3. 巡回騎士団
「にしても、わざわざこの時期に来るんですか? 雨が多くてめちゃくちゃ暑いとかむしろ避けるべきですよね」
ここフォルナは国内有数の魔物の森がすぐそばに広がってるから、危ないといえば1年中だって危ない。
1番暑い時期に暑いとこに来るとかマゾなのかな?
そんな失礼きわまりないことを考えていたのが顔に出たのか、オルスさんが苦笑いしながら説明してくれた。
まず第1の理由が、雨期の臨時依頼でもある魔魚についての問題。
フォルナの街のすぐ西側には、魔物の森の奥の山から流れてきているモルド川っていう大きな川があるんだよね。
で、本来は魔物の森に生息している魔魚なんだけど、繁殖期と雨期が重なった結果、増えた水に運ばれて街の近くまで魔魚が流れてくるわけだ。
するとどうなるかっていうと──まず街に繋がる浄水装置に魔魚が詰まる。
魔物の森を抜けてきた水だもの、さすがにそのまま使うことはできないから、フォルナには水を無害にするためのでっかい施設がある。
もちろん網もあるけど、そこに魔魚がみっちり詰まったりとか、すきまから生まれたばかりの稚魚が入り込んだりすることもあるんだって。
うっわめんど! 以外の言葉が出ない。
次に、臨時依頼での捕獲量が少なすぎると、フォルナよりさらに川下の街まで魔魚が流れる問題が出てくる。
もちろん警戒は促してるらしいけど、完璧に警戒し続けることは難しい。
で、油断してケガする人続出、と。
つまり魔魚処理は、実は大事な仕事だったってことだ。
だけど雨が強い日は水の量が増えてて危ないから、依頼が出るのはどっちかというと川が穏やかなときだけっていう、ちょびっとレアな依頼なんだよね。
そんなだから毎回、毎年、確実に処理できるとも限らない。
そこで騎士団の出番ってわけだ。
今年の魔魚の状態を確認しつつ、必要であれば騎士団が直々に処理にあたってくれるってことね。
戦闘精鋭騎士団の魚とり……すごい絵面じゃない? 興味あるわー。
それから第2の理由が、魔物の森の調査。
雨期の間は極端に冒険者の出入りが減るから、遠目からでもわかるような大掛かりなものならともかく、ちょっとした変化がわかりにくいんだって。
万が一にも魔物の増加現象が起きて、森から氾濫するようなことになれば一大事だ。
まあ単純に、定期的な調査ってのもあるらしいけど。
だから雨期の調査と有事の際に備えての防衛力として、わざわざこの時期にフォルナに来るんだって。
うーん、お疲れさまです。
「今回は第1大隊の方だっけ」
「そうね。去年はミリーがハロルド副騎士団長に黄色い声を上げてたもの」
「副団長さんは美形なんですね」
「あら、興味ある?」
「あはははは、全然ないです」
いやもうホントこれっぽっちも興味ないかな。
去年の第2大隊を率いる副騎士団長さんはさわやか系の美男だとか、今年の第1大隊を率いる騎士団長さんは渋めの男前だとか、なんかいろいろ説明してもらったけど耳を通り抜けるばっかりだった。
むしろ相手が色男なら、面倒に巻き込まれたくないから積極的に避けるね。
……あたしの乙女心どこいった?
ちょっと自分の女子力ならぬ乙女力に疑問を抱いている間に、リズの作業が終わった。
最後にさくっと力仕事をこなしつつ片付けをして、いろいろ教えてくれた2人にたくさんお礼を言ったら、今日のお仕事はおしまい。
お土産までもらっちゃったりしたら、ウキウキ気分が止まらない。
帰る途中で夕ご飯を買って、リズの家で食べながら明日の予定を確認して、軽く準備を手伝ったらあたしも帰宅。
リズが受け持つ依頼はあと6日分ほどだから、そこまで無事に終わったらあとはルベルさん次第かな。
追加で任されるか、おしまいになるかはまだわからない。
延長になるのはいいんだけどね……とにかく早く雨期が終わってほしい!
もしその前に巡回騎士団が来るなら気晴らしくらいにはなるかなー、なんて考えたのが悪かったの?
それとも翌日には存在すらすっかり忘れてたのが原因とか?
何にしても納得はできないけど。
──あたしの前に『ヤツ』が現れたのは、巡回騎士団の話を聞いた3日後のことだった。
その日も相変わらずの雨で、でも数日前よりも量も時間も短くなってきた気がして、いつもよりちょっとだけ機嫌がよかった。
いいことって重なるのかな、その日の修理依頼も簡単だったみたいで昼前には終わったんだよね。
明日は大掛かりなメンテナンス作業があるから、前倒しもナシで半日休み!
