第6話
僕が平民軍団長カウスリップ様の押しかけ側近になって数日が経った。
住んでいる屋敷の周辺の地域のあちこちで屋敷に必要なものを買い足したり情報収集をしたりなので、僕は周りの人たちに顔を覚えてもらえるようになった。
(ホーネットは認識阻害魔法で目立たないようにしているのでホーネットのことは知られていない)
その日もホーネットをつれて歩いていた。
ガーネットは、屋敷にいてもらっている。
さて用事も済んだし屋敷へ帰ろうかとしたとき、突然6人の冒険者風の男たちが僕の前に現れた。
「お主が最近他国からきて、平民軍団長カウスリップ殿に取り入ったというやつか。一体何を企んでいる!!」
すでに武器をもっており、敵意を向けられている。
6人はじりじりと輪をつくり僕たちを取り囲もうとしていた。
6人は多いな・・・・・・。
このままでは危険だと感じた僕はどうやってこの場を逃れようかと考える。すると、
「待てい!!わしの目の前で狼藉をすることは許さん!!」
野太い声で冒険者たちを押しとどめる声が聞こえてきた。
その声は一人の将軍のものであった。
すぐさま将軍の護衛たちが冒険者たちを止めにかかったが、冒険者たちは声が聞こえると同時に逃げ去った。
将軍らしき人物は僕たちにゆっくり近づきながら、
「異国の人だな。災難であった。申し訳ない。このエッグプラントはそこまで治安は悪くないと思っていたのだが」
「これも治安警備を預かるわしの責任じゃ。お詫びにわしの屋敷へ案内したい。どうであろうか」
と申し訳なさそうにしている。
僕はこれも情報収集のためだと思い、ついていくことにした。
将軍の屋敷へは馬車を用意してもらった。
僕たちはその中へ将軍とともに乗らせてもらった。
馬車の中で将軍から自己紹介を受ける。
将軍の名はスマルトといった。一体どんな人物なんだろうか。
馬車が止まり屋敷の中へ案内してもらった。
お茶菓子が出されるが僕はそれよりもスマルト将軍からの話が聞きたくてたまらない。
喉から手が出るほど情報に飢えているのだ。
話を聞くと、スマルト将軍はエッグプラントでは平民軍団の兵士隊たちまとめる立場にいる人らしく、普段はエッグプラントの治安警備を担当している。
さらに話をきくとエッグプラントの軍事力はこの将軍がほぼ握っていた。
これじゃあなおさら平民軍団長カウスリップ様の出番は無いだろう。
そういえば、プラチナ帝国では治安警備は帝都警察隊が担当していたし、今は無きブルー王国でも王都警備隊が治安警備をしていた。
しかしここでは軍が治安警備を担当するということに軽い驚きがあった。
それはともかく、平常時は平民軍団長カウスリップ様に何の権限もないのに、いざ戦争がおきると平民軍団長の名で各都市から徴兵され、そのままカウスリップ様が指揮をとるらしいのだ。
表の顔はカウスリップ様になるが裏の実務はスマルト将軍が一手に引き受ける。
スマルト将軍は表にでることが少ないようだ。わざとかな?
