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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
難易度はルナティック
35/39

「耐性はレベル4」

「私としたことが・・・!」


銀髪の若い男が、ふらつく足取りで洞窟の中をあるいていた。男の額には、この国では見たことが無い不思議な模様が刻み込まれている。



ドガッ



男が自分の拳で洞窟の壁を殴った。


ちりちりと火の粉が飛び散り、壁には焦げ跡が残る。


「全てが台無しじゃないか!くそっ、これまでの苦労が・・・」


歯ぎしりの音が僅かに聞こえる。かなり苛立っているようだ。


「『すり抜けの魔道具』がなければ、私もどうなっていたか」


男はそう言いながら、懐から小さな丸い物体を取り出した。銀色に輝くその物体は、装飾品にしては少し大きい。


「魔力が無くなったじゃないか。補充しないとね・・・」


男が進んでいく先には、大きな空洞があった。その一角に、一軒家ほどもある大きさの、人工の建造物がある。それは石造りの建物で、屋根はあるが壁はなかった。そのため、建物の中の様子は外から丸見えだ。


その建物の中央に、少し高台になった祭壇のようなものが置かれている。祭壇それは、淡い紫色の光を発していた。おそらく、何らかの魔道具だろう。


そして、その魔道具の上には、一人の人間が手足を鎖に縛られた状態でくくりつけられている。祭壇の端から、彼女の蒼い髪の毛が垂れ下がっているのが見えた。


彼女は顔色が非常に悪く、息も荒い。かなり衰弱しているようだ。


「魔力は十分注入できているね。上出来だ、褒めてあげるよ」


乾いた拍手が洞窟に響く。


男の表情は、冷たいままだ。


「あとは、この魔道具に魔力を補充すれば、君の仕事は終わりだ。ゆっくり休むといいよ」


そういうと、男は魔道具に手をかけた。


「うっ・・・くっ・・・!」


少女が苦痛のうめき声を上げる。


「うーん、魔力の出力がいまひとつのようだねえ。力を抜いてくれないかな」


「ごめんなさい・・・もう、わたしは、無理です・・・」


「何言ってるんだ。まだ君の魔力は残ってる。遠慮はいらないよ。全ての魔力を注ぎ込むんだ」


男が再び魔道具に触れる。


「あああ、ああああっ!」


少女の苦悶の声が響いた。祭壇の光が再び増していく。


「いいよ、いいねえ!」


「あ・・・ああああ・・・」


祭壇の少女の声が次第に小さくなる。彼女の全身が、小刻みに震えているのが分かった。体内の魔力量が極端に少なくなっているのだ。このまま魔力を吸いだし続ければ、彼女は確実に死ぬ。


・・・間に合わないか!?


そのときだった。


突然、男が後ろを振り向いた。


「なにっ!」



ガシャーン!



ガラスが砕けるような音とともに、氷の刃が地面からいくつも生える。男のいた場所は、巨大な氷で完全に覆いつくされた。


「そこまでよ」


現れたのは、水色の髪の少女・・・リンだった。そして、彼女のすぐ後ろにはヒョウがいた。


「・・・これはこれは、ようこそ我が神殿は。魔法使いのお嬢様方」


男はすました顔で彼女を迎える。余裕しゃくしゃくといった様子だ。


「黙りなさい」


リンが氷魔法を連打する。男がそれに炎魔法で応戦した。


見たところ、二人の魔法の腕は互角だ。いや、男のほうは人間相手の戦いに慣れている。その分だけ、男のほうが有利に見えた。


ゲートが使えるリンを相手にして、互角以上に戦うとは。


この男、確かに並の使い手ではない。


「魔力を吸い出す魔道具・・・なぜ、そんなものがここにあるの?」


「驚いたな。貴方あなたはこれを知ってるんだ」


ガシャーン!


「おっと、相変わらず人の話しを聞かないお嬢さんだね」。


男の着地点を狙って、次々と氷の刃が飛来する。男はそれを最小限の動きでかわす。


「その子をお願い」


「了解ッスよ、先輩!」


いつのまにか、ヒョウが祭壇のそばにいた。彼女は祭壇に載せられている蒼い髪の髪の少女を見ると、その碧い瞳を大きく見開いた。


「先輩、まずいッス!魔力が付きかけてるッスよ!」


「例の場所へ運んで」


「でも、先輩は!?」


「私なら大丈夫。連れて行きなさい。手遅れになる前に」


「わ、わかったッス!」


ヒョウは素早く祭壇の鎖を断ち切ると、蒼い髪の少女を抱えた。


「先輩、本当に大丈夫なんスか?さっきは、手ごわい相手だと言ってたっスよね・・・」


「大丈夫よ、シュゲン様に教わった、奥の手があるの」


「・・・!師匠マスター直伝の技っスか。それなら大丈夫っスね!先輩、お気をつけて!」


「早く行きなさい」


リンの横を通り抜けて走り去るヒョウ。


男はその様子を目で追うと、口元に笑みを浮かべて言った。


「行かせて良かったの?二人なら、まだ勝ち目があったかもしれないのに」


「そんな余裕があるのかしら」


氷の嵐が男を襲う。男はそれをたくみに避けつつ、要所要所で火魔法を使って氷の魔法を撃墜する。


「ちょっと待ってよ。私は貴女あなた方と仲良くしたいと思っているんだ。少し話を聞いてもらえないかな」


「なにを今更」


リンは攻撃の手を緩めない。


「失礼だなあ。私は本気だよ?そもそも、私は貴女あなたに恨まれる覚えはないのだけどね」


「子供たちを奴隷として攫い、あの子から魔力を無理に吸い出した。私があなたを憎む理由は、それだけで十分」


「ははは、表面だけを見て、決めつけないで欲しいなあ」


「問答無用」


リンは槍を構えると、男へ向かって大きく振りかぶった。



ドガーン!



