21 セシルという新しい友人②
――(゜∀゜)人(゜∀゜)――
リズ視点です
「リズ、水分はしっかりとれ」
「あ、うん。そうだね」
普段はセシルと2人で探索することが多いけど、今日はわたしとジオンとトールの3人で樹海の探索に来ている。
実際に2人が魔導具を使っているところを確認したくて、時々一緒に行動することがある。
もちろんセシルも誘っているんだけど……まだ一度も了承されてない。
「はー……深度3って結構しんどいのな」
「そうだな。想像よりぐっと視界が狭くなって動きにくくなったな」
「うん。わたしも射線を確保するのが大変」
「オレは剣を引っかけないようにするのに一苦労だわ。ミスりそうな時にリズがフォローしてくれてめっちゃ助かる! さすが早々にDランクになっただけあるな!」
「……いや、あれはわたしじゃなくて、セシルの能力が規格外すぎたんだよ」
「それは本当にそうだな」
「フロッグキラーなあ……笑えねえわ」
「うん、本人はすごーく嫌がってるから言いにくいけど……カエルって厄介だよね」
話しながら、セシルの髪と同じ色をした花畑をぼんやり眺める。
この花畑を見たらすごく喜びそうだな、と想像したら、今度連れてきてみたいなと自然に思った。
半年前にできたわたしの新しい友人は、初めての同性の友人とも言える1つ年上の女の子だ。
背の半ばまで伸ばした薄い藍色のまっすぐな髪をいつも無造作に1つに結んだ、闊達って言葉が似あう、元気で明るい女の子。
講習会の後、真正面から友達になってほしいってお願いされて、出会った日のジオンを思い出して、わたしは気が付いたらそれを了承していた。
セシルは初対面時は物静かな印象だったのに、話し上手で聞き上手で、言葉を交わすほど物静かとは真逆だと感じる可愛い女の子だった。
わたしも背が高い方じゃないけど、セシルの方がほんの少し小柄だ。
でもその身体に見合わないほどパワフルで、どこに入っているのか不思議なほどよく食べる。
食べることが好きらしくて、美味しいもののために冒険者になったって聞いたときは、そんな動機で樹海に行って大丈夫かなって心配になった。
討伐経験はあると聞いていたけど、彼女の実力を疑っていたのは確かだ。
話術がうまくて押しも強くて、気付けば一緒に探索へ行く流れになっていた。
ただでさえこっちも初心者同然なのにとすごく緊張していたけど、実際にセシルの魔法を見たら、心配なんか吹っ飛んだ。
いつもにこにこしてる顔は、魔物に気付いた途端に別人のように冷たく変わり、驚くほど素早く滑らかに発動する魔法は、一般的な魔法の威力を上回っていた。
他の人なら10かかる準備を1で済ませて、10の威力で放つはずの魔法を50で叩きつける。そんな逸脱感があった。
さらに自身へかけた強化魔法で、完璧にわたしのカバーをしてくれた。
もともとセシルと探索に行く前に、気心の知れたジオンとトールと軽く慣らし探索をしていた。
だからこそ、セシルの動きの異質さはよく分かった。
魔法使いなら、剣士のジオンや斥候タイプのトールとはまったく別の立ち回りになると思っていたのに、実際のセシルは近接職であるジオンと同等に動いて、わたしの攻撃に合わせるようなフォローまでしてきた。
正直、どう反応するべきか迷った。
討伐経験はあると言っていた。
でも脳裏によぎったのは単純な疑問と困惑ばっかりで。
──冒険者になったばかりとか嘘でしょう?
