16 反省会は明日にしよう
|柱|ヽ(・_・`)…
ぺしょりと力なく机に突っ伏して、あたしにしては珍しく静かに、注文した料理が運ばれてくるのを待っていた。
周りから好奇心満々の視線を感じるけど、反応する元気もない。
リズは向かいの席に着いて、まだ荷物を整理してるみたい。
あたしは上着も装備も全部外して、冒険者ギルドで売ってる大きな麻袋にまとめて突っ込んだまま、足元に転がしてる。
確認も整備も、後で帰ってからやるって決めた。
今はもうなんもしたくないくらい疲れた。
「リズぅ……反省会、明日でもいい?」
「……ん、そうしよう」
いつもは帰ってきたら反省会をするんだけど、今回は後回しで意見が一致。……だよねー。
少しでも食べて今夜はしっかり寝て、まずはちゃんと体を休めたい。
さすがのあたしも今日はあんまり食欲ないけど、買って帰るために寄り道することすら面倒だから、冒険者ギルドの食堂で簡単に済ませることにした。
その結果が今のあたし。
ちょっと行儀が悪いけど、むしろお行儀がいい冒険者の方が珍しいから、これでいいの。
馴染んでる証拠だよ、うん。
「あれま、珍しいな、嬢ちゃんのそんな姿。苦戦したんか?」
「コリーさん……うんまあそんなとこ」
「おお? マジで元気ないのか。まあそんな日もあるわな。ほれメシ持ってきたから食え、んで帰って寝ろ」
「あい……ありがと」
いつも気さくに話しかけてくれてた食堂のおじさんことコリーさんは、正しく食堂のおじさんだった。
まあつまりはギルド食堂の料理人だったんだよね。
交代で休憩取って自分たちも食べてる時に、たまたまあたしが行くことが多かっただけらしい。
今も休憩ついでにあたしとリズの分を運んでくれたみたい。
一緒に持ってきた自分の分のプレート皿を手に、隣のテーブルに座った。
「んで? 怪我とかはないのか?」
「そこは大丈夫。ただちょっと色々失敗が重なって、疲れちゃっただけ」
いやもうほんっといっぱい重なった、いや重ねちゃったんだよ……。
肝心の先制攻撃に失敗した初ワーグ戦のあと、動揺したまま慌てて水場から離れたせいで進む方向を間違えたり。
めっっっちゃうるさい鳴き声のトリの魔物()と遭遇したり。
耳鳴りに襲われながら帰る途中ではサルの魔物()の集団に囲まれかけたり。
そのサルたちには大量の泥団子を投げつけられて、あちこち泥だらけになりながら逃げだしたり……。
ヘロヘロながらもワーグの狩猟成果だけは意地でも持ち帰ってこれたから、冒険者ランクを『ド素人の新人ランクF』から、『下位冒険者ランクE』に上げることだけは出来た。
でも総合的に見れば、ダメダメだ。
とにかく、苦々しい記憶ばかりが印象に残る探索だった。
「……なめてるつもりはなかったけど、でも覚悟とか準備とか経験とか、いろんなものが全然足りてないなって、反省してるとこなの」
あたしとリズは、世間的に見て優秀な部類だと思う。
でも特定の能力が高くても、不足してる部分がたくさんあったら、やっぱりそれは能力不足ってことなんだ。
それをどう補って改良していくかを、もっと真剣に考えなきゃ。
……でも今は頭が働かないから、いったんお休みなの。
コリーさん特製の野菜と卵の炒め煮をお腹に入れることが最優先。
シャキシャキふわトロ美味しいねえ。
美味しいものは心と体の活力になるってわかったから、疲れててもなるべくちゃんと食べるようにしてるの。
だからこれは現実逃避じゃないんだよ。
「わはははは、若いなあ。よしよし若い奴は凹んで悩んで、でもしっかり飯食って元気出して、んでまた迷いながら進んでくもんだ。嬢ちゃんたちなら出来るさ」
「コリーおっさんくせえぞー!」
「ああん? オレぁ紛うことなきオッサンだっつーの」
「じゃあじじくせー!」
「誰がジジイだ! てめえの飯にサザネロ(激辛香辛料)ぶっこむぞ!」
「ギャー! 職権乱用やめろ!!」
「「「ぎゃははははは!」」」
別席の冒険者からツッコミが入った途端に、周りが一気に賑やかになった。
みんな、らしくなく萎れてるあたしに気を使ってくれてるみたい。
優しさにふれて心がほっこりするのがわかった。
だからね、ひっそり混ざる雑音は別に気にならないの。
(はーあ、まーたちやほやされていい気になってるぜ)
(つかあれ凹んでるふりして自慢? ワタシこの程度じゃ怪我しませんからーってか?)
