ショートエピソード 都市伝説~願いの叶う場所
今日もいい天気だ。
僕はいまギルドで受けた依頼を達成し、家へ帰るところだ。
ちょうど、店や人通りが少なくなるところで懐かしい後ろ姿を見かけた。
エリカさんだ。
以前、プラチナ帝国皇太子宮で雑用の仕事をしたときに一緒に働いた女性文官で、今でも親交がある。
いまは皇太子補佐官のテストをうけて、受かったかどうかという時期だったと思う。
だけど、気のせいか、その後ろ姿からは元気がないように見えた。
「エリカ・・さんですよね。エリカさん。お久しぶりです」
僕は恐る恐るその後ろ姿に向けて声をかけた。
クルっと後ろを振り向いたその人はエリカさんで間違いなかったが、僕の顔をみたとたんふらついて倒れこんだのだ。
事情をきくと、空腹のあまり今にも倒れそうなだけだった。
心配したよ、もー。
なので、近くの店にはいって食事をとらせることにした。
「どうもありがと。忙しすぎて食べる間がなくて。念願の補佐官になれたのはいいけど、激務すぎて食事もとる時間がないし、なんだったらお風呂にも入ってないわ」
「う!」
聞いちゃいけないことを聞いちゃったんじゃないかな。
「あ、で、でももう大丈夫よ。峠は越えたから。すこしは忙しさもマシになるはずだから」
「今だって、やっと休憩できる時間がとれたの。なんだったら今日はもう休んでもいいって言われているぐらいだし。でも空腹で限界だったのよねぇ」
アハハとエリカさんは乾いた笑いをする。
エリカさんはあいかわらずだったが、僕はとても気持ちの良い時間が持てた。
なんだろうこの気持ち。僕はエリカさんをもっと応援したくなっていた。
2日後、僕はふたたび同じ道でエリカさんと出会った。
ところがエリカさんは泣いていた。
僕はあわてて事情を聴くと、エリカさんは涙を流しながら、
「せっかくここまで頑張ってきたのに、もう駄目なの。わたしダメなの」
と言うばかりだった。
道路の真ん中でポロポロ泣いている彼女にこれ以上聞くわけにはいかないので、僕はまた店へ連れて行って事情を聞くことにした。
どうやらエリカさんは皇太子補佐官として職務に携わるなかで皇太子の婚約者にあたる令嬢の不興をかってしまったらしい。
というのも今度、皇太子とその婚約者との結婚式が行われる。
これを取り仕切るのは皇太子補佐官をはじめ皇太子付きの文官たちだ。彼らにとっても一世一代の見せ場といえるだろう。
プラチナ帝国の皇族の慣習では、結婚式では、食事の用意は、女性である皇太子妃の指揮のもとで用意することになっているらしい。
さらに、プラチナ帝国では伝統的に結婚式ではお酒を出さず果実水を出すそうだ。
しかし、元ブルー王国出身であるエリカさんはそのことを知らずお酒を手配するように計画をたてた。
それがいけなかったようだ。
思いつめたような表情をしたエリカさんが、
「あのね。この帝都プラチナムには都市伝説があって、願ったことは何でも叶うと言われている場所があるらしいの」
「平民が高位貴族の意思を覆すなんて本来は不可能だけど、そこでお願いしたことは貴族に関わることであっても願いが叶うらしいの。そうリナリアが言ってたわ」
「わたし、そこへお願いしに行くつもりなの。たとえ可能性が低くてもウワサが嘘でも。わたしができることってそれしかないもの!!」
そんな場所があるの?!
胡散臭いけど。
でも僕はエリカさんについていくことにした。
こんな興奮した状態のエリカさんを一人にしておけないし。
てくてくと歩いて行った先は、なぜか僕の住んでいる邸宅が見えてきた。
あれ?ここ僕の家だよ。
さすがにこれはまちがっているよなぁ。
どうしよう、エリカさんに間違っているって言おうか。
僕はどうエリカさんに切り出そうか悩んでいたが、エリカさんは思いつめた表情をしていてとても間違っていると指摘できる空気ではなかった。
そしてエリカさんはパンパンと手を叩いて玄関から邸宅に向けて拝みだした!!
