第5話
昼の休憩のときだった。
雑談をしながら昼ごはんを食べていると、エリカさんが、
「わたしね、どうしても皇太子殿下の補佐官になりたいのよ」
とポツリとつぶやいた。
いまこの場には僕とエリカさんとリナリアさんの3人しかいない。
リナリアさんは黙って聞いている。たぶん知っていたのだろう。
たしか、皇太子補佐官といえば、文官の中でもエリート中のエリートだ。
そしてこの職はなにより実力が重視されるので平民でもなれるチャンスがあるのだ。
しかも皇太子殿下が皇帝に即位したら補佐官はそのまま新皇帝の補佐官になる事が約束されている。
ちなみに側近と言う立場は有力貴族の子息で男性しかなれない。
そのため皇太子補佐官は、エリカさんが唯一権力に近づくことができる地位だと言っていい。
僕はエリカさんが権力者に近づきたいのかなと思った。
だとすれば普段の行動から考えると少し意外に思えた。
「こんなことを言うと権力を持ちたいように聞こえるわよね」
「でも、そうじゃないの・・・・いえ、そうかもしれないわ。権力がほしいから目指すんだから」
「本当は私には目的があるの。目標と言ってもいいかもしれない。そのためにはプラチナ帝国内で地位がいるの」
エリカさんの考えを初めて聞いた。
その表情は明るいものではなく、決して自分が贅沢をするために権力を持ちたいわけではないことがわかる。
「ごめん。突然こんなこと言って。困ったよね。でも、誰かに聞いてほしくなっちゃって」
「変だな。わたし。昔はこんなんじゃなかったのに。最近、なぜだか、自分の話を君に聞いてほしくなる時があって・・・・」
エリカさんは急に恥ずかしそうにして自分の話をやめた。
僕もどう声をかけていいかわからず、黙ったままでいた。
リナリアさんもずっと無言でいた。
そのあとは、3人とも無言で机に向き合った。
その夜、邸宅に帰ると
「親愛なるご主人様。おかえりなさいませ」
とエクレアが出迎えてくれた。そして、
「こんなことを聞くと野暮かもしれませんが、仕事仲間のエリカ様というかたの事情をお知りになりたいですか?」
と問いかけられたのだ。
優秀なメイドであるエクレアは僕が悩んでいることもお見通しで僕が聞く前に調査済のようだ。
だけど、僕は悩んだ。
他人のデリケートな部分を勝手に知ってしまっていいのかと思ったからだ。
そんな僕の悩みを見透かすかのようにエクレアは、
「ご主人様はお優しくいらっしゃいます。ですが人は自分の秘密を知られたくないと思う反面、だれかに知ってほしいと言う矛盾した感情も持ち合わせているものですよ」
「ご主人様がそのエリカ様というかたをかげながら応援するのであれば、ある程度の事情をお知りになったうえで手助けすれば喜ばれるのではないでしょうか」
「大事なことはご主人様がどうしたいかです。エリカ様に喜んでもらいたいですか。好きになってほしいのですか。それとも、ただ気になっているだけですか」
・・・・・・そうか、僕はエリカさんを気にかけているんだ。
好きになってもらいたい、わけではない。
気になった、だけでもない。
喜んでもらいたい、のかな。
彼女にはいつも笑っいてほしいと思う。
「うん、よし、わかった。決めたよ。エクレア。彼女をかげながら手助けすることにする」
そう僕がいうとエクレアはにっこり笑い、
「承知いたしました、ご主人様。それでは、エリカ様の簡単な情報をお伝えいたしますね」
「まず、エリカ様と妹のリナリア様は本当の姉妹ではありません」
うん、それは知っている。
「そして、2人はかつて滅んだ王国の貴族の令嬢だったようです」
それも聞いた。
「その王国の名はブルー王国。かつてご主人様がその身をかけて守り、追放された国でございます」
え!
「その後、再度コーラル王国に攻められ、ブルー王国は滅んだようです。その際、高位貴族の令嬢だった2人は命からがらプラチナ帝国へ逃げ延びたようです」
「国が亡べば貴族としての地位も保証されなくなります。なので2人は平民として生きてきました。その後魔法学園に入学し卒業して文官として職を得ています」
「エリカ様のほうはブーゲンビリア公爵家のうまれ、ブルー王国第一大臣を務めていた家のようですわ」
「リナリア様のほうはマロ―侯爵、第二大臣の家です」
えええ!
エクレアはいったん話をきった。
なんとあの2人がかつて僕が住んでいたブルー王国の貴族の令嬢たちだったとは。
たしかに所作は平民らしくなかった。
貴族の令嬢でも通用するような振る舞いであったと思う。
エクレアは、
「どちらもブルー王国の中では重職でございますね。となれば、ご主人様がブルー王国を追い出された原因の方と言っても過言ではございません」
「それでもご主人様はエリカ様を応援いたしますか?」
(作者に代わってエクレアからの一言メモ)◇◇◇◇◇◇◇◇◇
かつてご主人様はブルー王国を守るために戦争で相手の将軍を討ち取りました。
しかしその功績を認めてもらえず国を追い出されたのです。
その後、ブルー王国は再度攻め込まれ滅亡しました。詳しくはシリーズ第1作目をご覧ください。
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