槍先から放たれた、巨大な氷の塊が男に激突する。



パラパラパラ・・・



洞窟の壁面が崩れ落ち、周囲には石礫が飛び散った。


「やれやれ、話を聞く気はないようだね。貴女ほどの魔法の使い手を失うのは、実にもったいない」


もうもうと土煙が上がる中から、男の姿が現れた。氷の塊が激突したというのに、男は傷一つ負っていない。


「でも、これも全ては世界の崩壊を防ぐめ。私は涙を飲んで、貴女を処分するよ」


「世界の、崩壊?」


槍を振ろうとするリンの動きが一瞬止まる。


「おや、話を聞いてくれる気になってくれた?」


「ならないわ」


ズガーン


ドガーン


再び氷の塊が音を襲った。


「仕方ないね。貴女あなたとは話すだけ無駄みたいだ。少し予定より早いけど、あれを使おうかな」


そういいながら、男はゆっくりと祭壇へと近づいていく。


「『軽口をたたく時間は終わりだ』」


「何を言って・・・!?」


「さっき貴女あなたが言ってた言葉、そっくりお返ししするよ」


男が祭壇に触れる。すると、突如として祭壇が赤く染まった。


「さあ、来なさい。私の忠実なしもべ。サラマンダー!!」


男は懐から何かを取り出すと、それを地面へと放り投げた。



ゴゴゴゴゴゴ・・・



地響きが始まった。


祭壇の赤い光が、地面の一点へと集まっていく。次の瞬間、地面が真っ二つに割けた。


「なに!?」


裂け目から溶岩が吹き出し、周囲に飛び散る。


リンは氷の盾を張って防ぐ。しかし、溶岩は氷の縦を溶かし、そのままリンを襲う。


「・・っ!!」


大きく跳んで後退するリン。


その彼女の目の前で、溶岩が形をなしていく。そうして溶岩は燃え盛る、巨大なトカゲの姿にへと変化した。



「ギュアアアアアア!!!」


そのトカゲは、耳をつんざくするどい叫び声をあげた。


「さあて、これで僕と仲良くする気になってくれたかな?」


燃えさかる炎を纏った大トカゲの横で、男が不敵な笑みを浮かべている。


「・・・ならないわ」


「そうかい、でも、強がりは今のうちだよ」


男がすっと手を上げる。


「ギュアアアアアア!!!」


トカゲが再び叫ぶ。すると、トカゲの背中から無数の真っ赤な溶岩が噴き出した。そして、溶岩の雨がリンを襲う。


「くっ!」


あまりの量の溶岩に、リンも全ては避けきれなかった。体のすぐ脇を溶岩がかすめる。水色の髪の毛からも煙が上がった。


「最期にもういちど尋ねるよ。僕の話を聞いてくれる気になったかな?」


男は両手を広げたまま、リンを凝視した。しかし、彼女はそれには答えなかった。


彼女は黙ったまま、氷の槍を目の前に高く掲げた。大量のゲートが展開され、膨大な量の魔力が流れ出す。


「これはこれは」


さしもの男も、これには驚いたようだ。


「飲み込まれなさい!」


氷の嵐が吹き荒れた。巨大ないくつもの氷が竜巻のように回転しながら、蜥蜴サラマンダーを包み込む。


見る見るうちに、サラマンダーが大きな氷の塊へと変化した。


・・・やったか?



ガシャーン



しかし、無残にも氷は砕け散った。


もうもうと水蒸気が上がる。


そして、その中からは無傷のままのサラマンダーの姿が現れた。


「無駄だよ。サラマンダーの氷魔法への耐性はレベル4なんだ。人間の氷魔法では、決してこれに傷を付けることはできない」


「レベル4・・・何故、あなたはその言葉を知って?」


リンの目が大きく見開かれる。


しかし、男はそれには答えなかった。ただ、祭壇に再び手を触れただけだった。


次の瞬間、再び地割れがおこり、いたるところから溶岩が噴き出した。それがサラマンダーにすべて吸収され、体の大きさがどんどんと膨らんでいく。


「終わりだ」


男が静かに告げる。


それと同時に、サラマンダーが大きく口を開いた。その魔獣の喉の奥には、青白い炎が見えた。


・・・あれはヤバイ


リンも危険を察したようだ。


何重にも氷の盾を張る。



ゴオオオオオッ!!!



巨大な炎が吐き出された。灼熱の炎が洞窟中に満ち溢れる。


「・・・くっ!」


氷の盾が次々と破壊されていく。


男の表情が歪む。



ガシャーン!



最後の氷の盾が砕かれる。



ゴオオオオオッ!!!



荒れ狂う炎がリンを飲み込んだ。


無残にも解けた氷が、白い蒸気となってあたりを包む。


「仲良くなれなくて、残念だよ。お嬢さん」


男はゆっくりと彼女のいた場所へと歩き出した。


リンの燃え残りを確認しようとでもしただろうか。


しかし、そこで奴は何かに気が付いたようだった。


「・・・誰だ!?」


男の足が止まる。


「待たせたね」


「シュゲン様!」


リンがこちらを振り返る。彼女の美しい水色の髪がたなびいた。


・・・間に合ったか。


僕は遠隔監視魔法のモニターをオフにした。


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