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第3話


馬車の旅は比較的平和だった。


侯爵様とメイザリン様は馬車の中でずっと顔を突き合わせているので僕はどうなることかと思っていたが、意外にもお二人は話が弾んでいた。


外から御者をしながら中の様子をうかがうと、メイザリン様が上手に話を転がしているように思えた。


しかし、侯爵様も顔合わせのときのような険悪は雰囲気ではなかった。


「旦那様は人見知りなもので・・・・・」


ととなりにいる従者のベンさんは小さくつぶやいていた。


まあ、雰囲気が悪くないのであればいいか。


馬車の旅では何度か休憩をとる。


長く馬車に乗っていると壮健な身体であっても大変苦痛に感じる。


なので数時間に1回は休憩をしないと身体がもたない。


その内の1回の休憩時のとき。


僕は馬車の周りで座りやすい場所を見つけてゆっくり休んでいた。


しばらくして、近くにメイザリン様がいないことに僕は気づいた。


どこへ行ったんだろうと思い、近くを探すと向こうのほうでかすかな声が聞こえてきた。


恐る恐る近づいてみると、メイザリン様が馬車から離れたところで空に向かって何かをつぶやいていた。


「創造神さまぁ、今日もぉ無事に過ごすことができました。そのご加護にぃ感謝いたします」


そう言って祈りをささげていた。


祈りが終わったのだろう。


僕の気配に気づいたメイザリン様は僕のほうを振り向いた。


「むぅ、すまん、休憩がぁおわったのか?」


「いやあ、そんなことないです。メイザリン様がいないので念のために確認しようと思って探しただけです。そしたら声が聞こえたので・・・・」


びっくりした。


メイザリン様は敬虔な創造神様の信仰者のようだ。聖教会でいうところの創造神実在派だ。


聖教会とは、この世界をつくった創造神様を崇める教会のことだ。


勿論この世界に住む種族は全員、創造神が僕たちを作ってくれた偉大な方だということは知っているが、とくに何かをしないといけないわけではない。


ただ聖教会があり、そこで創造神さまを祀っているにすぎない。


似たような教会で有名なのは、エリューシオン教会という聖女を管理する教会だ。


ここは聖処女神エリューシオン様を祀っており、この女神さまに認められると聖女になれる。


そういう意味ではエリューシオン教会は聖教会よりも人々や国から崇敬の念をあつめているといえる。


だけど、創造神様を祀る教会、聖教会ではとくになにもない。


だから目の前にいるメイザリン様が空に向かって創造神様にお祈りをしているほうが珍しいのだ。


これは人族と魔族の文化の違いなのだろうか。


僕とメイザリン様は馬車の近くまで戻っていった。


クレマチス侯爵の元へ戻ると、侯爵様はなぜかご機嫌だった。


その理由は、馬車が止まるたび侯爵様は近くを探索していたのだが、この近くでは錬金術で使う素材の薬草がごろごろ落ちているらしいからだった。


よくわからないけど、薬師だけでなく錬金術師も薬草を素材として扱うようだ。


たくさんの素材を採集できたクレマチス侯爵様は大変機嫌がよかった。


機嫌がいいと饒舌になるらしい侯爵様から貴重な錬金術の話が聞けた。


それは錬金術師の歴史ともいうべき内容だった。


むかし、数百年前ぐらいらしいが、錬金術で魔道具の効果を高めて魔道具の地位を今よりもっと上げようと考えた集団がいたそうだ。


その集団は錬金術師と魔道具を作る専門の魔導士が中心だったらしい。


その集団が考えた方法とは通常の魔道具に錬金術で付与効果を高めたうえに、さらにそこへ付与魔法をかけることで従来の魔道具の効果を上回るものを作成するという試みだった。


その魔道具を作るきっかけになったのは神のごとき力をもつ魔神具の存在があったらしい。


人の手で神のごとき力をもつための方法の一つとして試されたことだと言う。


しかし、結局は作れなかったそうだ。


どうしても錬金術と付与魔法はお互いに反発しあい思った成果を得ることはなく、その試みは失敗に終わったそうだ。


「しかし、今でもその考えを受け継ぎ魔神具を目指して強力な魔道具を作ろうとしている者たちがこの中央平原に存在していると聞いたことがある」


「あくまでウワサじゃよ。ウワサ。ふふふ。さて、そろそろ休憩を終わりにして馬車を進めてもらおうか。今日はもう少し進めてもらいたいのでな」


そう言ってクレマチス侯爵様は話を切り上げ、馬車に乗り込んだ。


馬車に乗り込んでからも僕は考え込んでいた。


その様子が気になったのだろうか。


隣のベンさんが声をかけてくれた。


「どうしたんです?ずっと浮かない顔をして。何か考え事ですか」


「うん・・・・。さきほどのクレマチス侯爵様のお話を聞いて気付いたことがあるんだ」


「なぜ、そんなに強力な魔道具を作ろうとするんだろう?」


「それも面白そうだけど、自分の魔力を強化したり魔力制御の訓練をしたほうが、魔法をあつかえるようになるんだからそっちの方が面白そうじゃないかなと思って」


僕は思ったことをベンさんに聞いてみた。


ベンさんは驚いた顔をして僕のほうを見ていた。


「君は少年だけど、きっと魔法の素質があるんだねぇ。ふふ。うらやましい」


「君の言う通りさ。自分の魔力を鍛えたほうが楽しいし、自分で魔法を使えたほうがいいに決まっている。だけどね。多くの人族はそれができないんだよ」


「魔法や魔力、魔力制御は一部の人族しか使えない。素質が必要なんだ。君は素質があるんだろう。そして魔法に選ばれなかった人族。その人たちが自分たちも魔法を使うために考えたのが魔道具なんだろうね」


「私が聞いた話ではね、魔道具は人族のなかだけの技術らしいよ。ほかの種族は魔力が人族よりあるから魔道具に頼らなくてもいいのかもしれないねぇ」

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