金貨だろうか?
「こいつで最後か」
睡眠ガスが充満する中、僕は紺色のフードをかぶった連中を杭にくくりつける軽作業に従事していた。
念のため、魔法を無力化する護符もはりつけておく。これを付けておけば、魔法を使って逃げることを防ぐことができる。あらゆる魔法を防げるわけじゃないけど、この世界の人間が使う魔法程度なら無効化できるはずだ。
ちなみにこれは、リンに付けられていた魔道具を参考に、僕が真似して作ってみたものだった。あくまで試作品なので、本物と同じ性能はでない。以前、大量に試作したのはいいものの、使い道がなくてどうしようかと思っていたところだった。
「さて、子供たちは・・・と」
僕は馬車隊が引いていた檻に近づく。ひとつの檻に数人ずつの子供が、いくつかの檻にわかれて入れられていた。全員、完全に眠っている。
多分、これがリンたちが言っていた「子供たち」だろう。見慣れた首輪がついているので、この子たちが奴隷だということはすぐにわかった。
「とりあえず、解除しておくか」
僕は首輪の魔法を解除して回る。
この世界での奴隷の扱いについては、実のところ僕はよく知らない。でも、こんな夜中に人里離れた場所を移動するような連中だ。後ろ暗いことをしているのは間違いない。多分、この子たちも無理矢理に奴隷にされたとか、そういう感じなのだろう。
リンとヒョウも怒っていたし、勝手に隷属魔法を解除しても問題ないよね?
「でも、どうしようかな、これ」
全員の魔法の解除が終わると、僕は馬車隊を眺めながら腕を組んだ。
これだけの人数の子供をどうしたらいいのか、僕には見当がつかなかった。
一応、檻のカギを壊しておいた。睡眠ガスの効果が切れたら、自力で逃げ出すこともできるだろう。
とはいえ、ここは帝国との国境が近い、治安の不安定な森の中だ。魔獣も出る。子供たちだけで、無事に人里までたどり着けるとも思えない。
「転送魔法で運ぶか?」
その解決方法が一番手っ取り早いのは間違いない。
でも、どこへ?
まさか、これだけの人数を拠点に全員連れて行くわけにもいかない。
警察にでも引き渡せばいいのだろうけど、この世界にそんな組織があるのだろうか。仮にあったとしても、どこに行けば警察署があるのかも分からない。
僕には、この世界の社会とか仕組みに関する知識がほとんどなかった。もともと、この世界の人間とは極力関わらないように行動してきたので、その手のことに全く興味がなかったのだ。
・・・もうちょっと調査しておくべきだったなぁ
今更そんなことを思ったりした。
テイラー先輩にでも聞けば、どうすればいいか分かりそうなもんだけど。
「あ」
よく考えたら、すぐ近くに王国軍がいるんだった、あの連中に見つけてもらえば、いいようにしてくれるに違いない。
「そうだ」
そのとき僕は、ちょっとしたアイディアを思いついた。
ここで狼煙を上げて、分隊へと戻る。そして僕が狼煙が上がっていることを「発見」して、偵察に行きましょうとか女指揮官に提案したらどうだろう。
こんな国境近くの山の中で、狼煙があがっているのを見つけたら、王国軍としては無視できないはず。きっと、確認しに行くことになる。
・・・あ、でも
話をするのは、テイラー先輩にしようかな。それで、先輩から指揮官に言ってもらったらいいよね。目立つのは嫌だし、あの女指揮官、なんかおっかないし。
そういえば、あの指揮官どこかで見たことがある気がするんだけど、どこで見たっけな?
「気のせいかも」
僕は周囲の森から木を集め、風魔法ですばやく木片にする。その場に積み上げると、火魔法で着火した。火の付きが思いのほか悪く、燃え始めるまでに少し手間取ってしまった。その代わり、遠くからでもよく見える、真っ白い煙が上がり始めた。
「いい感じだ」
適当に作ったにしては、よくできた。
いつのまにか、夜も明け始めた。あと半刻もすれば、分隊の位置からでもこの煙は見えるだろう。あとは、分隊に戻って狼煙を「発見」すればいい。
念のため、檻には魔獣除けの魔法をかけておく。僕が離れたら効果は薄まるけど、分隊が来るまでの時間くらいは稼げるはず。
「よし、戻るか・・・ん?」
風魔法で跳び上がろうとしたその時、僕は不意に違和感を覚えた。
用心深くあたりを見回す。
だが、狼煙の煙以外に、あたりに動く物の気配はない。
・・・なんだ?
僕は、監視魔法を使って周辺を調べ直す。
「一人、逃げた?」
一本だけ、誰も繋がれていない杭があることに気が付いた。急いで走り寄る。
縄の先がぷっつりと切られ、その先に繋がれていたはずの人物の姿はどこにもなかった。
「睡眠ガスが効かなかったのか?」
いや、そんなことはない。
杭につないだときには、確かに全員の意識がなかった。ということは、この人物だけが睡眠ガスの効果から早く回復したということか。
まさか、逃げられるなんて。
・・・油断した。
悪党とはいえ、武装解除された人間を殺すことには、さすがに抵抗があった。だから、捉えるだけにしておいたのだけど、どうやら誤算があったようだ。
魔獣相手なら、睡眠ガスが効いている間に倒してしまう。だから、睡眠ガスの効果時間はほとんど気にしなくていい。だけど、そのせいで睡眠ガスの効果時間を見誤ったかもしれない。
いや、それにしても回復が早すぎる。
それに、魔法を封じる護符も付けていた。だから、魔法は使えなかったはずだ。だというのに、僕に悟られず逃げおおせるなんて。
「リンと戦ってた奴か」
魔法で周囲を確認した結果、その男だけがこの場にいないことが分かった。リンが「油断ならない相手」と言っただけはある。
そんな難敵、このまま放置するわけにはいかない。
すぐに追わねば。
「ん?」
僕は、その男が倒れていた場所に、落ちている物があることに気が付いた。
「巾着袋?」
それは、紐で口を閉じられた袋だった。中に何か入っている。
金貨だろうか?
僕は、袋の中身を地面に出す。
「・・・これは!!」
その袋に入っていたものは、予想とは違う物だった。
しかし、地面に転がる物体を見た僕は、それに目が釘付けになった。
「絶対に捕まえる!!」
急いで転がった「物」を拾い集めると、男の追跡を全力で始めた。