久々にゆっくりしよう、って店番をするリズと並んで楽しいおしゃべりタイムしてたんだよね。
昼食の後くらいから、にわかに街が騒がしくなった。
っていっても実際に人が騒いでたとかじゃなくて、商業通りの人混みの喧騒とか、そういう雰囲気のやつね。
いつの間にか街を行き交う人の気配が増えてた、って感覚に近いかも。
あたしは最初、なにがあったのかわからなくてきょとんとしてたと思う。
外の様子に気付いたリズが騎士団が来たんじゃないかなって教えてくれて、やっと思い出した。
たった3日前とか言っちゃダメ。
「そういや騎士団って何人くらい?」
そういやこういう騎士団がもうすぐ来るよって予想を教えてもらっただけで、他のことは全然知らないままだわ。
今さら気付いた辺り、あたしの興味のほどが知れるね。
「ええとね、確か70……80人いかないくらい、だったと思う……?」
うーん自信のないこの感じ、リズも興味ない仲間だね。わかる。
街に利益があるから認識してるし多分感謝もしてるんだろうけど、直接関わる機会がなかったら他人事になりがちだよね。
人見知りなリズなら、なおさら戦闘集団になんか近付くはずがない。
まあ今年からは冒険者ギルドや森なんかで関係することもあるかもしれないけどね。
そうなった場合はゆっくりでも慣れてもらうしかない。
王立騎士団を名乗るからには荒くれ者の集まりってわけでもないだろうし、多分なんとかなる、はず。
少しだけ懸念があるとしたら──あたしの顔を知ってる人がいるかもしれないこと。
詳細こそ省いたもののリズに話せたことで気が抜けたのか、絶対誰にも知られたくない! って気持ち、実はちょっと薄れてる。
無理やり連れ戻されるくらいなら山を越えて隣国に逃げようと思うくらいには、王都神殿には戻りたくないけどね。
あと、ムダに騒がれたくはない。
そういう意味では引きこもってるのが一番なんだろう。
けど、ただでさえ雨期の間大人しくしてたのに、さらに1か月引きこもれとかムリ!
つまり、騎士団との遭遇は避けて通れないイベントと見ておくべきだ。
まあずっと国内を巡回してて、お偉いさんですらほとんど王都に寄り付かない騎士団だから、多分大丈夫だとは思うけど。
なら変装とか──いや周りに不審がられて余計に騒ぎになりそう。
また出たとこ勝負かな……いやもう、ホントこんなんばっかりなんだけど。
こんなだから忠告されるんだよね。
わかってるんだけど、修正できるところと修正できないところがあるんだって。
まあね、修正できない部分は対応と覚悟を決めておけってことだろうし、巡回騎士団が来ることをすっかり忘れてたことに関しては、ただただあたしがダメなだけ。
とりあえず、街の喧騒が落ち着いてきたころを見計らって部屋に戻って、明日からの対応をちゃんと考えよう。
せっかくの半日休みは1人対策会議に予定変更です。泣ける。
昔を知ってるかもしれない人がいると思うと、なんだか憂鬱になる。
別に神殿から追い出されただけなんだし、悪いことしてるわけではないんだけどね。
それでもなんだか憂鬱になってしまうのは仕方ないのかもしれない。
ふうっと一息吐いてから、残念だけどもう少ししたら帰るね、って歯噛みしつつリズに報告。
リズは騎士団の話の後から明らかにテンションの下がったあたしに感じることがあったのか、静かに頷いて頭を撫でてくれた。
ナニコレめちゃくちゃ嬉しい。
優しい手に癒されて、にへって思わず顔が緩んだとき──ベルの音と共に店のドアが開いた。
咄嗟にドアを見たあたしがどんな顔をしていたのかは、分からない。
でも後々思い出すに、頭の上のリズの手とあたしの視線の先の人物の肩が、ほぼ同時に思いっきりビクッて跳ねたのは分かったから、すごい顔をしてたんだろう。
ここはルベルさんのお店だ。
つまり魔導具店だ。
そしてリズは店番をしているのだ。
だからお店にお客さんが訪ねてくることも、鉢合わせることもおかしなことじゃない。
だけど、だけどだ。
──何でアンタがここにいるんですかねえ、オウジサマのくせにさあ?!




