誰か説明して!
「うおおおっ!」
「やあああっ!」
カキーン!
ズガーン!
夜明け前の森に怒号が響く。
僕はミニマップに遠隔監視魔法、結界魔法に土魔法、隠蔽魔法に探査魔法、あらゆる魔法を駆使して徹底した兵士の支援を行った。
戦闘が始まって、どのくらいたっただろうか。
僕は木陰に魔獣を誘い込み、人目のないところで一撃を加えた。
ギャウウウウン!
ふう、倒したのは何体目だろうか。
寝込みを襲われたにもかかわらず、不思議なくらいに兵士たちの士気が高い。そのこともあって、魔獣討伐は予想よりはマトモに進んでいた。
この調子なら、何とか・・・
「先輩、遅くなって申し訳ないッス」
モニターからヒョウの声が聞こえた。ヒョウとリンが合流したようだ。
しかし、さっきからリンが戦っている相手が気になる。リンが手を抜いている様子は見えない。だというのに、彼女とこれだけの時間、戦闘を続けられるとは。警戒するに値する相手だ。
「うおっと!」
僕はビーストウルフの一撃を、間一髪のところで躱した。
あまりにも同時並行的に魔法を使いすぎて、つい自分の周囲への警戒がおろそかになっていた。
「今、忙しいんだよっ!」
グシャッ!!!
「しまった」
目の前でビーストウルフが砕け散った。
イライラして、つい全力で殴ってしまった。あまりに高速の拳を叩き込んだせいで、ビーストウルフの体は砕け散っただけでなく、摩擦熱で蒸発し、跡形もなく消え去っていた。
僕は周囲を見回す。
・・・誰にも見られていない。
「あぶねー」
兵士たち奮戦もあり、ビーストウルフとの戦闘はどうにか有利に進んでいた。
「む?」
リンたちの様子を監視・・・いや、見守っているモニターに、紫色の触手が映りこむ。
・・・あ、この触手、どっかで見た奴だ。
ぬらぬらと光る触手は、いつ見ても気味が悪い。見ると、触手を出しているのは、さっきリンの魔法でビビッて脂汗をかいていた小男だ。
しかし、こいつはさっき仲間に殺されてたような?
死んだのに動くってことは、アンデットモンスター的な何かになったということだろうか。それとも、死体を操るネクロマンサー的な魔法があるのか?
自分で使うのはアレだけど、敵が使ってくることがあるなら把握しておく必要はありそうだ。
「先輩、こいつ『魔人』っスよ!」
ヒョウの声が、珍しく緊張している。
無理もない。彼女も触手にはトラウマがある・・・と聞いている。
「分かってるわ」
二人が怯んでいる隙に、紺色のフードの男がじりじりと下がっていく。
「それじゃ、またね。魔法使いのお嬢さんたち」
男は柱の影へと身を隠し、カメラの映像から消えた。といっても、リンたちからは消えたように見えただろうけど、遠隔監視魔法のミニマップ上には、男の居場所がしっかり光点として表示されている。
このまま追跡してやれば・・・
「クジキリ、無事か!」
少し離れた場所から、テイラーが僕に声をかけてきた。
「はいっ!無事です!」
僕は慌てて剣を構え直す。
「おめえの後ろは崖だぞ、下がりすぎんな!」
「はい、分かっています!」
くそー。この忙しいときに!!
「魔獣の残りはあと少しだ。だが、あと少しというときが一番危ない。油断して下手うつなよ?」
「先輩こそ、気を付けてください!」
「おう!」
テイラーがにやりと笑って見せる。僕も手を振って応える。
・・・って、後ろ、後ろ!
ガツッ!
テイラーの背後に小さな結界を出す。それと同時に、背後から迫ったビーストウルフの鋭い爪が結界に当たり、大きな音を立てた。
「っと!」
気配に気が付いたテイラーが身をよじる。間髪入れず、ビーストウルフが次の一撃を繰り出した。しかし、今度はテイラーが土壁を出して、たくみに攻撃を躱す。
「くそっ、俺としたことが」
・・・しっかりしてくれよ!
まったく手のかかる先輩だ・・・と、ひと息ついた瞬間のこと。
「あの子たちは大丈夫。シュゲン様を信じなさい」
リンの声が耳に入った。
・・・え、何の話?
