ショートエピソード 夜会での給仕
次の仕事が決まった。
なんと、貴族の邸宅で行われる夜会での給仕がどうしても足りないらしくそこへヘルプに行ってほしいとのことだ。
場所は、エンダイブ男爵家。
帝都プラチナムの貴族区に男爵家のタウンハウスがある。
男爵家ぐらいの規模だと夜会するのに仕えている使用人だけでは足りず他所から応援を頼むこともままあるらしい。
それでも寄親の貴族の家に頼むことが多いのだが、今回依頼の対象になったエンダイブ男爵家は長年すすめてきた領地での水路整備の事業がこのたびようやく完成にまでいたり、その報告とお礼を兼ねた夜会を開くという。
あ、寄親ってわかる?
寄親と寄子。
簡単に言うと・・・・何だろ、主従の関係というのがわかりやすいかな。
後ろ楯を得て派閥に与するみたいな。
平民でも商会同士は、この関係をつくることもあるらしいよ。
で、話を戻すと寄親にあたるデルフト侯爵をお招きするということもあり、万全を期して夜会の準備をしているらしい。
他にも有力な商会の商会長も招くので不備があっては面目が丸つぶれになってしまう。
貴族様は面目で生きているからなあと僕は黙って説明を聞いていた。
僕がするのは簡単な給仕。
一応ギルドの看板を背負うので失敗しないでくださいね、とギルドの受付員にクギを刺される。
貴族相手の依頼だから、失敗を心配する気持ちはわかるけどさあ。
もうちょっとこう、労わるような言葉はないのかな。
当日の昼、僕はエンダイブ男爵家に到着し、執事に挨拶をする。
「ギルドの紹介できたものです。今日はよろしくお願いします」
ペコッと頭を下げておく。
「これはこれはお待ちしていました。さっそくですが、給仕をまとめているものに引き合わせましょう。夜会ではこの者の指示に従ってくださいね」
そのまま男爵家の執事に案内され、中年の柔和な笑顔をする男性のもとへ連れていかれた。
この人が今日の夜会を実質取り仕切る人らしい。
執事は主人である男爵様の側についているので、この屋敷の使用人の中で2番目にあたるこの人が裏で取り仕切る。
「今日はよろしくね。ふうむ、ずいぶん若いんだね。あ、いや、馬鹿にしているわけではないんだ。ギルドからは優秀な人を送ると言われていたので、年配の人が来るのかと思っていたんだ」
そういいながら僕に握手を求めてきた。
名前はジャンというらしい。僕も
「いえ、気にしていません。精一杯頑張ります。よろしくお願いします」
と握手を返した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
わしはプラチナ帝国より男爵位をいただいているエンダイブ男爵である。
長年、我が領地内で本格的な水路整備の事業を行ってきたが、このたび無事に工事を終わらせることができた。
これで領地もさらに潤うことであろう。
今夜その祝賀とこれまで我が領地を支えてくれた方々へのお礼を兼ねた夜会を開くことにした。
一番の来賓は何といっても寄親のデルフト侯爵閣下。
デルフト侯爵閣下は大変な人格者であらせられる。
我が領地が水のすくない地質で作物が不足しがちなのを哀れに思い、川から水路をひくということ提案してくださったのだ。
そのための資金も惜しみなく与えてくださり、そのおかげで短期間で完成にまでこぎつけたと言える。
さらには、デルフト侯爵閣下の娘はプラチナ帝国皇太子の婚約者でもある。
つまり、将来の皇妃の外戚でもある家だ。
財力、権力、人格ともう何も言うことは無いほどの家の寄子になれたことに、わしは創造神様に感謝したい。
わしが今夜の夜会に浮かれているその時、信頼する執事が血相を変えてやってきた。
「だ、だ、旦那様、こ、こ、こち、こちら」
「ん?一体どうしたのだ。少し落ち着け。ゆっくり落ち着いて話してくれ。何も慌てることはない。幸せはわしらの元へ来ておるぞ」
