第5話
「あいにく俺はお飾りだ。なんの権限もないぞ。そしてなんかあれば責任を取らされる。そういう立場だ。「いけにえ将軍」なんだよ」
「なんなら今日食べるものさえない。毎日狩りをして食料を確保しているんだ。当然、従者もいないし、護衛もいない」
「収入もないんだ。王国から出る俺の給料は俺の実家がすべて取っているからな。エッグプラントから?エッグプラントは俺を養う義務なんてない」
「ここにきて分かったことだが、エッグプラントが俺に期待していることは王国との窓口になることさ。仮にも男爵家の一員、貴族だからな」
「いままでの軍団長たちは貴族といっても伯爵家や侯爵家がついていたらしい。なので家の援助があったそうだ。それに・・・・・」
「各都市が抱えている軍団の維持費を取り上げて自分のものにしていたそうだ。本来なれ平民軍団長が自由に裁量するものだと言って」
「実際そのとおりだし、ずっとそうしてきたらしいが、俺にはそれが正しいことかどうかわからなくなってな。俺はそういうことはしていないんだ」
「で気づけばアパート暮らしさ。だからわずかにいた側近や見習いたちもいなくなったってわけさ。ははは」
僕はそれをきいてこんなのおかしいと思った。
いや怒りを覚えた。
それはコパー都市国家の国王に対してもだし、このエッグプラントに対してもだ。
少なくともこの人は兵を率いてシルバー王国軍との戦いに赴いたのだ。
それに対する報酬すらないとは。
僕はかつての自分と重なったのかわからないが、気付くと側近を申し出ていた。
「なら僕があなたの、平民軍団長閣下の側近になります。いえ、側近としてお仕えすることを許してください」
「こんなのはおかしいと思います。だから、僕があなたの身の回りを整えます。とりあえず護衛はいいとして食事ですね。食事すらないなんてありえない。エッグプラントの扱いもひどいと思います!!」
僕の言葉を聞いたホーネットとガーネットはその場を一礼しすぐに外へでた。
きっと食事の準備をしてくれるのだろう。
平民軍団長カウスリップ様は
「ぷっはははは。そんなことを言ってくれたのはお前が初めてだよ。ふぅ。でもありがとな。世話になるんだ。改めて名を名乗ろう」
「俺、いや私はコパー都市国家平民軍団長の任を預かるカウスリップ・スノーフレークという。側近として君を認めよう。君の名は?」
「僕はグリーン。平民です。側近を認めていただいてありがとうございます。精一杯がんばります。よろしくお願いします」
僕たちはお互い名乗りあった。
振り返ってみるとギルドで働いていた時、こうして名前を聞かれたことはあっただろうか。
この人はきちんと僕を一人の人間としてみてくれたように思う。
そして僕の名を聞いてくれた。
グリーン。うん、ひさしぶりに名乗った気がする。
・・・・・・普段から使っているはずなのに何故だろう。
ホーネットが帰ってきた。
どうやら、こことは別の屋敷を用意したようだ。
「ここは護衛をするにも不十分でございます。ご主人様が住むにもふさわしくありませんので私のほうで用意させて頂きました。早速ご移動を」
僕とカウスリップ様は言われた通りに用意された屋敷へ向かう。
屋敷は小さかったが集合住宅のワンルームよりははるかに良い。
それに何人かメイドや下働きの男性が屋敷内を走り回っていた。
こちらもこの短時間で雇うことまでしてくれたのだろう。有難いことだ。
「え?どうやって、こんなに早く用意できるんだ。それに使用人まで雇っているし」
とカウスリップ様は困惑気味だ。
僕はそんなカウスリップ様をあえて放置する。だって僕もすごいと思っているから。
しばらくするとメイドが食事のしたくを整えてくれた。
ガーネットが、
「さあ食事ができたようです。まずは腹ごしらえをしませんと良い考えが浮かびませんよ。これからは食事や身の回りについて頭を悩ませる必要はありませんのでね」
「ご主人様。とりあえずここまでの用意をさせていただきました。他に何か必要なものはありませんか?」
僕としてはこれで十分だろうと思ったし、カウスリップ様も首を縦に振っていた。
食事が終わって、カウスリップ様が僕に質問してきた。
「なぜここまでする?それにこの国へ来た目的はなんだ?」
その疑問はもっともだよね。
僕だってここまでする気は無かったし。こんなことするために来たわけじゃないし。
でも・・・・
「最初はこの国に興味があってきました。そしてウワサに名高いあなたに会えるなら会って話をしたいと思っただけです」
「ですが事情を聴いて、この状況はあまりにもひどすぎると思いました。理不尽な目に合って耐えている人を助けたい。それが理由です。だめですか?」
僕の真剣な声にカウスリップ様はじっと僕の目を見つめている。
「・・・・・憐れみ、ではなさそうだ」
「悪い。ここまでしてくれた人に対する態度ではなかったな」
その晩。
僕の部屋にて、ホーネットとガーネットが僕の身体をマッサージしてくれていた。
気持ちいい。
今日は衝撃的なことが多すぎて身体が凝ったようだ。
2人のマッサージはとても気分が良い。
「ねぇ。これで良かったかな。勢いに任せてカウスリップ様に会っちゃったし、感情に任せて側近にまでなっちゃった」
僕は申し訳なさそうに言うが、ホーネットは
「とんでもございません。さすがは輝かしきご主人様だと感服していたところでございます」
「ご主人様。ご主人様の目的である調査をしようと思えば、最善なのはこのカウスリップ様のお側にいることだと思います」
「それを計算ではなく直感で行動するだなんて、ご主人様は天才と言ってもいいです!!」
そう言ってホーネットは僕の行動を称賛してくれる。全肯定だ。
「え、そ、そうかな。えへへ。ちょっと自信なかったんだ」
「そして、ご主人様。平民軍団長の役職の方をここまで冷遇するのはエッグプラントが本心では平民軍団長を恐れている証拠だと推察いたします」
「平民軍団長には権限がありません。権力を持たせていないのです。ですが、それ以外はお持ちなんですよ。お分かりですか?」
「それ以外とは、形骸化していますが平民軍団長という役職と、軍を率いて相手を打ち破る将帥として力量のことでございます」
「いまは、権限、権力がなくともなにかが起きた時、一時的にでも権限を持つとエッグプラントの主になれるだけの可能性を秘めているのでございます」
「きっとそれを恐れているのでしょう」
僕はホーネットが言っていることをゆっくり咀嚼して考えてみた。
なるほど。そうだ。
カウスリップ様は権限以外はすべて持っているんだ。
とくに将帥としての力量は歴代軍団長のなかでも一番じゃないか。
だから、エッグプラントは恐れているし、目障りなんだ。
それで冷遇している?
そういえば、なんでカウスリップ様はこんな扱いを受けてまでこの役職とエッグプラントにしがみついているんだろう。
怒って辞めてしまってもいいぐらいの扱いをうけているのにもかかわらず。
僕の疑問を2人に聞いてみると、ガーネットが
「さすがはご主人様。良いところに気づかれました。自分には無い視点でございます」
とガーネットが手放しで誉めてくれる。
それならば、早速明日、聞いてみよう。
教えてくれるかどうかわからないけど。




