第6話
来月、皇太子補佐官を選抜するための試験が行われるらしい。
皇太子殿下が新しく業務を広げる予定なのでそれに合わせて補佐官を追加するとか。
選抜試験を希望する者はそのことを文官長に申し出るようにとのことだった。
第13文官室からはもちろんエリカさんが申し出た。
いつ行われるかわからない補佐官選抜試験が急に行われることになったのだ。
エリカさんにとっては念願といっていい。このチャンスをものにしたいと思っているはずだ。
各文官室からも何人か選抜試験を希望する者がいるし、他の部署からも希望者がいるようだ。
意外なのはリナリアさんだ。
能力はあるのでてっきりエリカさんと同様補佐官を目指しているのかと思ったが違うようだ。
「あの子はあの子でわたしとは違う方法を考えているのよ」
そうエリカさんは言っていた。
エリカさんは補佐官になる夢を僕に言ってから距離が縮まったように感じる。
後でリナリアさんが、
「私のこと、高位貴族やイケメン騎士さまにすり寄る尻軽女だと思っていたでしょう?」
「そう思われても仕方ない行動をとっているけど、本当はね。違うの」
「エリカ姉様と違う方法でやりたいことがあるの。調べたいものがあるといっていいかしら」
「私の国。実は滅んじゃったの。隣国に攻められて滅んだんだ。だからその時の記録を探しているのよ。どうしても知りたいことがあるから。だから高位貴族や近衛騎士様と仲良くなればその縁で調べられるかもと思って」
「ほら。わたし、男性に好かれやすそうな外見しているでしょ」
そう言ってリナリアさんは片目をウインクして腰をくねらせてポーズをとった。
まあ確かに・・・・。
でもそうかリナリアさんとエリカさんの目的はブルー王国の記録と探し物か。
何を探しているのかわからないけど、力になれたらいいな。
選抜試験は1か月後だが、僕の依頼の期限は明日で終わりだ。
だから、こうして3人で過ごせるのもあとわずかだ。
僕はいつものようにメイドの一人、(今日はシェラだった)が持ってきたお弁当を裏口で受け取り、夕飯を文官室でとっていた。
夕食後、僕は思い切って、
「あ、あの、これ、もしよかったら、使ってくれないか。」
と、かけていたペンダントを外してエリカさんの前に見せた。
このペンダントはかつて剣聖ヘーゼル・ブラウニアと戦う際、エクレアからもらったたものだ。
(作者に代わってエクレアからの一言メモ)◇◇◇◇◇◇◇◇◇
詳しくはシリーズ第1作目の第4部をごらんください。親愛なるご主人様の大活躍をみることができますよ!!
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このペンダントにはなんと反射神経と動体視力を100倍にまで増やすという付与効果がついている。
そしてさらに、疲労回復や眼精疲労、肩こりを癒す効果、つまり体力回復効果を付与してもらってあるのだ。
実は、事務仕事がつらくて僕はこの皇太子宮に来た時からずっとこの付与効果をつけたペンダントをつかっていた。
おかげで事務仕事は辛くなくなった。
だからエリカさんに渡したいと思ったのだ。
エリカさんの事情を知り、エリカさんの目標である補佐官の試験に受かるために僕になにかできることがあるかと考えた時、持っている魔道具のペンダントを貸して試験勉強を応援できればと考えたのだ。
「これは僕のお守りなんだ。貸してあげる。これを付けていればほとんど疲れないよ!試験勉強を頑張って補佐官の選抜試験に合格しなよ!」
そう言って僕はペンダントを渡した。
「あ、それともう一つ。僕からもう1個贈り物があるんだ。これはエリカさんと、そしてリナリアさんにもだけど・・・」
「わたしにも?」
「うん・・・・・・・まゆつばな話かもしれないけど、僕の話を信じてほしい」
二人の視線が僕に注がれる。
「僕の知り合いで死んだ人をしばらくの間だけこの現界に呼び寄せることができる人がいるんだ」
「もしエリカさんが良ければだけど・・・・・・死んでしまった人の中でもう一度会って話をしたいと言う人がいたら、会って話をすることができるんだけど、どうかな?」
そう言って僕は、2人の様子をうかがった。
なぜ、こんなことを僕が言い出したかというと、エクレアからの話の中でエリカさんは死んだ父親へ伝えたかったことがあり、それができなかったことを後悔しているのだとか。
なので、父親と話すことでいまの自分を見つめなおすきっかけが得られるでしょうと言われたのだ。
でも、こんな突拍子もない話信じてもらえないかもしれない。でも何かしてあげたい。そう思ってエリカさんに聞いてみたのだ。
あと、死んだ人を呼び寄せることができるのはイオニア。
従者のイオニアは死者を呼び寄せることができるらしい。
無茶苦茶すごいことのような気がするがまあ僕のメイドたちはみんなすごいのだろう。
そこはあまり深く考えないようにしている。
少しの沈黙のあと、
「その話、本当?本当なら、死んだ父に会って話をしてみたいの。でもそんなことが可能だなんて伝説に聞く大賢者様ぐらいなものよ。本当にできるの?」
「うん。できると思う。今の時間帯なら星の巡りもちょうどいいらしいし」
そう言ってイオニアに可能か確認する。イオニアは「大丈夫です」と笑顔で応える。
「可能みたいだね。この部屋に呼び出してもらうから、僕は外すけど。心の準備はいいかな?」
そう言って、エリカさんがうなずくのを確認して部屋を出た。
イオニアがOKの合図をだす。
今、部屋の中ではエリカさんの父親、滅亡したブルー王国のブーゲンビリア公爵第一大臣が呼び出されているはずだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「え、本当にお父様?お父様、お父様、お会いしたかった・・・・・うわぁーん!!」
「エリカ・・・・・・エリカなのか?元気だったか?」
「わしは幽界、あの世を管理する神、魔性理神様のお許しを得て、この現界に出てくることを許されたのだ」
「わしの力不足のためにおまえとリナリア嬢に苦労をかけてしまい、本当にすまなかった」
「おまえが気にかけていることは何となくだが、わかっているつもりだ。だけどな。もうそんなことを気にする必要はないんだ。できるなら、わしはおまえに幸せに過ごしてほしいと願っているのだ」
「一人の娘をもつ父親としてはずっとそう願っていた」
「もう貴族の誇りにこだわらなくていい。そんなもののためにわしらは有為な人材を追放してしまったのだから」
魂だけの存在になっているブーゲンビリア公爵の言葉を聞き、エリカは泣き、リナリアはじっとブーゲンビリア公爵を見つめていた。
「お父様、お父様・・・・・う、う、うぅぅぅ」
「ブーゲンビリア公爵・・・・・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とびらが開きエリカさんが出てきた。
「もういいわよ。終わったわ。・・・・その、本当にありがとう。おかげですっきりした」
「これで何の迷いもなく補佐官の選抜試験に頑張れそうだわ」
エリカさんは少し明るい表情をしている。
そして僕に、
「だまっていたけど、私は今は亡きブルー王国の大臣の娘なの。でも今は何の力もないただの平民よ」
「今私にあるのは少しばかりの知識とブルー王国貴族としての誇りだけ。だけど、たとえ平民に落とされようとも、私のこの信念だけは誰にも邪魔させないわ」
そう言い終えた後のエリカさんは憑き物がとれたように清々しい表情だった。
僕にはそんなエリカさんがとても魅力的にみえた。