そのためエッグプラントの平民軍団の中ではカウスリップ様の顔はある程度知られている。
部屋の中でスマルト将軍から話される内容を僕は黙って聞いていたが、あまりの平民軍団長カウスリップ様への扱いに再度、怒りを覚えた。
戦争は兵士がいないとできないが、徴兵されたからと言って戦争に勝てるわけではない。
それこそ日ごろから兵士と信頼関係を築く必要がある。
そんな当たり前のこともさせずに戦争を前にして指揮権だけ渡すというやり方は逆に失敗させることを狙っているとしか思えない。
いままでカウスリップ様が失脚しなかったのはカウスリップ様の軍事的才能のためだろう。
そういう意味ではかなりの統率力と将器を持っていると言える。
つい最近も宗主国であるシルバー王国と戦争を起こしたが限りなく引き分けに近い戦いをしたと言う。
これも平民軍団長カウスリップ様の実力だ。
カウスリップ様の失敗を願っている者にとってはずいぶん腹が立つことだろう。
なんせ軍を率いて負けたためしがないのだから。
しかし、カウスリップ様の立場は非常に不安定だ。
彼は平民軍団長と言う肩書ではなくその実力だけでかろうじてその地位を維持しているに過ぎない。
僕はスマルト将軍の話を聞きながらエッグプラントの状況を整理していくのであった。
「わしは長くエッグプラントで将軍と言う立場にいた。理解できたと思うがこのエッグプラントは王城にも引けを取らないぐらい陰謀うずまく場所なのじゃ」
「わしもこの地位を維持するためには将軍としての能力以外の力も必要になる」
「わしは他国では知略のスマルトと呼ばれているらしい。ふむ、知略に優れていると思われている理由はわしが事前に情報を集め対策をしっかり立てるからじゃろう」
「じゃから、お主のことも調べさせてもらった。お主は年若いにもかかわらず大変な軍功をたてているみたいじゃな」
「ズバリ言うと、お主。かつてコーラル王国のクロッカス将軍とクラウド王国のライラック将軍を討ち取ったであろう?」
それは事実だ。
だけど今、そのことを事実として認めたほうが良いのか判断がつかない。
そしてそれ以上にここまで調べ上げた知略のスマルトの情報力に驚いた。
だけど、僕は後ろめたいことをしたわけではない。
堂々とすればいいだろう。
「・・・・・はい、僕一人の力ではありませんが、かつてクロッカス将軍とライラック将軍を破ったことはあります」
このことを知っているのは僕の家族以外では、目の前に座るスマルト将軍だけだ。
将軍は僕の返答を聞いて目を大きく見開き、
「おお・・・」
と漏らすのみだった。
「勘違いしないでほしいが、わしは何も責めているわけでもないしその事実を他へ言いふらす気もない。ただ、その2名はわしとともにシルバー王国の傘下のなかでは指折りの存在であった」
「だからその2人が討たれたと聞いたとき、だれが討ったのか探りたくなっただけだ。まさか2人とも同じ人間に討たれたとは思わなかったが」
(しかし、この者の影に隠れて2人の将軍を討った本当の実力者がいる。その人物だけはどうしても調査できなかったが)
スマルト将軍は心の中でつぶやくが、その隠れた人物こそがシルバー王国の守護神ともいえる大将軍シェーラであることは知る由も無かった。
僕は考えた。
今の立場はカウスリップ様の側近、部下みたいなものだ。
ならカウスリップ様の立場が良くなるように動くべきだ。
そのためには目の前にいる人物をこちら側に引き入れることを考えたほうがいい。
だけど僕はどうすればそんなことができるか全く思いつかない。
だから誠意を見せることにした。
僕は座っているソファを下りてゆっくりと頭をさげる。
「スマルト将軍。過去の経歴は僕には関係ありません。ですが、こんな僕に興味を持ってもらえるならどうかお願いです。平民軍団長カウスリップ様のお力になってください」
側で立っていたホーネットもびっくりしていたが慌てて僕と同じように地面に座り頭を下げた。
従者として僕の気持ちに寄り添ってくれたのだ。
ホーネットもそうだが僕の家族同然のメイドはこういうところが有難く感じる。
何も言わなくても僕の気持ちが落ち着くことや僕のやっていることを応援してくれるのだ。
本当に僕は家族同然のメイドに恵まれた。
そんな2人を見てスマルト将軍は目を細めながら、
「・・・・・まず、顔をあげよ。そして土下座をやめて座りなおしてくれ」
「もともと、お詫びのつもりでこの屋敷へ招いたのだ。客に土下座をさせたことになる」
そして僕のほうをじっと見ながら
「正直、驚いた。クロッカスとライラックを討った男をこの目で見たいと思ったが、他人のために平然と土下座をできる人物とは思わなかったからな」




