17 ワーグの死因を説明しろと言われましても
え、いや、その……Σ( ºωº )
珍しくカウンターから出てきたエイガスさんは、とっても面倒そうな顔であたしとリズを連れて歩いてる。
ギルドカウンターに行くのかなって思ってたのに、横手のドアを開けて入ってく。
もちろん、前に入った検査の部屋じゃないけど……なんかギルド用の部屋ってだけで嬉しくない予感がする。
えええ、今度はなによう……。
戻ってきた時と打って変わってやる気を取り戻して冒険者ギルドを出ようとしたのに、水を差された気分なんだけど。
隣のリズも何言われるのかって超ビビってて可哀想なんだけど。
これでたいした用じゃなかったら拗ねる自信があるね。
ぷりぷりしながらドアをくぐった先は、向かいの壁にもドアが、左右の壁には大きな棚が並んだ、倉庫みたいな大きな部屋だった。
真ん中にも大きな台があって、その前で見知らぬ男性がふんぞり返ってる。
えーと、どちらさま?
「さっきから解体班がうるさくてな、面倒だが確認させてもらうぞ。持ち帰ったワーグ……どうやって仕留めた?」
「え゛っ」
思わず濁った声になるほど驚いたんだけど。
え、聞くの? うら若き乙女にそれ聞いちゃうの?
目をかっぴらくあたしに、哀れみの眼差しを向けながらも引いてはくれないエイガスさん。
あとじっとりした目でこっちを見てくる、台のところの人。
えええ、これまさか不正とか疑われてる感じ?
あたしみたいなか弱い女の子が仕留めた獲物に見えないって?
それはそうでしょうとも。
こーんな小柄で可愛らしいお嬢さんがね、後ろ脚立ちしたら自分と大きさ変わらないような獣を、素手でぶん殴って内臓破裂させたとかね、嘘か冗談だと思いますよね、うん。
あたしもそこまで望んでなかったよ。
多分これ、魔力検査に立ち会ったエイガスさんは全く疑ってない。
さっき言ってた解体班? の人とおぼしき男の人が、何か言ってきたんだろう。
昇級確認用だからって、今回は特別に1人1匹ノルマで丸ごと持ち帰りさせられたのに、めっちゃ苦労した結果がこれってどういうこと?!
うら若き乙女の所業としてはだいぶアレだから、明確に表現したくないんだけど……正直に言わないと帰してくれないどころか、もしかしたら取り調べっぽいことになっちゃうとか?
えーーーどっちもやだーーー!
「どうしたのかね、正直に言いなさい」
もごもごするあたしに、男の人から催促がかかる。
代わりに説明とかしてくれないかなーってエイガスさんに目でアピールしてみたら、同僚の鼻息荒い様子をチラリと確認しただけで、あっさり諦めの顔で首を振られた。
そこで面倒くさがらないでー!
「さあ、君の持ち帰ったワーグはどうやって倒したのかね」
「……ええと、襲い掛かられてですね、めっちゃ動きが早くてビックリして、咄嗟にこう、身体強化した状態で、えいって……」
「……………………うん?」
「身体強化で殴ったんだな」
「その、もっと離れてほしいって気持ちがね、つい……ね?」
「つい全力でぶん殴ったら、あっさり撲殺できたんだな」
「言いかたあぁぁ!!」
事実だけど身もふたもないエイガスさんのまとめに、さすがのあたしも涙が滲みそうなんだけど?!
ちょっとおじさん、そんな目でこっち見ないでくれる?!
「……………………ええと、つまり?」
「こっちの娘の身体強化の結果ってことですよ。そうだな?」
「あ、はい。その、セシルがわたしを庇ってくれて、それで反射的にって感じでした。本当です」
「だそうですよ。だから俺は最初からそう言ってるでしょう」
「だがこんな小柄な小娘なんだぞ。簡単に信じられるか」
まだ信じられないと言いたげにこちらを観察した後、おじさんはふと何かを思い出したように台の下に置いてあった箱をあさると、黒い棒を取り出した。
長さは50セチ、太さは2セチくらい、かな?
「よし、これを全力で曲げてみろ」
そう言ってポイって投げられたので慌てて手を伸ばしたら、思ったより手に衝撃がきてビックリした。
これなんかの金属じゃん?! 人に向かって投げないでよ!
思わず睨みつけると、さすがにまずいと思ったのか一瞬目を泳がせたけど、何でか睨み返してきたおじさん。
何なのこの人、あたしに何か恨みでもあるの?
だいぶイラッとして色んな意味で早く帰りたくなったから、言われた通りに強めの身体強化を自分にかけた。
「もーーーなんなのよーーー!!」
叫びとともに全力で不満を棒にぶつけた結果、すごい抵抗があったけど半円近くまで曲げることができた。
むむ、いい丸さ。ちょっと満足。
よしよしと仕上がりに納得して、ちょっと気分よく顔を上げると、唖然とした顔のおじさんが目に入って思わず固まった。
あれ、これもしかしなくても曲げにくい金属なんじゃ……?
なんて今さら気付いて、恐る恐るエイガスさんを見ると完全に呆れ顔。
慌てて後ろのリズも確認すると、目を見開いて固まってた。
あ、これダメなやつだわ。
「え、エイガスさぁん……?」
「……はあ。カルビウム鋼をそこまで曲げれるのは、Bランク近接職くらいなんだよ。お前なんで魔法使いやってるわけ?」
「Bってめちゃつよな人達じゃん?! なんでってそんな事実知らないからだけど?! 知ってても素手とかイヤだからね?!」
何気にどころか普通にエイガスさんひどくない?!
お前その状態で人殴んなよって言われたけど、殴りませんから!!
……むしろ街中では身体強化自体を控えようって思いました。事故怖い。
しばらくしかめっ面で戻ってきた金属棒を観察しながら唸っていたおじさんは、不意にあたしを上から下まで観察した後、感心したように大げさに息をついた。
何なのこの人、失礼じゃない?
「……まったく、冒険者とは意味がわからん奴らが多いが、お前はまた格別に意味が分からんな」
ほんっとーに何なのこの人?! 失礼にもほどがあるよ?!
今度こそ本気でイラッとしたあたしに気付いたエイガスさんが静かに肩を押さえて方向転換させてきて、同じく気付いてたリズがそっと手を引いて部屋を連れ出してくれた、からなんとか惨事は免れた。
──けど、あたしアイツ嫌い!
そのままなし崩し的に確認作業は終了し、あたしはリズになだめられながらやっと冒険者ギルドを離れた。
そのあとは苛立ちに任せて市場でやけ買いして、部屋でやけ食いして、最後はふて寝した。
泥だらけの装備とか今日はもう知らない!
ぷりぷりしながら就寝したあたしは、あのムカつくおじさんが酒の席の笑い話として大げさに吹聴して、ネタとしてひっそり広がったその話によって、いつの間にか怪力少女扱いされるようになることなんか、その時は知る由もなかったのだ。
もーーーほんとやだーーー!
最後まで読んでくれてありがとうございます(*'▽')
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