(まったくもってかわいげも面白味もねえなあ)
(見目いい若い女は楽でいいねえ)
まあどこにだってそういう人いるよねーとしか思わない。
聖女を辞めるって決めた時に、もう誰かの身勝手な欲望や悪意には付き合わないことも決めてたの。
それよりもあたしを大切に思ってくれる人を、あたしも大切だよって返すことに忙しいんだよね。
手を差し伸べてくれない冷たさよりも、声をかけてくれる優しさを大事にしたいから。
そんなわけで見知らぬ冒険者さんたちには残念だけど、その悪態は効果がないんだなー。
そんな心配そうな目で見なくても、あたしは大丈夫なんだよ、リズ。
にっこり笑いかけて、周りの笑顔に励まされてちょっと回復したあたしは、いつものように元気よく残りの食事を食べていく。
「うーん、やっぱりこれだけじゃ物足りないかも。夜食と朝食の買い物して帰ろっかな」
「おお、いっぱい食って大きくなれよー」
「こども扱い?! あたし18! 成人済み! もう大きくはなれません!」
勢いに任せて食べて喋って叫んでたら、なんだか活力が湧いてくるのがちょっと不思議。
あれ、まさかあたしが単純だからじゃないよね?
いやでもいつだって効果があるってわけじゃないし、単純かそうじゃないかなんて決めれないはず。
とりあえず、なんかそういう回復のしかたも、何かの魔法みたいでおもしろいなーって思っただけだから!
何にしろ、まだまだ知らないことなんて世の中に溢れてるけど、全部知るのは難しい。
だけどまずは自分の周りの問題を調べて、考えて、対策を練って、そうしてみんな進んでいるんだよね。
……そういえば、ここフォルナは試行錯誤を繰り返して発展した街なんだった。
そうだよ、あたしもその精神に倣えばいいんだよね。
よーし、なんかやる気出てきた!
じゃあまずは──帰って寝よう!
「もーホント失礼な人ばっかりなんだから! そろそろ帰ろ、リズ!」
「え、あ、う、うん」
途中からわちゃわちゃ騒ぎ出したあたしをぽかんと見ていたリズは、慌てて残った水を飲み干して立ち上がった。
ささっと荷物を背負い、プレート皿をカウンターに返して食堂エリアから離れる。
ぷりぷりするあたしにリズが苦笑してて、薄くでも笑えるくらいにはリズも回復できたみたいだってわかって、内心こっそりホッとした。
あたしですらあれだけヘロヘロだったんだから、あたしより経験も体力もなくて、しかも真面目なリズが気にしてないはずないもんね。
でもお互いにフォローする余裕が残ってなかった。
ううむ、経験不足がすぎるわ。
「ねーリズ。今日はいっぱい休んで、明日はいっぱい話しようね」
「うん。ちょっと早めに来る?」
「そうだね。じゃあお昼ごはんだけ調達して……10刻でどう?」
「大丈夫。わたしの分もお願いしていい?」
「おっけー!」
よし笑えてる、大丈夫。
あたしたちまだまだ折れてない。
初心者らしく失敗して凹んで悩んで、でもやりたいことのために、また立ち上がってみせますとも。
そう──まずはリオネの実のために!
「────セシル」
不意に呼ばれて振り返る。
そこにはいつも無愛想な顔のエイガスさんが、面倒そうな顔であたしを見下ろしていた。
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