第12話
コパー都市国家、首都。
この首都は三方を高い山に囲まれており一方にしか通行できないようになっており、非常に守りやすい。
歴史は古く、かつてコパー農業国といったらしい。
当時は今よりも魔物の被害が大きく、魔物からの被害をふせぐためにこのような場所に建てられたのだそうだ。
歴史が古いと言うことは昔の思想である身分差別が根強いということでもある。
首都に住む貴族たちは総じて貴族意識が強く平民への差別がひどい。
平民や自分より下の身分の者には何をしても、命を奪ってもいいと考えているし、それを罰する法律がないのだ。
それゆえか首都に足を踏み入れて感じた印象はどことなく暗い。
貴族の世話をするために平民が使われているのでこの首都に全く平民がいないことはない。
世襲制で先祖代々、その貴族の家に仕えていることが多いらしいので忠誠心は高いのだろう。
だから貴族への接し方や絡まれない身の振り方が上手らしい。
結局、平民が目立ってしまうとダメだから首都全体が暗い雰囲気になってしまうのかもしれない。
僕は首都の大通りを歩き、まっすぐ王城を目指していた。
従者はホーネット1人だけにしている。
どんな危険があるかわからないから、僕は最大限警戒をしながら歩いていたが、1時間も歩くと王城の前へ着いた。
何も起きなかったので少々拍子抜けした感はあるが、気を取り直して門を守る騎士に身分と肩書きを名乗り陛下にお目通りを願いたいと伝えてみた。
まあ、無理だろうと思って騎士が城の中へ入っていくのを見ていたが10分後、驚くことに城の中へ入ることが許されたのだ。
身分差別が厳しいのによくまあ平民の僕が城の中へ入れるものだと逆に呆れてしまった。
それだけ平民軍団長に期待をしている表れかもしれない。
僕は案内されながら城の中を見ているが豪奢なつくりではあってもところどころ古びたままで修繕されないでいる。
はっきり言おう。
無駄にでかいが寂れている。
警護をしているはずの騎士の数も少なく警戒心が薄いのかと心配になるほどだ。
王の間と書かれた部屋へ案内され、入室を促された。
国王陛下の執務室に入っていいの!?とか、部屋が小さいのでは!!とかいろいろツッコミたかったが、それらを忘れるぐらいびっくりしたのが国王陛下の姿だった。
やつれており、服装も地味。
なんならエッグプラントで道を歩いている平民たちのほうがよほどお洒落である。
辛うじて目の前の貧相な男性が地位の高い人だろうと思える根拠は、となりに筋骨隆々で武骨ながら性能の高い防具を身に付けた騎士が立っていたことである。
後で紹介を受けたがこの国の騎士団長で国王の護衛であると言っていた。
国王陛下が僕に声をかけてきた。
「お主が平民軍団長の使いのものか?ずいぶん長い間、何の便りも無かったのだ。さぞかし良い内容なのだろう」
とギロッとした目でこちらを見てきた。
どうやらカウスリップ様はほとんど王城へ足を運ばなかったようだ。
隣の騎士団長もそれに続いて、
「それはそうでしょう。就任以来、初めての報告なのですから。きっと平民どもを掌握し、この国をあるべき姿に戻す時がきたことを告げてくれるのでしょう」
と嫌味を言う。
僕がじっと黙って立っているとさらに言いたいことを言ってくる。
「この数年間、なにもしていないのに給金だけは払っている状態なので平民軍団長は給金泥棒なのかという意見もでていたなあ、騎士団長?」
「ええ。まったくその通りです国王陛下。いやはや騎士団内部の不満を抑えるのに私も苦労しましたよ」
「わしも貴族たちを宥めたが、気持ちはわからんでもないな」
小1時間、ずっと嫌味とカウスリップ様への悪口、果てはその家族まで貴族らしくないだのという内容にまで及んだ。
僕はじっと耐えていた。
そうか、このことを知っていたからカウスリップ様は何もしなかった。
できないし、やりたくもなかったんだ。
僕はカウスリップさまが抱えていた思いに気づいて愕然とした。
この国は希望がない。国王が現状を見ずに愚痴を言うだけだ。