その一言に集約された。
だけどその頃はまだ出会って数日で、軽く会話を交わした程度。
セシルのプライベートに踏み込めるほど、わたしのプライベートに踏み込んできてもいいと思えるほど、お互いに心を開いていなかったから、何も聞けなかった。
でも実力は問題ないことは間違いない。
同行を強く拒否する理由がなかったことと、どこかセシル自身が気になって、わたしたちの友人関係は正式に始まった。
探索以外でもセシルがおじいさまの店に訪ねてきたり、一緒に食事に行ったり、そうして過ごしているうちに気が付いた。
セシルのちぐはぐな部分に。
下心を疑うよりも周りの好意を受け取る無防備さがあると思えば、時々冷静な目で周りを見ている瞬間があったり。
誰とでも仲良くなっているように見えて、実は同年代は敬遠している節があったり。
わたしと仲良くなりたいと一生懸命近付いてくるけど……薄くて硬い、見えない壁が消えなかったり。
巧妙に隠されているけれど、観察している内にわかってしまった。
セシルは多分……人間不信だ。
わたしの予想では、何か嫌なことがあって、本当は他人に、恐らく同年代の人に近付くのを恐れているんじゃないかな。
わたしも経験したから何となくわかる。
傷つけられるのが怖いんだ。
だけどセシルは自分からわたしに近付いてきた。
何でわたしなのかって思わなくもないけど、もしかしたら本能的に同じ傷を持つことを感じ取ったのかもしれない。
痛みを警戒しながらも、諦めずに踏み出そうとしているセシルは、わたしよりもずっと強くて、初めて女の子のことを格好いいと感じた。
だからせめて、無理にセシルの傷を広げないようにしたかった。
そうすると困ったことに、あまり突っ込んだ質問ができない。
とは言えEランク昇格用のワーグ狩りは、さすがに身体強化の強さが想像以上だったので、思わず聞いてしまった。
「セシルは、どんな魔物と戦ったことあるの?」って。
過去に踏み込む、多分ギリギリのラインだった。
どこで、どんな、どうやって、どうして、そんないくつもの疑問を内包して、でも聞く勇気がなくて、直接どれにも触れないように包んだ質問。
セシルはちょっと驚いたようにわたしを見て、それからいつものようににへっと笑った。
「えーとね、王都の近くはイタチ型とかアリみたいな昆虫系が多かったかな。ワーグみたいな大型は初めてかも。ほら、あたし王都の商会の娘だって言ったじゃん。その関係でちょっと色々経験したけど、ここまで必死になったの初めてだわ」
軽く答えてくれたけど、でもそれはとてもぼんやりとしていて、『ちょっと色々』の説明を拒絶するものだった。
出会って1か月、信頼関係を築くには問題なくても、心を開くにはまだ足りない。
それがわかるから、わたしはそれ以上聞くことが出来なかった。
「でもリズに怪我がなくて良かった! 守れなかったらどうしようかと思ったよ」
ただ、後に続いたその言葉を頭の中で反芻して、肝が冷えた。
それはほんの数分前、想像を超えた勢いで襲い掛かってきたワーグを倒してから、2人して「怖かった」と思わず弱音を吐いた後の会話だった。
わたしは自分が襲われる恐怖と、わたしを庇ったセシルが怪我をしたり死んでしまったりする可能性に恐怖して、震えていた。
でもセシルが恐怖したのは、自身の危険じゃなく『わたしを守れない』ことへの恐怖だったのではないか、と思い至ったからだ。
わたしが怪我をしなかったことを喜んでいて、自分の怪我に関しては度外視しているように聞こえた。
それが自分への絶対的な自信なら危うくはあるが、まだいい。
でもそれが自分への損害を憂慮しない、自己犠牲に基づくものなら──待っているのは破滅だけだ。
「ねえ、それどういう意味? わたしは自分さえ無事ならいいなんて思わない。セシルが傷つくのも嫌だよ。わたしを守るために、セシルが大怪我したらダメなんだからね」
思わずたしなめるように口から飛び出した言葉に、きょとんとした顔を返されて、ああこれは本当にわかってないんだって思った。
自分は守る側で、守られる側だなんて全く考えてない。
だから魔法使いなのに、平気で前に出てくるんだ。
「セシルのこと友人だと思ってるから、大切にしたいから、傷ついてほしくないの。わたしのことを守ってくれるのは嬉しい。でもそのせいでセシルが傷付いたら、悲しい。だからちゃんと、自分のことも守って」
わたしは口下手で、人付き合いも得意じゃないけど。
でもセシルにはきちんと言葉で伝えないと、伝わらないと思ったから、すごく頑張って言葉を探して声に出した。
恥ずかしいとか照れくさいとか、そういうのは後回し。
じゃないと、いつか取り返しのつかない大怪我をしそうだって心配の方が強かった。
ますます目を見開くセシルをじっと見つめた。
けっこう長い時間を見つめ合ったけど、不意にくしゃりと顔をゆがめたセシルが、泣き笑いみたいな顔で呟いた。
「うん、わかった。……ありがと」
事情を知らないわたしには、セシルの痛みがどれほどか分からない。
だからすぐには無理かもしれないけど、少しずつ過去になって、いつか気負いなく笑えるようになればいいなって思ってる。
……半年たった今でもまだまだ危ういところはあるけどね。
最後まで読んでくれてありがとうございます(*'▽')
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