いや、神社じゃないんだから。
せめて創造神さまに拝むんなら聖教会へいったほうがよっぽど願いが叶うんじゃないか。
僕はその晩、エリカさんのことで考え込みながらリビングにいた。
側にいたイオニアから、
「ご主人様、昼間のエリカさまのことでお悩みですか?」
・・・やっぱり聞いていたんだ。
僕は迷いながらも、
「うん」
と短く返事をした。
「僕にできることって何かないかなぁって。せめてエリカさんの好きなお菓子でも持っていって気分を変えてもらおうかと考えていたんだ」
そこへリビングに控えていたエクレアが、
「それほど悩んでいるのであれば、ご主人様も創造神にお祈りいたしますか?」
いままであまりそういうことはしたことがなかったし、誰もそんなことを言わなかった。
だけど自分のためではなく、他人のためにお祈りすることは素晴らしいことのように思える。
僕はこの世界を創造したと言われる創造神様に対してお祈りをした。
離れたところでイオニアが僕のほうを向きながら、
「誇らしきご主人様の望むままに」
とカーテシーをして、転移魔法で姿を消した。
行き先はプラチナ帝国の皇帝が住まう皇帝宮。さらにその最奥といっていい皇帝陛下の寝室であった。
イオニアは皇帝ローシェンナ・プラチアーナに会いに行ったのだ。
「えええ、だ、大魔導士さま??」
「ええ、ごきげんよう。ローシユ坊や・・・ではなくて皇帝陛下。時間がありませんので、端的に言いますね」
「これからの結婚式で出す飲み物は果実水ではなくお酒も可とします」
「は・・・・・」
「これからの結婚式はお酒も可です!!」
「いいですね!!」
「え?あ、はい、承知・・・・いたしました」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
また、エリカさんに会った。
これで3度目だが今度は笑顔だった。
「ちょっと聞いて!!本当にご利益あったわよ!!!」
と半ば興奮気味で嬉しそうな表情だ。
「皇太子妃殿下がわたしに謝罪をしてくれたの。こんなこと絶対に考えられないわ!!」
「なんでも皇帝陛下から果実水でなくお酒もだすようにというお言葉があったようで皇太子妃殿下があわてて訂正をしにきてくれたのよ」
よかった。エリカさんが笑顔でいる。
僕はその笑顔をみて何故だか胸の内が熱くなるのを不思議に感じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
皇太子ローレル・プラチアーナが父親である皇帝に、
「父上、質問があるのですが」
と問いかけた。
場所は執務室。
ほかには侍従と護衛の魔法騎士しかいない。
かなりプライベートに近い話ができるのでローレルは父親である皇帝陛下に話しかけたのだ。
「なんだ?そなたの結婚式におけるあの飲み物の変更のことか?」
「さようです父上。なぜ急に、結婚式で出す飲み物に伝統ある果実水ではなくお酒をだすように言われたのですか?」
ローレルは不満であったわけではないが、建国以来、厳粛な式の場ではお酒ではなく果実水で祝うのがプラチナ帝国のしきたりであり、大魔導士イオニーア様の決めたことであった。
なのに大魔導士イオニーア様に忠実な父親がこの決め事を曲げたことに不思議であったのだ。
ところが意外な答えが返ってきた。
「その大魔導士イオニーアさまが昨夜、わしの寝室に突然現れてそうお告げになられたのじゃ」
それなら果実水をやめてお酒を出すようにしたのも納得である。
しかし大魔導士イオニーア様の突然のお告げとは珍しい。
建国500年をほこるプラチナ帝国の歴史上でも数えるぐらいである。
なぜそのようなことをお告げになったのか。
皇太子ローレルは、
「そ、そうだったのですね・・・・」
と辛うじて返事をする。
しかし、皇帝も皇太子も知らなかった。
イオニアがなぜ果実水を出すように言ったのか。
それは誇らしきご主人様の前世に当たるホワイトが最期の死の間際に飲んだものだったから。
そのときの悲しさを忘れないために果実水をプラチナ帝国で広めた。
ただそれだけの理由。
皇帝も皇太子も知らなかった。
イオニアがなぜお酒を出すように言ったのか。
それは単に、皇太子補佐官エリカのミスを無いものにするため。
そしてそれを願ったご主人様の願いをかなえるため、ただそれだけ・・・・・・