これならエッグプラントが中心となって国を動かしたほうが平民にとってよほどいいだろう。
「ふぅ。ひさしぶりにしゃべってのどが渇いた。おい。茶を持ってきてくれ。・・うん?まだいたのか。平民ごときがわしと話をできると思ったのか?」
「大体、何の手土産もなく手ぶらで来るような奴と話すことなどないわ!!さっさと出ていけ!!」
とこちらを見ずに言う。
騎士団長はこちらを見ており、不審な動きがないかにらんでいるようだ。
僕は黙って執務室を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ふん、やっと帰ったか。あの無能のカウスリップの使いが!!それもゴミ臭い平民の分際で」
わしは悪態をついて吐き捨てるように言った。
隣にいる騎士団長も同感ですと言う顔をしている。
わしはこのコパー都市国家という国の王族として生まれたが、他の国の王族の生活を知ったときは腰を抜かすぐらい驚いた。
自分の待遇があまりにもひどいと言う事実にだ。
この国では王族や貴族が何を言ってもエッグプラントの者どもは言うことを聞かない。
本来なら納めないといけない税金も自分たちで使っている。
それをどうにかしないといけない役目であるはずの平民軍団長もなにもしないのだ。
いまのカウスリップというやつも就任後、一度だけ王城へ登城したことがあった。
だが、貴族たちからも憎悪の対象にあったやつは、王城へ行く道すがらの貴族令嬢から、水をかけられみじめな思いをして帰っていったと聞いておる。
あの無能にはお似合いじゃわい。
わしが平民軍団長の哀れな姿を思い出し溜飲をさげたとき、ドアからノックの音が聞こえた。
「叔父上、私でございます。入室してよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも。さあ、入っておいで」
ノックをするのはわしの後継者となる姉の子だった。
いまは王太子である。
わしの実子は数年前の事件で行方知れずとなってしまったのだ。
なのでやむなく姉の子を引き取り王太子として後を継がせようとしている。
聡くて優しくてしかも決断力も持ち合わせている自慢の王太子。
そんな大切な王太子がわしに話をしたそうにしておった。
「どうしたのじゃ。なにか話があるのじゃろう。何でもよいぞ」
わしが優しく言うと、
「では前から聞いてみたかったのですが、」
と前置きをし、おずおずと口を開いた。
「叔父上、どうしてこの国では平民が貴族の上にたつことがまかり通っているのでございますか?」
核心をついた質問じゃな。
そろそろ王家の秘密を話すときがきたのやもしれん。
わしは騎士団長に目配せし人払いをした。
そして王太子に王家の秘密を伝えることにした。
「今から話すことは王家の秘事になっておる。他言してはならぬぞ」
「はっ」
「言い伝えでは、かつてわしらの王家の者が創造神様のご不興をかい、直々の呪いをかけられたと言われておるのじゃ」
「あるとき、この地に創造神様が姿を現され、「報いを受けよ。我、王家に呪いを与える。王を以て民となし、民を以て王となす。自分たちの愚かさを悔やむがよい。」」
「創造神自らがこの言葉を発したという記録が残っておるのじゃ」
「呪いの内容は、王族であるのに平民の扱いを受け、平民が王族と同様の権力をもち政治に参加するという意味じゃ」
わしの言葉をきいた王太子はしばらく口を開かず目を大きくして無言を貫いていた。
やがて口から悪いものでも吐き出すかのように大きく息を吐きだすと、
「そんなことが・・・・・・・・本当にあるのですか」
何を寝ぼけたことを、
「実際にそうなっているではないか!!」
つい感情的になってしまった。
ビクッとおびえる王太子に優しくいたわるように、
「他にも創造神様の怒りを買った国があるらしい。ある国は、一夜にして国ごと滅んだとか」
「それが事実なら、まだわしらの国はましだといえるじゃろう」
この言葉を発したあと、わしも王太子もしばらくは口を開くことは無かった。




