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第20話

ホーネットがフリージア・ラズベリーに


「あなたの望みが創造神エクレアーナ様とお会いすることであるならば、逆に会わさないことがあなたへの最も効果的な罰になるのでしょう」


右手を向けて魔力を放つ。


すると、フリージア・ラズベリーは倒れてしまった。


「殺したの?」


と僕が聞くと、ホーネットは微笑みながら、


「ご安心を、輝かしきご主人様。彼女の命を奪ったわけではございません。ただ、すべての記憶を奪い取ったのでございます。過去の思い出もすべて」


「これからは人が変わったようにまったく新しい人生を送ることでしょう」


気のせいか何か含みをもった言い方をした気がする。


こうしてコパー都市国家とエッグプラントを長くむしばんで来た多くの原因が取り除かれたのである。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


とホーネットによる断罪から数日後。



この日はコパー都市国家の王城で、行方不明だった王子が帰還したことによるお祝いのパーティーが開かれていた。


参加する者は主だった貴族である。


であるにもかかわらず、最初のあいさつは、


「私はエッグプラント会議の議長を務めておりますミルキー商会会長のスプルース・ミルキーというものです」


「今日この場に参加をし皆さまに挨拶をする栄誉を与えていただいたことは末代までの誉れに存じます」


「皆さまご承知のように、ながく行方不明であった我が王子グラジオラス殿下が見つかり無事に戻ってまいりました。今宵はこの国の慶事を祝うパーティーでございます」


「皆さま、存分に楽しんでいってくださいませ」


と、男は一礼をする。


その様子を少し離れた場所で国王とグラジオラス王子が複雑な表情で見ていた。


さらに少し離れた場所では、いままで後継者として目されていた国王の甥である王太子が暗い表情で立っている。


それはそうだろう。


実の子供が戻ってきた以上、早晩王太子の座を追われることが予想されるのだから。


そんな王族たちをさしおき、平民であるエッグプラントの代表者であるスプルース・ミルキーがパーティーのあいさつを行った。


この異様な光景を貴族たちは冷めた目で見ていた。


皆、知っているのである。


王族がこの若者に頭を下げ、実質的にこの国のかじ取りを任せたことを。


国王主催のパーティーでありながら国王を差し置いて話をするということはそういうことなのだ。


「今日は貴族の皆様の前ではございますが、不肖のわたしめがこのパーティの進行をあい務めることになりました。お目汚しいたしますことをどうぞお許しください」


ぬけぬけと言ってのけるこの男は豪胆なのかただの無恥なのか。


「このたびは我が国の宝であるグラジオラス王子殿下を見つけたというこちらの方々を皆様にご紹介したいと思います」


そう言ってスプルース・ミルキーはステージに立つ人たちに目を向けさせる。


ステージには、Sランク冒険者メイザリン、Aランク冒険者パロットさん、そして聖女ラピスが立っていた。


スプルース・ミルキーの紹介する言葉にさすがに貴族たちはステージに立っているものが中央平原でも屈指の要人であることを理解し、歓声をあげた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


この光景を見定めるような眼でみているスプルース・ミルキーは自分の策が成功したことに満足をしていた。


王子を見つけたことで国王らに恩を売ることができた。


政敵であったラズベリー商会のフリージア・ラズベリーは記憶をなくし、脅威ではなくなった。


平民軍団を握るスマルト将軍ともあの後、和解をし自分の陣営に加えることに成功した。


王城で開かせたこのパーティも貴族連中に自分の顔を売るためのもの。


言外にこの国で最も権力をもつのが誰であるかを知らしめるために。


唯一目障りであったカウスリップもこの国から去った。


不当裁判であの邪魔なグリーンを始末することはできなかったが、それ以外はすべて俺の思い通りだ。


俺はこの権力争いに勝ったのだ!!


グフフフ。


グフフハハハ!!!


おもわず心の中で笑みがこぼれる。


これであとは赤髪の騎士ガーネットを自分のものにするだけだ。


あの地位、あの剣技。それに加えてあの美貌。


コパー都市国家の実質の王である自分の隣にたつに相応しい女性はあの者しかいないとさえ思う。


ガーネットには、今日このパーティーに参加するよう自分の瞳の色と同じドレスを贈ってある。


きっと彼女は参加しているはずだ。


女性はこのような夜会が好きと相場は決まっているからな。


そしてこのパーティでダンスを踊り、求婚しよう。


残念ながらパーティの取り仕切りをしないといけなかったのでガーネットをエスコートすることはかなわなかったが、会場に入ったことは確認している。


なんせ、主人であるグリーンにそうするよう脅してあるからな。


「こちら、高級赤ワインでございます」


気の利く給仕の者がワインを持ってきてくれた。


さしずめ、勝利の美酒というやつか。


ゴクン。


一瞬視界が暗転した気がした。が、気のせいだ。



「美味いな」


俺は飲んだワインの美味さに酔いしれながら遠くを見る。


お、あちらにドレスを纏った赤髪の女性がいる。


間違いなくガーネットだ。


彼女は俺の方を見て微笑んでいるではないか。


最高の舞台を整えたんだ。


中央平原一しあわせなプロポーズをしよう。


俺はガーネットに駆け寄った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「あ~、いい夢を見ているみたいですねぇ」


皇太子補佐官であるエリカさんは目の前で拘束されているスプルース・ミルキーを見てつぶやいている。


スプルース・ミルキーはシルバー王国のジングート将軍が手配した武官の指揮のもと、ミルキー商会を襲撃され夢を見る魔道具で無力化し、拘束されていた。


僕が身体を張って得た情報を逐一ジングート将軍に流していたおかげと言えよう。


「ガーネット~、ぼかぁ、ぼかぁ、幸せ過ぎて死ぬかもぉ~~」


時折スプルース・ミルキーが寝言を言う。


まあ鬱陶しい。


シルバー王国の武官が申し訳なさそうに、


「すいません、最近手に入れた魔道具をどうしても使用してみたくて。どのような効果があるのか実戦で使わないと分からないし」


とのたまう。


まあ、効果は高いよ。


すごく気持ちよさそうに眠っていて起きそうにないもの。


となりでエリカさんが


「キモい、キモい、キモい」


と連呼している。


なぜエリカさんがいるかと言うと、シルバー王国の同盟国としてプラチナ帝国と合同でコパー都市国家の後始末をすることになり、エリカさんがプラチナ帝国の代表として選ばれたからだそうだ。


僕の不当裁判で弁護人を引き受けたのも、ちょうどタイミングが良かったらしい。


おかげで怪しまれずに侵入できたわとお礼を言われる始末だ。


このあとのことは、僕が関わることではない。


ということでこれにて調査任務は完了だ。

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