7. どこにでもわいてくるアレ
ほんっとーーーに久しぶりに目にした鮮やかな青い空に感動すら覚える。
やっと雨期が明けたのだ……!
長かった……さすがに1か月は長すぎた!
こんなに何日も雨が続くのは初体験だったけど、 本っっ気でしんどかったね。
体からキノコ生えるかと思ったわ。
まあ雨は止んでも、魔導具修理の依頼はまだ明日まで残ってる。
でも空が晴れてるってだけで全然気分がちがうし、雨の準備をしなくていいのも楽だ。
って言っても次はすごーく暑くなるらしいから、そっちの準備も気をつけなきゃ。
暑さにやられて干からびたくないし。
雨がやんですぐは大丈夫みたいだけど、油断してたらあっという間に猛暑になるって聞いた。
今度の休みはいろいろと準備にあてようかな。
なんて考えつつ眠りについた平穏な1日の翌日から、それは始まった。
まずはお手伝い最終日。
依頼主の元に向かおうと機材を抱えて歩いていると、ちょうど正面から騎士団の一行と遭遇した。
大通りですれ違っただけなんだけどね。
ただ、特に大きな機材を運んでるところだったから、声はなくとも興味津々って視線をいくつも感じた。
その中から食い入るような強い視線が飛んできたのは気のせいだよ、うん。
その翌日はリズとデート!
修理依頼がひと段落したからその日の仕事は全部休みにして、ジオンの実家の商店へ猛暑対策用品を買い出しに来たんだよね。
うふふふ、ジオンよ久しぶりのリズはまぶしかろう、とか内心茶化しつつ、4人で商品を見ながらわちゃわちゃしていたところに、彼らはやってきた。
「失礼する。我々は王立第3騎士団の者だ。冒険者のジオン殿とトール殿はこちらにおられるだろうか。ハザードエリアの件で、直接確認したいことがある」
静かだけどよく通る声と一緒に入ってきたのは、騎士団の服を着た4人の男性だった。
薄いケースを抱えた真面目そうな青年と立派な体格の偉丈夫が並び立ち、その後ろには首元だけ色違いの服を着た、見覚えのある淡い金髪と灰髪の青年が2人──を見た瞬間、あたしはリズの後ろに回った。
あーあーあーあたしはなんも見てません。
こないだ説明ついでにさんざん愚痴っちゃったせいで、今度こそ完全にいろんな事情を知ったリズは自然に位置を調整してくれる。
それを見たジオンとトールの2人も訳アリを察したようで、さりげなくリズとあたしを隠すように並んでくれて、言葉もなく感謝の念を送った。
そうして事情聴取のために連れ出される2人をこっそり応援しつつ、男たちの気配が完全に遠ざかるまで、あたしはリズの後ろで息をひそめる羽目になった。
色々思うところはあるけど、とりあえず久々のリズと引き離されたジオン……ドンマイ。
そんなケチがついた感がぬぐえない休日の翌日は、探索業の再開日。
さすがにちょっと警戒して、森に入る前にギルドでエイガスさんに今日の騎士団の動きを聞いて、今日は森には来ないって確認してから出発した。
あたしだって常に考えなしってわけじゃないんだからね。
雨期明けの森は、あちこちが水たまりどころか池みたいになってたり、見覚えのあるけもの道がぬかるみに沈んでいたりして、雨期前とはずいぶん様子が変わっていた。
湿った匂いがする森の中を、注意深く観察しながら歩く。
ちなみにリズはもう少しルベルさんの手伝いを優先することになってるから、今日はあたし1人だけ。
ってことでさすがに今日は様子見したら早々に切り上げる予定だ。
深追いしない、無茶しない、安全第一。
ちゃんと守っていたはずなのに、ギルドに帰還したときには背負い袋いっぱいに鳥型魔物のグクルが入っていた。
おかしいな。
一体なにが悪かったのだろうか。
「……お前、今日は様子見って言ってなかったか」
「森の様子もいっぱい見てきたよ」
「魔物の数も減らしてきたと」
「地域貢献だね」
「ものは言いようだな」
大量のグクルを前に呆れ顔のエイガスさんは、面倒そうに買取処理をしていく。
手早く作業する姿を観察していると、背後からかすかにざわめきが聞こえた気がして、何の気なしに振り向きかけた。
知ってる? 視界って結構広いから意外と真横の方向も動きとかって見えたりするんだよ。
だから、振り向く途中で服の一部が見えた気がした瞬間に逆回転して、エイガスさんをガン見することにした。
突然のあたしの動きにビックリしたんだろう、エイガスさんが訝しそうに見返してくる。
見つめ合うこと5秒、真顔のあたしを見てエイガスさんも表情を消した。
真顔で見つめ合うこと追加で5秒、不意にその目があたしの後ろにそれて、すぐに戻ってきて……いつもの面倒そうな表情に戻った。
「……誰かさんがこっち見てるな」
「気のせいじゃない?」
「あんな驚愕、って顔で凝視されて気のせいは無理があるな」
「あたしから見えないし、興味ないから見る気もないかな」
「へえ……なら気のせいでいいか」
あっさり了承するあたり、エイガスさんって肝の座り方が飛び抜けてるよね。
隣のカウンターの受付嬢と並んでた冒険者から、本当にいいの!? って感じで見られたのも、2人して華麗にスルー。
だってすべては気のせいだもの。
「よし、問題ない。このあと用があるなら引き取り分は直接持っていくか」
「え、やった、さすがエイガスさん頼りになるう! ありがとー!」
「はいはい、じゃあこっち来い」
促されるままカウンター横手の部屋に入ってドアを閉めて、そしたらめちゃくちゃでっかいため息が出た。
あまりにも熱い視線が途切れなくて、背中が火傷するかと思った。
さすがにあんなあからさまな人のそばを素知らぬ顔で通り過ぎるのは難しかったから、裏口を使えるように誘導してくれたエイガスさんグッジョブ過ぎ。
今もさっさと鳥の処理頼んで、ホントに持ち帰れる準備してくれてるし。
これぞしごでき男だわ。
「熱烈だったな」
「うええ、マジで勘弁してほしい……」
なんなのもう、3日連続で遭遇するとかなんか呪われてるの?
どっかで縁切り出来ないかな……いやでも神さまにお願いするために神殿行けって言われたら悩むけど。
ジルさまに会いに行く以外で神殿に寄り付く気ないんだよね。
そんなこんなで精神的に疲れ果てたあたしは、翌日は完全な引きこもりデーに決めた。
外に出なければ会わない。
部屋にいれば安全。
何も問題はない。
そう信じて、掃除したり服を繕ったりして、意外と充実した1日を過ごした。
そしてさらに翌日。
気を取り直して森に入り、今度は森でもギルドでも問題なく過ごして、元気いっぱい夕食を食べに近場の安い食堂に向かった。
今日はなに食べよーってワクワク顔で扉を開ける。
──ソレと目が合った。
光の速さでドアを閉めてダッシュした。
どういうことなの!?
ホントどこにでも出てくるの誰かどうにかしてよ!!




