの人たちが歩き、あるいは運ばれていく姿が人の隙間から見えただけだ。

 その中には自身も血を流しながら誰かを背負い、毅然と指示を出している金色の髪の青年がいた気がする。


 でもそのときばかりは、そんなこと全然気にならなかった。

 誰もが森で何かが起こっている気配を感じ取り、その日から街はピリピリとした緊張感に包まれたのだった。


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