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今日あたしは筆頭聖女を辞めました。  作者: そらのたまご


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13/24

13 まずはアルミラージから

₍ ᐢ. ̫ .ᐢ ₎


 そこかしこに太陽の光が差し込む緑豊かな魔物の森の中を、あたしは日陰を選んでそっと移動した。

 視線は離れた位置にいるウサギ型の魔物から離さない。

 アルミラージと呼ばれる短い角を生やしたその魔物は、見た目こそウサギに近いけど深度1の中では油断ならない相手らしい。

 一定の距離を取ったままぐるっと回るように進んで、遮蔽物がない位置取りに来ると、片膝立ちで待機する。

 アルミラージを目標として、左ななめ前の方向の木の陰のリズに手を上げて合図を送ると、あたしもそっと短仗を構えた。


 ゆっくり1から5まで数えたところで、鋭い風切り音が響いた。

 間を置かず、ダン! と大きな音と共に、空を吹き飛んだアルミラージは木に縫い留められ、だらりと力なくぶら下がる。

 数拍待って動きがないことを目視してから、立ち上がって静かに木に近付いていく。


 杖をしまうのは、もう少し後で。

 倒したって油断して安易に近付いて、反撃を食らうのは初心者あるあるなんだって。

 前にギルドの食堂で魔物の森に入る前の腹ごしらえをしてた時に、親切なおじさん達が色々注意点を教えてくれた。


 親切な人が多い街って素敵だなってしみじみ思ったね。

 王都はね、権力抗争のど真ん中って感じだから、表ではにこにこしてても、裏で別のこと考えてる人が多かったんだよね……。

 その点この街の人たちは、森の恵みに支えられながらも、魔物の脅威とはずっと隣り合わせだ。

 だからこそ助け合うのが当たり前になってて、人に何か教えたり手を貸したりするのは自然なのかもしれない。

 考え方が違って当然なのかもね。


 その人自身の資質だけじゃなく環境も大事なんだなーって、あたしはまたひとつ学んで賢くなった。なんてね。

 ちなみにその時も一緒にいたリズは固まってて、まん丸お目目が可愛かったです。


 リズとは毎回一緒に行動してるわけじゃない。

 彼女には魔導具師見習いとしての生活があるし、予定だっていつも合うわけじゃないからね。

 

 あたしが魔物の森に通ってる一番の目的は、リオネの実が採取できる樹海深度4まで行けるようになることだ。

 とはいえ、今はまだそのために地道に経験を積んでる途中。


 だからタイミングが合いそうな時とか、今日みたいに狩猟メインの日は、一緒に行こーって声を掛ける感じ。

 リズがいると索敵も遠距離攻撃も安定するから、狩りそのものは一人よりずっとやりやすい。


 でも、あたしは単独で動くことも多い。

 強化、攻撃、回復、どれも一人で使えるし、いざとなれば結界だって張れるからね。

 本気で危なくなったとしても、たぶんどうにかできると思ってる。

 だから一人でも大丈夫そうな範囲なら、一人でのんびりやる方が気楽なんだよね。


 そんなこんなで、あたしが魔物の森に入るのは今日でちょうど10回目だけど、リズと一緒に行動したのはこれで3回目。

 連携はまだまだ甘いけど、リズは信用できるし、必要以上の詮索もしてこない。

 一緒に動く相手としてはかなり気が楽だ。


「──うん、絶命を確認、と」


 間違いなくウサギが息絶えていることを確認してから、木の陰に潜んだままのリズに合図を送ると、ほっとした顔で構えていたクロスボウを下げた。

 なるべく音を立てないようにしながら、急いで駆け寄ってくる。

 ほんわか少女と、何か色々付いた厳ついクロスボウの組み合わせ、意外と悪くないと思う。


 うんまあね、リズの魔導具に対する熱意と知識は、この魔導クロスボウなんかよりよっぽど厳つかったけどね。

 そう考えると意外というほどでもないのかな?

