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今日あたしは筆頭聖女を辞めました。  作者: そらのたまご
第1部 再出発編

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29 リズを泣かせるなんて50年早い

┻━┻ ︵ヽ('ω')ノ︵ ┻━┻


 大蜘蛛を倒したあと、とりあえず放心してたリズを呼び戻して、お互い働かない頭で周囲を見回した。

 見事にあちこち燃えてるね。

 ちょっと想定してたより燃えてるね。


 どうするべきか迷ったけど、そもそも火事をどうこうするためにここへ来たわけじゃない。

 蜘蛛退治でもなくて、人命救助に来たんだ。  

 空気中の魔素や木々の魔力が抵抗になっているのか、火は思ったより一気には広がっていないみたいだし……うん、後回しでいいか。

 たぶん大丈夫。何とかなる。たぶん……。


 無理やり疑問を振り切って、とにかくまずは救助だと意識を切り替える。


「さて! 救助に……えっと、どっちだっけ?」

「あ、ええと、あっちの、方の……燃えてるね」


 魔導具で探知したリズが指し示した方向を振り向くと、両断された白の捕食者の大きな胴体が転がっていた。

 近くの木々はパチパチと音を立てて、小さく火花を散らしながら静かに燃え続けている。

 ちょっとだけ無言の時間が過ぎた。


「えっ、えっ? ……燃えちゃっ……た?」

「あ、違う、その辺りじゃなくて、向こうの上の方に反応あるの」


 一瞬、本気で心臓が止まるかと思った。

 いや待って、ここまで来て焼けてましたとか洒落にならないんだけど。

 違うと分かった途端に、どっと変な汗が出る。

 ……ビビらせないでよ、ほんとに。

 やっぱり火魔法は森で使いすぎない方がいいね、うん。まあ今さらだけどさ。


「んじゃ、ステーキになる前に助けないとね」


 気合一発、勢いをつけて立ち上がってリズの手を取る。

 最悪の想定は今はしない。

 やっとここまでたどり着いたんだから、男どもはあと少し頑張って耐えててちょうだいよ。


 燃える枝を搔い潜って走った先、反応が近いと言われて頭上に目を凝らしてみると、びっしりと張り巡らされた蜘蛛の糸と、そこに繋がるたくさんの繭状のものが見えた。

 大きさはまちまちだった。

 人ひとり入りそうなものもあれば、もっと小さくて丸い塊もあるし、逆に人よりも随分大きな──獣でも包んでいそうな塊もある。

 10やそこらじゃきかない数が、物言わぬ糸の塊となってぶら下がっている。


 これってまさか、食料保管庫みたいなものなんじゃないの?

 つまりこの中は2人だけじゃなくて、あんなものやこんなものが入っている可能性がある。

 あともう1つの可能性がホントにホントに嫌なんだけど、中から大量の蜘蛛の子供が出てくるとかは勘弁してね!


 大蜘蛛と対峙した時よりも戦々恐々としつつ、周囲を警戒しつつ言われた方へ近づいていく。

 落下物なし、繭から出現する敵もなし。

 あとは肝心の2人がどこにいるかさえ分かれば──。


「……っ、今!」

「え?」


 リズの掠れた声に視線を向けると、彼女はひとつの繭を指さしていた。

 その先で、ちょうど成人男性1人分ほどの大きさの塊が、風もないのにほんのわずかに揺れた。


「ごめんリズ、体低くしてて。ちょっと強引だけど、魔法で下ろすよ!」


 宣言してから杖を構え、リズがしゃがんだのを確認してから強めに魔力を練る。


『吹き荒れろ暴れ風 つむじを巻き起こせ 全てを巻き込み我が元へ』


 叩きつけるような竜巻は、目的の繭を吊るす枝だけを砕き、そのまま繭ごと下へ巻き下ろした。できるだけ勢いを殺したつもりだったけど、最後は地面にごろりと転がすような形になってしまう。

 まあ、今回は丁寧さより迅速さを優先。仕方ない。


 薄汚れて地に転がる繭に駆け寄るリズを横目に、もう1つそれっぽい塊はどれか捜索する。

 今落とした繭が魔物の可能性もなくはないんだけど……ちゃんと駆け寄る前にリズは眼鏡で何か確認してたから、たぶん大丈夫。


「ジォ、ジオンく、いき、生きてるぅ……」


 盛大に咳き込むジオンさんの声と同時に、後ろから泣き声が聞こえて、ああやっと泣けたなって少し早いけどほっとした。

 ずっとずっと我慢してたもんね。

 これが絶望の涙に変わらないように、早くトールさんも見つけないと。


 さっきのジオンさんの感じから、普通に呼びかけたら反応があるかもと試したら大当たり。

 新たに揺れた繭も力づくで地面に下ろして、手早く糸を取り除く。

 こちらも咳き込む様子に、これってもしや酸欠による窒息死の可能性もあったのかも、って想像してぞっとした。

 どんだけ絶望的状況だったのよ。


 でも──良かった、間に合った。

 思ったよりも衰弱してるみたいで、結構ギリギリだったのかもしれないと冷や汗が出る。

 とは言えギリギリでも間に合ったのなら、無茶した甲斐があった。 


 2人の生存を確認できて、やっと本当に肩の荷が下りた感じだった。

 これから街まで帰らないといけないし、まだまだ終わったわけじゃないんだけどね。

 でも生きてるなら、やれることはあるから。


 呆然とこちらを見つめる不甲斐ない男2人に、あたしはあえて堂々と宣言した。


「仕方ないから助けに来たわよ。リズを泣かせるなんて50年早いんだからね」


 自分でもなに目線か、どうしてそんな態度になったのかは分からない。

 気恥ずかしかったのかもしれないし、助かったのだと実感させたかっただけかもしれない。

 生きててくれて嬉しい気持ち、あたしにもちゃんとあるのにね。


 ただし、リズをこんなに泣かせて許されるのは、老衰で死に別れる時くらいなんだからね。

 しっかり反省するように!


最後まで読んでくれてありがとうございます(*'▽')

感想・評価くれると嬉しいです☆

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