ショートエピソード 男の夢
「失敗した」
後悔の言葉がこぼれる。
どうやら僕はものすごい魔法薬を所持していると思われている。
ものすごいかはおいといて気の毒に思った僕が手元にあった魔法薬をわたしたところ効き目があったのでその人が僕からもらったと吹聴してしまったようだ。
おかげで僕は知らない人からもその魔法薬を売ってくれと言われるようになってしまった。
・・・・・・・本当に失敗した。
せめて誰にも言わないでとくぎを刺しておくべきだった。
ついには、大手の商会までもが僕にその魔法薬を売るよう接触してきたのだ。
どうやら僕が渡したその魔法薬は名高い錬金術師でもいまだ成功したことがない、ある意味前人未到のレベルの効果を持つらしい。
その魔法薬とは、毛生え薬。
ハゲを治す薬だ。
この魔法薬はハゲに悩む男性なら喉から手が出るほど欲する薬なのだ。
一から説明しよう。
いまから1か月前、ギルドの依頼の帰りで橋からボーっと川をみている中年の男性に出くわした。
その男性の様子があまりにもおかしかったので声をかけると、その中年男性は急に泣き出した。
困り果てた僕は、静かなところへ移動し話を聞いてあげることにした。
男性の名はデュランタという。
平民で小さな商会を営んでいるそうだ。
デュランタさんはこれまで異性にもてたことがなかった。
なので早々に結婚をあきらめ商会に精をだしようやく裕福といえるほどの資産をもつことができた。
すると若い女性から結婚のアプローチが来たんだそうだ。
お金目当てでもいい。
とにかくうれしかったらしい。
ところが女性とランチをする際、かぶっていた帽子をその女性の前でとると、その生え際を見て一気に幻滅されたそうだ。
女性はデュランタさんの働く姿に魅力を感じ頼りがいのある姿に惚れたそうだが、どうしてもハゲは嫌らしい。
もう死んでしまいたいと言うことを涙ながらにデュランタさんから言われてしまったのだ。
困った僕はどうしたものかと悩んでいると、隣にいたエクレアが、
「親愛なるご主人様。ご主人様が悩まれるのでしたらこれを渡してみてくださいませ」
このときエクレアが出したものが毛生え薬だったのだ。
デュランタさんにそれをわたすとデュランタさんはすぐに頭にかけた。
すると、翌日から少しずつ毛が生えてきたというのだ。
「死滅した毛根の復活キターーーーーーーー!!!」
1週間もするとふさふさの髪の毛になり無事に若い女性と結婚できたらしい。
デュランタさんは喜びのあまりその魔法薬と自分と彼女の馴れ初めを周囲にいいまくったとか。
とくにハゲ仲間に・・・・・・・。
気持ちはわからなくもないけど。
ということで現在ハゲ・・・・・ではなく、頭部がさみしい男性たちから追い回されている。
商業ギルドへ行くとギルド長が僕を見るなり、
「ちょっとこーーーい!!!」
と大声で呼ばれるハメになった。
ギルド長の頭はふさふさだが、
「おい!!毛生え薬のことは本当なのか。昨日からずっとギルドに貴族や商会の連中が毛生え薬のうわさをきいたけどといってひっきりなしに来るぞ」
ギルド長に睨まれながら愚痴を言われる。
するとギルド長のとなりにいた白いローブを着た男性が、
「あなた、毛生え薬などと偽りをいって帝都を騒がせた罪は重いですぞ!!」
「毛生え薬はわれわれ錬金術師が300年かけても完成の目をみない男性の究極の夢の一つ!!」
「そんなものをあなたのような平民で、ただの商業人が作れるわけない!」
「おおかた人のいい男性をだましてお金をとったんでしょう。いますぐお金を返し、ギルド長に謝罪しなさい」
そう言って大変な剣幕で怒ってくる。
僕は正直迷った。
毛生え薬をわたしてしまったためにここまで騒ぎが大きくなったのは事実だ。
あのとき、エクレアは僕が困ったから毛生え薬を用意しただけ。
もし僕が毛生え薬の効果は本当だと言い、それが証明されても今後ますます目立ってしまうだろう。
僕はそのようなことは望んでいない。
ならばこのまま僕が嘘をついたことにして騒ぎを静めたほうがいい。
どうせ僕の評判が下がるだけなんだから。
このあと、僕は毛生え薬などではないと言って謝罪した。
デュランタさんにはほんの出来心で冗談を言ってしまっただけ。
毛が生える薬などない。
デュランタさんはいままでの努力が実って毛が生えてきただけです。
僕はそういって誤魔化すことにした。
ギルド長は渋い顔をして聞いていたが、ペナルティとしてランクをさげEランクとする旨を言い渡された。
それを聞いて錬金術師は僕を見下して愚痴をさんざん言い、罵りの言葉を浴びせてきた。
ひとしきり暴言を吐いて満足したのか錬金術師は帰っていった。
「すまねぇな。おまえのことをかばってやれなくて。だけど、お前もあそこまで受け入れずとも良かったんじゃないのか」
ギルド長は僕が嘘をついていたことを見抜いていた。
「いえ、騒がせたことは反省しています。でもこれで毛生え薬についてのうわさは静まりますよね。僕はそれで充分です」
「でもよぉ、そのぉ、本当におまえの毛生え薬は効果があるのか?」
ギルド長はおそるおそる僕に聞いてきた。
ギルド長もなぜそんなに薬のことが気になるのかなぁ。
見た感じ全然ハゲてないんだけどな。
「いえ、ただの気休めの薬ですよ」
僕はそう言ってばっさり切った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
錬金術師が商業ギルドを出て、お得意様の貴族のもとへ行く。
「これはこれは子爵さま、いまできたての薬をお持ちしました。あんなまがい物の薬ではなく、錬金術300年の歴史のなかでも最も効果のある薬と自負しております」
「さあ、どうぞ」
それを聞いた子爵は薬の瓶のふたをあけ、自分の薄くなった髪にふりかける。
「お前はそういうがな。デュランタはあんな状態から急にふさふさになったんだぞ。どう考えても効果のある薬ではないか」
「いえいえいえ。それについては本人が否定しておりました」
「わたしが商業ギルドへいって本人に問いただした結果なのでございますから間違いありません。それよりも子爵さま。どうですかな。薬の具合は。髪がむずむずしませんか?」
しかし、子爵のうすい髪に変化はない。
「・・・・・・・・・・・」
訪れる静寂。
まずいと感じた錬金術師は「また来ます」と言って逃げるように去っていった。
去っていく後ろ姿を見ながら子爵は、
「はあ、やっぱり私もデュランタに会って、その魔法薬をくれた商業人を探したほうが良いかな」




