第7話
今日が最後の日になった。
僕はいつものように第13文官室へ向かう。
部屋の中に入ると文官長がいてエリカさんたちと話をしていた。
「なので、これからすぐに皇太子宮の大会議室のほうへ向かってください。資料はさきほどいったとおり、ここにあります。健闘を祈ります」
そう言って文官長は出て行った。
僕は何のことだろうと思っていると、エリカさんが真っ青な顔をして
「いまからわたしたちで会議を取り仕切ることになったわ」
何のこと分からない僕に、リナリアさんが説明してくれた。
「文官長様が朝いきなりやってきて、今日は事務処理ではなく2時間後に行われる会議の司会進行の補助、つまり、皇太子殿下の問答集を作成しなさいと言われたの」
と震える声で言った。
「こんなことを言われたのは初めてだけど、補佐官を目指しているんだもの。頑張るわ!!」
「これから、大会議室へいって会議の準備をした後、そのままわたしたちは資料の読み込みをして想定される受け答えのシミュレーションをするわよ!」
「早速、資料を手分けして持っていきましょう!」
その後、なんとか業務を終えることができた。
皇太子殿下からはとてもよくできた問答集だったと評価をいただいたようでエリカさんは喜んでいた。
後で聞くと、これも皇太子補佐官のテストの一環だったらしい。
テストは筆記試験だけではなく、あらゆる場面を想定して行われるという。
エリカさんは皇太子補佐官に一歩でも近づけたのだろうか。
僕はギルドの契約で今日でこの皇太子宮の仕事を終える。
名残惜しいけど、仕方がない。
かげながらこっそり試験の応援をしよう。
このあとの話は全部イオニアから聞いた話だ。
今回の皇太子補佐官の選抜は1枠だが、その候補者の筆頭にはある貴族の子息が有力視されていた。
その貴族の子息は、皇太子の側近の家の寄り子の関係にある家なので、その子息は家の力で補佐官になれるとおもっていた。
補佐官というものは皇太子の名前で行われる事業の処理を担当する。
もちろん主は皇太子だが、細かい部分を担当する。
また、プラチナ帝国の全経済力を10としたら、4公爵家が1ずつ持ち、残り6を皇帝陛下が握る構図になっている。
そのため、皇帝陛下の権力はものすごく強い。
そのため皇太子の身分でも、侯爵家以下の貴族とは比べ物にならないほどの権力を持つ。
それゆえ皇太子妃は侯爵以下から選ぶようにしている。そうでないと権力に偏りがでるからだそうだ。
いまの皇太子妃候補は名門デルフト侯爵家から迎えている。
サーラ・デルフト嬢というそうだ。
また、権力を求める人間は皇太子に接触しようとする。
それを選別し排除するのも側近や補佐官の役割だ。
今回、補佐官1人決めるにも慎重におこなっているのはそれが理由といっていい。
ところが、その寄り子の貴族の子息は補佐官になれそうにないかもという噂が出ている。
対抗するもう1人のエリカさんがとても優秀だからだそうだ。
このうわさにあせったその寄り子の子息は家の力をつかい、エリカさんを妨害しようとする動きがあるとイオニアは言ったのだ。
その妨害というのは悪意あるウワサを撒くと言う手段である。
なんでも、
「エリカ嬢は試験の場で不正をしたらしい」
とか、
「エリカ嬢は夜な夜な男をあさっている。補佐官になったら情報を男たちに漏らすのでは」
とか、ありもしないウワサを皇太子宮に流したそうだ。
他には、
「補助業務で来たギルドの男(僕のこと)はしょっちゅうさぼっていた。それを黙認しているのがあのエリカという文官なので監督能力がない」
などもある。
そして先ほど行われた会議に対しても早速ウワサが出回っていた。
「先ほどの会議を2人で取り仕切って成功したのは裏で身体で接待していたから。女の武器をつかい風紀を乱したけしからん者である」
という内容だ。
いや、ウワサが広がるの早すぎでしょ。
そしてとうとうローレル・プラチアーナ皇太子とその婚約者で将来の皇太子妃であるサーラ・デルフト侯爵令嬢の2人がそろって怒りを示した。
「いいかげんにしろ!!!ありもしないウワサばかり流して!!」
「そうですわよ。とくに女性だからと女の武器、女の武器って、他の女性も侮辱していますわよ!!」
ということを例の貴族の子息に告げたとか。
その怒りの余波は側近にも及んだ。
「たしかロベリア、きみのところの家の寄り子の子息だったよね。まさか君も力を貸しているのかい?」
「い、いいえ、ちがいます。わたしはそれに気づいて必死で火消しをつとめたぐらいです。そんな相手を貶めるようなことを勧めるはずがございません」
が、その言葉にローレル皇太子は目を細めて、
「皇太子宮では、皇帝の影がみている。きみがウワサをばらまいていると言う証拠もあるんだ」
「君は側近どころか貴族としても最低だ!!さっさと皇太子宮から出ていけ!」
ローレル皇太子は激怒して側近であったロベリアをもクビにした。
こうして、補佐官候補であった貴族の子息と側近であったロベリア・フェンネル侯爵子息の2人は追放された。
これで補佐官候補はエリカ1人にしぼられた。
そんなことは知らない僕とエリカさんとリナリアさんは、先ほど取り仕切った会議がうまくいったと文官長様からお誉めの言葉をいただいたことでホッとしていた。
「ほんと、よかったわー。会議がうまくいって」
「ほんとね。これで姉様も補佐官に選ばれたりしてね」
「ちょっと、やぁめぇてぇよーー。うふふ。そうだといいわね」
とエリカさんもリナリアさんも上機嫌の様子だ。
もう夕方になっているので、そろそろ僕もここを出ないといけなくなってきた。
それを2人もわかっているのだ。わかっていて別れを惜しんでくれている。
「ん、でも、これで終わりだなんていうのも、さびしい・・・・・かもね」
「あら~。姉様がそんなことを言うなんて珍しいわね~」
ここで僕が、
「あ、今日のお弁当も届いたようだよ」
今日はノワールが届けてくれたようだ。
ノワールは聖女として認識されているので、皇太子宮まで入ってこれるのだ。
だからノワールが次に当番のときはここ、第13文官室まで直接持ってきてほしいと伝えてあった。
ノワールが僕を見つけ、
「ご主人様~。お弁当3人分持ってまいりました~」
とにこやかに言うと同時に、エリカさんがノワールを凝視する。
「え・・・・・純情可憐な聖乙女さま?え、なんで、こんなところに?それにお弁当って・・・・・」
実はエリカさんは聖女ノワールの大ファンで、彼女は学園生のころから聖女ノワールのファンクラブに入っていたのだ。
国も家族も身分もなくなり、平民として魔法学園で必死に勉強をしていたエリカさんの心の支えはノワールとそのファンクラブ活動だった。
そのノワールが僕のメイドとして僕に仕えているということを初めて知ったエリカさんは
「なんであんたばっかり!!」
と怒りのビンタをかまそうとするが、その手は寸前で止まった。
代わりに彼女は僕の額を指でチョコンと弾く。
「ふん!これぐらいで許してあげるわ」
すぐさまノワールは僕のおでこをさすりにくる。
「大丈夫ですか、ご主人様」
と心配そうな声。
その様子をみたエリカさんは悔しそうにこちらをにらみつつも、
「・・・色々と世話になったわ。ありがと」
そう言いながら胸元のペンダントをギュっと握りしめた。