「も、申し訳ございません。あまりにも驚いたものですから。旦那様、何も言わず、私とともに玄関までお越し頂けますか」
「む、どうした。変な客でも来たのか?そろそろ夜会も始まるし。なにより、デルフト侯爵様もお越しになる時間であるしな」
「そ、そーーなのですが、きっと私の言うことは信じられないと思うのです」
一体どうしたというのだろう。そんなに変な客が来たのだろうか。
もともとデルフト侯爵様を玄関でお迎えするつもりであったから、このまま玄関へ行くとしようと執事と共に玄関へ向かったのだ。
「・・・・・・・・・・・・は?」
屋敷の玄関にいたのは、いや、いらっしゃったのは、いやいや、お出ましいただいた方は、口にするのも畏れ多いが、
「だ、大魔導士イオニーア・・・・・さま。きょ、今日はようこそ我が家の夜会にお越しいただき、末代までの誉れにござ、ございまっしゅる」
辛うじて挨拶を口にできた自分をほめてやりたい。かんだけど。
いいか、いま、ありのままにおこったことを言うぜ。
執事に連れられたら玄関に大魔導士イオニーア様がいたんだ。
「出迎えご苦労様。突然訪問して失礼とは存じますが、今日の夜会にどうしても参加したくて参りました。なにも気を遣わなくて結構ですよ。ただいるだけですので」
いやいやいやいやいやいや。
いるだけって。気を遣うなって。
そんなの無理ーーーーーーー。
大魔導士イオニーア様は悠然とわしにほほえみを向けているがその笑顔が恐ろしい。
そこへデルフト侯爵の家紋がはいった馬車が玄関に到着した。
デルフト侯爵閣下が我が家に到着したのだ。しかし。
デルフト侯爵も目の前にいる大魔導士イオニーア様にきづき、すぐにひざまづき、臣下の礼をとろうとした。
あ、しまった。わし、ひざまづいて挨拶をするのを忘れていた。
「あなたたち2人とも、そのような礼は要りません。デルフト侯爵、あなたは今日の夜会の来賓ですよ。あなたが一番身分の高い貴族です。いいですね」
「わたしのことはそこらへんにいる貴族の御婦人のように扱いなさいな」
イオニーア様はそう仰せだが、デルフト侯爵もわしも首を横に振る。
そんなわしたちを無視してイオニーア様は邸宅へ入っていった。
しかし、なぜイオニーア様がこんな男爵家ごときの夜会に突然きたのだろう。
そんなわしの疑問を見透かすかのように、デルフト侯爵も、
「なぜだ・・・・。しかし、このことは皇帝陛下に至急報告申し上げなければ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「次はあっちへこの飲み物を持って行ってくれ」
「こっちのテーブルに置いてある皿は至急下げてくれ」
「よっし、おまたせのデザートができたぜ!!持ってってくれ!」
すでに夜会ははじまり、ここの主人による挨拶も終わり、歓談の時間になっている。
テーブルの上にはこの家の料理長自慢の料理がところせましと並んでいた。
僕は、空いたテーブルのお皿を下げたり、注文を受けた飲み物を持って行ったりと大忙し。
でも、給仕も結構楽しいなと思った。
僕ってこういうのに向いているのかも。
そう考えていると、足が床にひっかかり、うわっとつまづいた。
あぶない、と思って目をつぶったが、なにも起きない。
変だなと思いながら目を開けてみると、なにもこぼしていないし、普通に立ったままだった。
「あれ?変だな」
「なにをボケっと突っ立っているんだ。まだまだ仕事はあるんだぞ!」
「あ、はーい。次はどれを持っていくんですか?」
少し離れたところで、イオニアが夜会の会場となる場所の中心で悠然と立っていた。
そして愛するご主人様が夜会の場で失敗をしないか見守っていた。
さきほども考え事をしていたのであろうか、つまづきかけたところを魔力で分からないように助けたところである。
「ご主人様になにごともなくて良かったわ」
イオニアは誰にも聞こえないようつぶやく。