 可愛いは消えないのでヨシとしよう、と結論付けて、傍まで来たリズに笑顔で話しかけた。


「おつかれー。今日も見事な命中精度だね。前に気になるって言ってたとこ、どんな感じ?」

「あ、ありがとう。加圧によるブレは改良できたんだけど、やっぱりもう少し軽量化したいな……相性的にはオリオン鋼かな」


 そう、リズの武器は自作の魔導クロスボウ。

 雷属性が付与された魔石が組み込まれているらしくて、矢がめっちゃくちゃ早く飛ぶの。

 初めて見た時はバカみたいに口開けっぱだったとか、後ろにいたリズにもナイショなのです。 


「ふんふん、そうなんだ。んん? オリオン? って何かの説明で聞いたよーな?」

「えっと……あ、前に短剣の素材の話で言ったことあるかもしれない、けど……よく覚えてたね」

「あーそれかー! たぶん剥ぎ取り用の短剣の話だったから、印象に残ってたんじゃないかな?」

「なるほど……セシルは剥ぎ取り、苦手だもんね」

「…………うん」


 そうなのだ。

 魔物の討伐自体はしたことがある。

 聖女には最低限の護身訓練があって、あたしも訓練の一端として魔物と戦わされたんだよね。

 でも魔物の処理とかは他の人がやってくれてたし、必要ないからって教えてくれることもなかった。

 だから獲物を仕留めることは出来ても、適切に持ち帰れない。

 

 そもそも魔物の森に限らず、冒険者ギルドの成果確認は、当人が持ち帰った品を査定して評価に反映する仕組みだ。

 たいていの人は軽量化の魔法がかかった採取用のカバンを用意して、それに成果を詰め込んで帰ってくる。

 でも容量には限りがあるから、全部を持ち帰ることは出来ない。

 だから魔物なら必要な部分だけを剥ぎ取るし、ついでに肉や皮なんかを持ち帰りたいなら、適切な処理をしないと痛んだりダメになったりして、当然だけど価値が落ちる。

 あと普通にカバンが酷いことになるしね。

 つまり仕留めた獲物を適切に処理して持ち帰る、まで出来て初めて、一人前の冒険者とみなされる、らしい。


 でもねでもね、個体によって必要な部位とか、処理しないといけない理由、方法、注意点、その他もろもろ含めた内容、全部覚えるのって大変なんだよー!


「えっとね、普段から見聞きして経験して覚えていくものだから、この辺の人でもなかったセシルには難しくて当然だよ。わたしもいっぱい教えられるよう頑張るね。セシルなら大丈夫だよ!」

「リズぅぅぅ! ありがとおおお!」


 ちょっとくじけそうなあたしに気付いたリズが、一生懸命励ましてくれて泣きそうになった。

 リズやさしい。リズかわいい。リズ頼りになるーーー!

 あたし見る目あり過ぎたわ、と講習会の日の自分を褒めたくなった。

 生意気な弟よりも、こういう可愛い妹がほしかったわー。


 ちなみにリズは17歳。

 あたしより1歳年下だとわかった時に呼び捨てにするようにお願いされて、たった1歳だし、と説得してあたしも呼び捨てにしてもらってる。

 あの脳筋っぽいと思ってた相手が19歳だって聞いたときは、本気で耳を疑ったけどね。

 とりあえず説得材料としてはとても有効でした。


 はーまったく困ったものだわーなんて脳内で現実逃避しながら、ウサギの小指の爪ほどの小さな角と、尻尾だけ手早く取って、採取カバンにしまう。

 取った部分は少しだけで、残った部分のウサギは今回は放置。

 夕食用に血抜きして丸ごと持って帰る日もあるけど、今日はリズと深度2に行く予定だから、あまりのんびりするつもりはない。


「さて、リズはもうちょっと試し打ちしておく?」

「そうだね。あと2回くらい出来ると嬉しいかな。でも途中で見かけたらくらいで大丈夫だよ」

「りょーかーい! んじゃ目標のオオカミに向かってしゅっぱーつ!」

「ふふ、うん、出発だね」 


 握りこぶしを大きく振り上げたあたしに、可愛く笑いながら控えめに手を上げてくれるリズは最高です。

 ざっとクロスボウを目視でチェックしてから、あたしたちは森の奥へと歩き出した。



最後まで読んでくれてありがとうございます(*'▽')

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