「シュゲン様がおっしゃったでしょう?『手に余る相手を深追いするな。後は自分が倒す』と」
・・・僕、そんなこと言ったっけ?
「なんだって、新入り。何か言ったか?」
僕の独り言が聞こえたのか、テイラーが近づいて来ようとする。
来ないでくれ!
今、重要なところなんだから!
「何でもないです!!」
ビーストウルフを追いかけるふりをして、僕はテイラーから全力で離れる。そして、モニターの音声に意識を集中した。
「あの男、ゲートを意識的に使っていた。一筋縄ではいかない相手よ」
・・・なんと、そうだったのか。
あまりにこちらでの戦闘が忙しく、僕もそこまで気が付かなかった。そこそこ強い相手だろうとは思っていたけど、それが本当なら危険な敵かもしれない。
リンと戦っていた男を追尾するように、急いで環境探査装置の設定を変更した。
もしゲートを使える人物なら、マークしておく必要がある。ましてや、それがリンたちに敵対する者であるのなら、できるだけの情報を集めておきたい。
「わたしたちの相手はこいつよ。これを放置するわけにはいかない」
リンの言葉がモニターを通して流れてくる。
「でもッス、子供たちは・・・」
「安心なさい、ヒョウ。シュゲン様の『神の目』は全てをお見通しよ。あの者ごときが、隠しおおせると思っているの?」
「『神の目』・・・そういうことっスね!師匠が見ているなら、大丈夫っス!」
視界の端に、二人が同時に「魔人」へと飛びかかるのが見えた。
・・・えーと
ちっとも事情が分からないんだけど。
・・・誰か説明して!
思わず周囲を見回す。
「やあーーっ!」
「くらええええっ!」
カキーン!
ガシャーン!
暗い森の中に喊声が響く。
そうだった。
今更だけど、魔獣相手に絶賛戦闘中なのだった。一人でいくつものタスクをこなしすぎて、何がメインのタスクなのか、もはや分からなくなりつつあるのだけど・・・
バシバシ!
僕は自分の顔を叩く。
改めて、状況を整理しよう。
ここでの魔獣との戦闘は、どうにかなりそうだ。残りの魔獣も少なくなり、皆の余裕もでてきた。僕が魔法的な支援はしなくても、勝利が見えるところまで来ている。
リンたちも、触手のおっさん相手なら負けはしないだろう。例え危なくなっても、リンなら怪我をする前に離脱するはずだ。ま、その可能性は、万が一にもないとは思うけど。
で、残る問題はリンの言っていた「子供たち」だ。
そもそも、彼女たちはこんな山奥で何をしていたのだろうか?
てっきり、火属性の魔獣を探しに行ったものだと思っていた、
ていうか、『神の目』って何だよ。そんな謎のスキル、僕は持ってないんだけど。
「うーん」
ドガッ!
飛び掛かってきたビーストウルフを、軽く小突いて吹き飛ばす。今度はちゃんと手加減した。ビーストウルフは僕から受けたダメージによろめき、そのまま兵士たちに取り囲まれた。
「おりゃー!」
「くらえー!」
ギャウウウン!!
魔獣の断末魔の声が聞こえる。
「・・・うん、分からん」
僕は考えるのをあきらめた。断片的にモニターを見ていただけなので、いまいちあちらの状況が理解できていない。こうなったら、直接現地に行って確認するほかないだろう。こちらの戦況も落ち着いてきたことだし、このあたりが潮時だ。
とにかく、子供を助けたらいいんだよね?
ひとまず、男を追ってみるか。
ここからそう遠くもないし、何とかなるだろう。
グサッ!
「キャウンキャウン!!」
最後に残った魔獣の腹に、こっそりと剣をぶっさしてやった。魔獣は足がもつれてその場にうずくまる
「弱ってきたぞ!」
「この機を逃すな!」
「ひゃっはーっ!!」
その場の全員が、威勢よく魔獣へと飛び掛かる。その中に、テイラーの姿があることも確認した。彼も無事のようだ。
・・・今しかない。
皆が魔獣をタコ殴りする間に、僕はひっそりと崖を飛び越え、戦場から姿を消した。