この後、ご主人様の給仕の仕事が終わったところで自分も引き上げようと考えていたところエンダイブ男爵が話しかけてきた。
「あ、あの~、大魔導士イオニーア様。そろそろ夜会はお開きになりますが、今夜はぜひ我が家にお泊りくださいませ」
それを聞いたデルフト侯爵が、エンダイブ男爵の言葉をさえぎるように
「む、それはいかん。大魔導士イオニーア様。お泊りはぜひ我が家へお越しを。すこし離れておりますが、十分なおもてなしができると自負しております」
2人の貴族が言い争いを始めそうだったのでイオニアは、
「いえ、わたしは今夜はこれで。もちろんあなたたちの申し出は気持ちだけ受け取っておきます。それと男爵どの」
「は、はひ!!」
「今日、夜会で働いた使用人たちには十分なお手当を与えるのですよ。とくに給仕には手厚く報いるように。平民といえど、その身分の者たちが尽くしてくれるからこそ貴族は貴族たりえるのです。いいですね」
そう言い残してイオニアはこの屋敷を去った。
デルフト侯爵は、
「さすがは、大魔導士イオニーア様。常に、下々の身分の者にまで心を砕いていらっしゃる。我々も見習いたいものだ」
そう感心していたが、本当は違う。
イオニアはただご主人様が喜ぶことをしたいだけなのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
1週間後。
「次はアンスリウム子爵家での給仕ね。おけー。給仕の仕事もやると意外に面白いもんですね」
僕はギルドで説明をする受付嬢と雑談がてら給仕の良さについて語っていた。
「それは良かったですー。はい、次の人ー」
「・・・・」
もう少し僕に時間を割いてくれてもいいのに。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「だ、旦那様。驚かないで聞いてくださいね。な、な、なんと、我が家に大魔導士イオニーア様。が来たんですよ」
私、アンスリウム子爵は今日の夜会で頭がいっぱいだったところへ信頼する執事がとても驚いた声でわたしにあり得ないことを告げてきた。
大魔導士イオニーア様?が我が家の夜会に出席をされる?
大魔導士イオニーア様は皇帝陛下のパーティぐらいでしかその御姿を拝見することはできないのだ。
それも高位貴族しか挨拶できなかったはずなのに。
子爵家の我が家に、来る?
「それだけではございません。それだけでなく、な、な、な、なんと、シルバー王国の重鎮、大将軍シェーラ様までお越しになっているのでございます!!!!」
私はその場で気を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
もう、シェラもイオニアも心配性なんだから。
特にシェラなんかは僕がまた夜会の給仕に行くと言ったら、今度はわたしも見に行きますねと言ってついてきた。
授業参観じゃないんだから。
だけど、貴族の夜会ってもっと話をしているイメージがあったけどそんなことなかった。
なんだか妙な緊張感があって静かな夜会だったなあ。
まあ、おかげで給仕はやりやすかったけど。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
プラチナ帝国の皇帝ローシェンナ・プラチアーナは、最近の貴族の夜会で起こっている不可解な報告を受けて困惑の色を浮かべていた。
あの大魔導士イオニーア様が高位ではない貴族のそれも夜会に姿を現したという報告がきたのだ。
あの御方はめったに人前に姿を現さない。
にもかかわらず夜会だと!!それも男爵家の?!
最初は世迷い事を言うと思って聞き流したのだが、2度目の報告がきたのでわしも真剣に聞くことにした。
今度は子爵家?!!
しかもその子爵家の夜会には大魔導士イオニーア様だけでなくシルバー王国の重鎮である大将軍シェーラどのまで参加したというではないか!!!
一体プラチナ帝国に何が起きていると言うのか。




